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珍獣インストール  作者: 喜納コナユキ
第二章・イア騒動編
20/117

明朗快活少女

小説家になろうデビュー作です。

よろしくお願いします。

 ビテッロ町からバスに乗って、一度中心球の方へ行き、そこから理の国へ向かう。

 国と国を直接移動できる通路の建設は認められておらず、人、物、金など国から国への移動は全て中心球を通して行わなければならない。

 これは各国の首脳陣が会議を行って決めた国際規約の一つである。


 ガタン。ガタン。

「これより面移動を行います。ご乗車されているお客様は手すり等に掴まり、十分にご注意ください」

 バスの運転手さんが言う。


 この志の国は(他の国も同様だが)、立方体の形状をしているため移動する際には面から面への移動が必要になることがある。

 バスなどの交通機関が通るための「辺」には緩やかな「面越え橋」が設置されており、そこから面から面へと移動することができる。


「うわぁー」

 面越えをしたあと少しの間は、重力の急な変化に気持ち悪くなったりするのだが、1分ほど経てば慣れてくる。重力とは不思議なものだ。


 バスに乗ってから4日目(途中休憩も含む)、僕は志の国の首都である「ボルントック」についた。水の都とも言われる美しい街だ。

 それぞれの国の首都は大抵中心球に一番近い角の地域に位置している。このボルントックも例外ではない。


 それらの地域には、「Ⅽエレベーター」と言われる中心球に向かうための移動手段があり、1000人程乗ることができる巨大な床が同じく巨大な管の中をスライドしていく構造となっている。

 Cエレベーターは上りと下りの二種類あるため、二つの巨大な管がそれぞれの国と中心球をつないでいる。


 僕はバスを降りると、まず初めに宿を探すことにした。僕が予約したCエレベーターは明日の朝のものだったからだ。

 しかし、自分自身この街に来るのは初めてだ。田舎者なせいか周りの見たことのない建物やお洒落な通行人たちに怖気づいてしまう。


「恐るべし、都会」

 皆足取りが早く、時間か何かに追われているようだ。

 道の真ん中で止まったりしたら迷惑になるのだろうか。初めての地で、その地の常識が分からないというのはこんなにも怖いことなのか。


「流石に嘘かと思ったけど、お前、ホントに来たんだな。マジありえん」


 不安ゆえか、いつも嫌だったこの罵りでさえ僕に安心感をもたらす要素になる。

 いつも嫌だった……、あれ? この声は!?


「クロハ!! どうしてここに!?」

 声の主はクロハだった。彼女は都会の雰囲気にも負けず、堂々とそこに立っていた。


「試験受けに行く私がいちゃおかしいかよ。お前の方が場違いだろ。田舎もん丸出しじゃねーか」

 クロハも僕やススム君と同じくアカデミー入学試験の受験者だ。

 人々を守るために戦うイメージはないが、彼女の優秀さを考えれば妥当な進路選択だ。


「お前が一緒だと同郷の私まで舐められそうだ」

 辛辣な言葉を一方的に僕に浴びせた後、彼女は街の中に消えていってしまった。


「あはははは……」

 僕は苦笑いすることしかできなかった。

 これから行く場所全てが僕には不釣り合いな場所だと思う。僕自身がそのことを一番よく理解している。



「ねえねえ君君、お困りかい?」


 路頭に迷っている僕に誰かが声をかけてきた。

 振り向くとそこにはセーラー服を着た女の子が一人立っていた。

 僕と同じくらいの年だろうか。この街の学校の生徒なのだろう。


「初めてきた街なもので、右も左もわかんなくて……。宿を借りたいんですけど、どこかありませんか?」

 とても親切な人だ。僕のために足を止めてくれるなんて。


「ほうほうなるほどー。よし私が探してあげよーう。宿泊料金はいくらぐらいがご所望だい?」

 笑顔が素敵な明るい女の子だ。


 僕は財布を見る。

「できるだけ安い宿で……、一日泊まれれば良いので……」


「ふむふむ、具体的な料金が出てこないあたり、さすがは田舎の世間知らず文無しガキって感じだね。大丈夫、私に任せなさーい! きっと良い宿見つけてあげるよ!」

「ありがとうございます!」

 凄く頼もしい。

 今とんでもない悪口言われた気がするけど、全然気にならないくらい頼もしい。


 ヒューーー。

 美しい街の景観に合わず、今にも風で吹き飛ばされそうなオンボロ宿が一件。

 黒の制服を身に纏った彼女は、朗らかな顔を僕に向けながらこの宿に手を差し向ける。


「ほら、君にぴったり! 良い所でしょ!」

「は、はは……。そ、そうですね……。僕にぴったり……」


 彼女はこの街に詳しいらしく、僕にぴったりな安くて良い宿を教えてくれた他に、様々なことを教えてくれた。


「あそこの店のミートボールは絶品なんだよ。食べすぎ注意だけどね。あ、でもお金無いか。他にもセムラ屋さんっていうのがあって、セムラ専門店なんだけど、セムラはおいしいけど他のやつは超微妙って感じなんだー。あ、でもお金無いか。それでー…………」

