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珍獣インストール  作者: 喜納コナユキ
第二章・イア騒動編
21/117

十奇人会議

小説家になろうデビュー作です。

よろしくお願いします。

 Cエレベーター内は多くの人で溢れていた。

 移動できる人数が一時間で1000人程度と限られており、中心球への通勤に利用している人もいるため、混んでいる時間はエレベーター内にスペースは無いらしい。そして今がその時間帯なのである。


 ポロロロン。ポロロロン。

「ただいまをもちまして、乗り込みの時間を終了いたします。駆け込んでの乗り込みがないよう、スタッフは十分に注意してください」

 アナウンスが流れる。出発の合図だ。


 ウイーン。ガシャン。

 エレベーターの入り口のドアが完全に閉まった。そして動き出す。

 ヒューーーン。

 高速で動いているのが分かるが、僕たちに振動などは伝わってこない。


 ガシャン。

 足元がかすかに揺れる。これがユウガさんの言っていた180度の回転なのだろう。見ている景色がぐるっと回転した。僕たちが回っている感覚はない。

 回転が収まり、また通常の動きに戻る。


 そして、動き出して5分が経過したところでエレベーターは目的地に到着した。

「目的地、中心球・志の国エリアに到着いたしました。ご乗車されている方は身の安全に十分注意して、お降りください」

 到着のアナウンスが流れ、エレベーターから降りるよう促される。

 僕はアナウンス通りに降り、新たな地に足を付ける。


 ここが世界の中心「中心球」、誰もが憧れる大都会。

「もし合格したら、僕はここに住むことになるのかー」

 初めて来たということもあってテンションが上がっていた。冒険心がくすぐられる。



 大都会の景観に呆気にとられていると、一人の女の人が大きな声で呼びかけているのが耳に入った。

 バスガイドさんのような恰好をしている。


「八併軍アカデミー入学試験の受験者の方々はこちらに集まってください。ここからは私たちが試験会場までお送りいたします」

 そう言ったバスガイドさんらしき人の周りに多くの人が集まってくる。志の国から来た受験者たちだろう。

 その中にはクロハとススム君の姿も確認できた。


「やあソラト、まさか君が八併軍のアカデミーを受けるとはね。驚いたよ」

「ススム君! 実は僕も、あんまり実感が湧かなくて……」

 ススム君は僕にそう言った。

 彼は本音では僕の八併軍の入隊志望についてどう思っているのだろうか。意外とつかみどころがなく、彼の考えていることは分からない。


「皆さん。お集まりいただきありがとうございます。ここから試験会場の方まで案内させていただきます。八併軍レンジャー師団のヒノカと言います。よろしくお願いします」

 ヒノカさんは僕たち受験生に対してメガホンで自己紹介をし、ゆっくりと丁寧にお辞儀をする。


 ヒノカさんは一通りこれからの動きを説明した後、僕たち受験者に二列の隊列を組ませ先導しながら歩きだした。

 ヒノカさんの説明だと、僕たちはこれからバスに乗って丈の国の受験者たちと合流し、そこから二つのグループに分かれて理の国を目指すらしい。

 つまり、中心球は素通りするということだ。あぁ、観光したかったな。


 バスに乗って中心球の理の国エリアに到着した。

 僕たちの他にもバスの集団があるため、あれがおそらく丈の国の受験者たちを乗せたバスなのだろう。


 当たり前だが、八併軍アカデミーの受験者はこんなにも多いものなのか、と驚かされる。

 志の国と丈の国の二国だけで1000名程度はいる。これからさらに増えるというわけだから恐ろしい。


 一体何名が受けるのだろうか。そして何名が見事合格することができるのだろうか。こんな中で僕なんかが生き残れるのだろうか。

 心の奥底にしまい込んでいたつもりの不安な感情が、再びせり上がってくる。


「皆さん、いったん集まってください。理の国へはAとDの二グループに分かれて向かってもらいます。これから名前を呼びますので私たちの指示に従ってください」

 ヒノカさんがそう言って一人ずつ名前を呼び始めた。


 僕はDグループに振り分けられることになった。

 なぜAとDなのか、これに何の意味があるのだろうか。疑問はあったが考えても仕方がないので、指定されたバスに乗り込む。

 クロハやススム君とは別のグループに振り分けられた。


 隣の席の人は、銀髪で、力強い赤い瞳が印象的な、大柄な青年だった。

「どうしたんだ? そんな不安そうな顔してよ。今にもカエルでも吐き出してしまいそうだぜ」

 銀髪の青年が僕を気に掛ける。不安が顔に出ていたらしい。気持ち悪くなってきたせいか、相手の発言の後半の意味が全く分からない。


 そして、僕は気が付けば、カエルではなく別のものを吐き出していた。


「ほんげぇーーーーーー!!」

 銀髪の青年は、僕が聞いたこともないような声を出して窓際に張り付いた。


「いやーーーーーー!!」

「きゃーーーーーー!!」

「ぎょえーーーーーー!!」

 続いて、僕の周辺の座席の人達が奇声を発する。


 これはやった。やってしまった。やってしまったのだ。

 これが原因で僕は今後「雨森ゲロト」と呼ばれて生きていくに違いない。



「ぶわっはっはっはっはっは!」

 僕の隣の銀髪の彼は、タツゾウという名前らしい。


「乗り物酔いで気持ち悪くなるのは分かるけどよー、まさか発車する前に緊張で吐いちまう奴がいるなんて、俺はビックリだぜ! この先苦労しそうだなー。あっはっはっはっは!」