 喋り始めたら止まらないタイプなのかぺらぺらと永遠に話している。ここまで長時間話せるとはすごい人だ。


 彼女の名前は「ユウガ」と言うらしい。

 この街の出身というわけではないが、用事等でよく訪れるようだ。


 宿も僕の財布に都合の良いところを見つけてくれたし、街中のレストランもご馳走してもらったのだ。食事の後も、ユウガさんに連れられて一日中街中を歩き回った。

 時折彼女から向けられる憐みの視線を除けば、とても楽しい時間を過ごせた。


「ユウガさん、何から何まで本当にありがとうございます。ユウガさんに会ってなかったら、今頃僕は宿無しご飯無しでどうなっていたことか……」

 彼女には色々とお世話になってしまった。僕は感謝の気持ちを伝える。


「良いって、良いって。びんぼ……、困っている人を助けるのって気持ちいいし、私も楽しめたから。ウィンウィンじゃない?」

 彼女は笑ってそう答える。貧乏人って言おうとしたことには突っ込まない。


「ソラトはどうしてこの街に来たの? クソいなk……、結構遠くから来たでしょー?」

 そういえば彼女への質問ばかりで僕のことを話していなかった。

 ほぼ「クソ田舎」と言いかけていたが、踏み留まってくれてありがとうございます。


「実は僕こう見えて、八併軍のアカデミーを受験するんです」

 恥ずかしい。あまりたくさんの人には言いたくないものだ。僕のこのナヨナヨした雰囲気はいつか変わることがあるのだろうか。


「へぇーすごいじゃん!! 君ごときが、ソラトがそんなすごい人なんて知らなかったよ!」

 もう取り繕うことを諦めた彼女は、目を輝かせてそう言う。


「いや、試験を受けに行くだけです! まだ受かったわけでもないですし……。誤解させてしまってごめんなさい」

 僕は即座に謝り、彼女の誤解を解こうとする。


「誤解なんてしてないよ。君みたいなちんちくりん君が、八併軍の戦士だなんて思う訳ないじゃん」

「へ?」

 今まで笑顔だった彼女の顔が、真剣な面持ちに変化する。

 さすがにもう少し包んでいただけないでしょうか。怖くて都会の方とお話しできなくなってしまいます。


「挑戦しに行くことがすごいことだって言ってるんだよ! 挑戦するための一歩が踏み出せない人なんて世の中たくさんいるんだよ。そんな中、君はその大事な勇気ある一歩が踏み出せたすごい人だってことさ!」

 本心からの言葉かは分からないが、彼女は僕の挑戦に対してポジティブな意見を述べる。


「挑戦する志が凄くない訳ないじゃん」

 少しだけ試験に対する勇気が湧いてくる。この言葉が嘘でないと信じたい。


「……ユウガさんは、何かに挑戦しているんですか?」

 挑戦に対して前向きな彼女は、今何か目指していることはあるのだろうか。あるとしたら、一体どんなことだろうか。単純な好奇心のみで尋ねてみる。


「えー、内緒だなー、ふひひひひ」

 彼女は無邪気に笑った。教えてもらいたかったが深入りはしないでおこう。


 その後、宿に戻る途中の帰り道でユウガさんと別れ、僕は宿に戻ってきた。

 もう完全に日が暮れている。歩き回りすぎてクタクタだ。



 翌朝、宿の目覚ましに起こされる。

 今日僕は人生で初めてこの国を出ることになる。その事実に、妙に緊張してしまう。

 出発の支度を整え、深呼吸をする。そして、外に飛び出す。


「見送りに来たよー! これでホントにお別れだね」

 外には何とユウガさんが立っていた。わざわざ僕の出発まで見届けてくれるらしい。


 Cエレベーターターミナルに着くまでに、ユウガさんとはいろいろなことを話した。

 僕が「ドラミデの悲劇」の生き残りであることや、それからの出来事などだ。彼女はとても驚いていた。

 

 彼女からはCエレベーターの豆知識を教えてもらった。

「Cエレベーターの床には重力を発する装置が付いていて、管の中で半回転しても、中の人が無事なようにできてるんだって。こっちとあっちじゃ着地する角度が180度違うからね」

 理の国で開発された技術らしく、それまでは航空機を使っての移動だったため、国家間の往来は少なかったらしい。


 しばらくして、僕たちはターミナルについた。ここでユウガさんともお別れだ。

「本当にいろいろありがとうございました。とても楽しかったです。何も返してあげられなくてごめんなさい」

 感謝の気持ちと恩を返せないことへの申し訳ない気持ちを伝える。


「ううん、昨日も言ったけど、私も楽しかったから全然良いよー。でもどうしてもって言うなら、今度偶然会ったときにご飯でも奢ってもらおっかなー。もちろん、お高いところでね。なーんて! ふひひひひひ!」

 彼女はあざとい表情で僕にそう言い、悪戯っぽく笑う。

「うっ……。ぜ、ぜひそうさせてください!」


 この出会いが僕の運命を大きく変えることを、この時の僕はまだ知らない。

お読みいただきありがとうございました。

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