 彼の言うとおりだ。本当に情けない。僕はいつもこうだ。何かと上手くいかないことが多い。


「あはは……、ホントですよね……、自分が嫌になりますよ……。『ほんげぇーーーーーー!!』って驚かせてしまってすいません……」

 目を伏せながら、迷惑を掛けたことに対して謝る。

 特に意味もなく彼の驚いた時の声を真似したのだが、タツゾウ君は急にキリっと表情を変えて、エネルギー溢れる瞳をこちらに向けてきた。


「おっとそいつは黙っておいてもらおうか。俺のビックリ声広めたら、今後お前のことを『ゲロじろう』と呼ばざるを得ないぜ」

 彼なりにあの奇声は恥ずかしかったらしい。


「ひいー! それだけは! それだけは勘弁してください! 悪気があった訳じゃないんです! 気を付けますから……」

 言いふらさないことをここに固く誓う。


「はっはっはっは、冗談だぜ。あと同期なんだ、敬語はやめろよな。俺のこともタツゾウで良い」

 タツゾウの目は「はっはっはっは、冗談だぜ」の部分だけ笑っていなかった。多分本気で嫌なのだろう。


「うん、わかった。よろしくタツゾウ」

「おう。よろしくなソラト!」

 こうして、奇怪な出会いではあったが、僕に新たに友達ができた。


    ◇


 この俺フェンリルは、今本部の「十奇人会議室」にいる。


 ここはその名の通り、十奇人が集まり、様々な議題を話し合う場所だ。

 十奇人会議には総督や参謀も参加することになっており、重要な取り決めが行われる。


「おい、こんなんだったら俺が参加しようと参加しなかろうと、超絶変わらねーじゃねーか」

 俺は現状に不満を言う。


 さっきも言った通りこの会議では重要事項を話し合うのだが、何を隠そう十奇人たちの集まりが悪い。

 本来は、十奇人10人と総督・参謀合わせて計12人で行う会議なのだ。しかし今いる十奇人は俺含め4人で、参謀・ノロシマさんは来ているが総督がまだ来ていない。


「まあまあ、いつものことじゃん。いつも通り何とかなるでしょ」

 判が言う。


 チョウ・判は、俺の中で十奇人一のアホに位置付けられている女だ。

 常に何も考えておらず、他人に掛かる迷惑なんて考慮していない。俺も大分やりたい放題やらしてもらってはいるが、こいつ程ではない。

 だから今回の会議に判が参加していることに驚いた。


「いつも通り? お前、『いつも』を語れるほどいねーだろーが! 4回ぐらい会議すっ飛ばしただろ? いい加減もう少し参加頻度上げろよな。超絶むかつくぜ」


 俺は判を責める。

 判はカジノのバニーガールがしているようなカチューシャを付けているが、服装の露出は少なく、冬でもないのにオレンジのロングコートを羽織っている。見てるこっちが暑くなってくる。


「ほーん、私が出席しなかった回数覚えてたんだね。そんな細かいこと気にしてるから、いつまで経ってもタイヨウの背中追いかけることしかできないんじゃないの?」

 判が俺に対して嫌味ったらしく言う。怒りが一気に沸点に達した。


「テメーやる気ってんなら立てや、超絶ぶちのめしてやるからよ!」

「あらら、痛いとこ突かれて怒っちゃったの~? ク・ソ・ワ・ロ・タ」

「あんだと? 超絶全く全然これっぽっちも気にしてねえよ! これ以上調子に乗るようだったら手加減できそうにねえな」

「別にいいよ。私が弱いと思われてるなら心外なんだけど。あんたよりかは強いよ?」

「んなわけあるかよ! 超絶いい度胸じゃねーか。ぶっ潰す!」


 罵り合う俺と判を見かねたのか、ずっと黙っていたクログロスが口を開いた。

「おいおいこんなところで止めてくれないか。俺はお前らの喧嘩でとばっちりを食らうのは御免なんだがな」

 低く渋い声が会議室内に響く。


 クログロスは、黒い肌に鍛え抜かれた肉体美、そしてスキンヘッドが特徴の十奇人だ。

 パワフルな見た目に加え、サングラスまで着けているため、いかつさが増している。この見た目のためか部下たちは彼にあまり寄り付こうとしない。


 しかし、彼は個性的な十奇人たちの中では比較的まともな部類に入る。

 基本仕事には真面目で、十奇人会議も一度たりとも欠席したことは無い。


「もう会議の時間だ。これ以上メンバーが増える見込みもないんだろう? なら、とっとと始めて、とっとと終わらせましょうや」

 クログロスは時間に関してもキッチリしている。彼の身に5分前行動が染みついているのが分かる。


「私は少し、いや非常に残念ですね。毎度のことではありますが……。連絡はちゃんと皆さん方にお送りしたはずですがね」


 この十奇人たちの勝手な行動に不満を常に抱いているのが、クルーズだ。

 役所の職員を絵に描いたような人物で、黒のスーツにメガネを常に着用している、黒髪七三分けのスラリとした体形の男だ。

 十奇人のまとめ役であり、今回の会議のためのメンバー招集のように、十奇人たちへの伝達も彼が担当している。


「これではフェンリル君の言う通り、話し合いになりません。総督もいないというのはいったいどういうことでしょうか」

 クルーズが参謀であるノロシマさんに尋ねる。ノロシマさんは、「さぁ?」と両手を少し上げ、広げてみせる。


「今回の会議は、年に一度の重要なアカデミー入学試験についての話し合いだと言ったはずなんですがね」

 さすがに苛立っているようだった。なんせ10人もいて彼の言うことを忠実に聞いているのがクログロスしかいないのだから。


「来なかったメンバーには腹を立てていますけど、当然君たちにも話がありますよ。フェンリル君、判君。君たちの会議への参加率や、自由奔放な行動も大概ですからね」


 あーでたよ、クルーズの理屈攻めお説教タイム。

 本題に入れるようになるにはあと30分は掛かるだろう。


「クルーズだるーい」

「超絶同感だな」

 判と俺は口を揃えてそう言った。

お読みいただきありがとうございました。

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