旅立ち
小説家になろうデビュー作です。
よろしくお願いします。
縁とは、いつも思いがけず始まっているものなのです。
突飛な出会いも、ありきたりな出会いも、常に私たちでは予想することのできないものです。
だからこそ、繋がりとはかくも面白く、興味深い。
縁とはうまく付き合わなければなりません。
相性の悪い相手であっても、容易く切って良い縁などありません。むしろ、そんな相手との縁こそ、慎重になるべきなのです。
それがあなたたちに成長をもたらすこともあるでしょう。
しかし、大切に育んだ縁も、永遠と思ってはいけません。今ある縁に感謝するのです。
どれだけ大切にしようとも、いつかは終わりが来ますから。
◇
殺すなら一般人よりも偉人が良い。
何かを成し遂げた人間の散る様を見るのが俺の生きがいだ。
それに自分が関与していたとすると、なおのことその死が美しく感じられる。
俺の感性が狂っていて、この世に生きる多くの人間に共感されないのも理解している。
しかし、「死の美」を知ってしまった俺にはこの衝動を止めることはできない。
数えてはいないが、俺がこれまで殺害してきた対象は皆良い表情をして死んでいった。
死が迫ってくるという事実への恐怖の表情、死を免れたいがために媚びへつらう表情、聖人が豹変して様々な事実を暴露する様、逆に最後までイメージ通りきれいなままで死んでいく様、どれも美しく素晴らしい芸術作品だった。博物館に保管してもらいたいくらいだ。
このような世間一般目線での悪行を続けているうちに、俺の捕獲の依頼が国から八併軍に出された。
全国規模で指名手配書が出されたため、気付かぬ内に国際的な大犯罪者になっていた。
そんな俺だが、今とある国に来ている。
7か国の中でも最先進国とも言われる理の国だ。あらゆる分野での技術革新が著しく、国民の生活水準も高い。
そんな国ゆえ偉人も多く、人類の発展に大きく貢献している。
そんなこの国で近々「祭り」が催される。
俺はこの機に人類の秘宝とも呼べる偉人たちをなるべく多く狩りつくしたいのだ。
「ノータリン」と呼ばれる国家転覆を目的としている組織があり、今回はこのテロ組織に協力する形で活動する。殺し屋家業をやっているわけではないが、殺しの腕を買われて高額で雇われた。
カネには興味はないが、楽しめるのであれば構わない。
「キッチリしてるね~。こんなところにも俺の手配書がありますわ」
ここは理の国のあまり大きくない町の裏路地だが、こんな目立たないようなところにも自分の手配書があった。
『半人半骸の男! 見つけたら八併軍まで!』
◇
「行ってきます」
僕は、両親にそう言って家を出ようとする。
この僕雨森ソラトを含め、雨森家は今現在、ドラミデ町の隣町であるビテッロ町にて新生活を始めている。
ビテッロ町の人々が、親切丁寧にこの町のことを教えてくれたおかげで、生活に慣れるのにはそれほど時間が掛からなかった。
僕は先日、「新ドラミデ校」を卒業した。
あの惨劇を生き残った子供達のために、とビテッロ町長が設立してくれたおかげで、僕やクロハ、ススム君などの9年生計12名が今年無事卒業することができた。
この町の人々にはとても感謝している。
あの惨劇から約半年。
雨森家がドラミデ町を離れたのは、惨劇から一か月程度が経ったころだった。
その間、僕たちは生きるのに必死で、世間の状況やこの事件の反応などの情報は全くと言っていいほど入ってこなかった。
移住してきて初めて分かったことだが、どうやらドラミデ町で起こった大虐殺事件のことを世間の人々は「ドラミデの悲劇」と呼んでいるらしい。
このニュースは事件後瞬く間に世界に報道され、世界中の人々の注目を集めることとなり、多くの被害を出してしまった八併軍の失態として認知されることになった。
彼らはあんなにも僕たちに献身的に戦ってくれたというのに……。
しかし、ビッグニュースはこれだけではなかった。
「ドラミデの悲劇」の前日に、理の国の首都で爆破テロがあったらしい。
理の国は7か国で最も技術の進歩した国だ。聞いた話だが、防犯面でのセキュリティに関しても鉄壁を誇り、ここ数年の犯罪未然防止率は驚異の100パーセントらしい。
そんな国の首都でのテロは、人々の不安を十分に煽ることになっただろう。
実際僕自身もめちゃくちゃビビっている。僕は今からその理の国の首都に向かわなければならないからだ。
僕は八併軍のアカデミーに入学することにした。
入学することにしたとは言っても、まだ決まったわけではなく、むしろ入れない可能性の方が高い。
なんせ世界中の若者たちの憧れである八併軍だ。入りたいから入れるなんてそんな甘えた世界ではないのだ。
世界中から将来戦士として有望な連中が集まり、競い合い、アカデミー入学の座を勝ち取らねばならないということだ。そのアカデミーで1年の訓練期間を終えて、ようやく八併軍の正式な戦力として軍に入隊する。
そして、その試験会場が理の国の首都「イア」なのだ。
「どうした? そんなに暗い顔するな。あれから半年頑張ってきたじゃないか」
父・コスモに励まされる。
実際、僕はアカデミー入学試験受験者たちに劣っているであろうこと全てに力を入れ、半年間努力を続けた。主に体力面の強化だが、勉強だって今まで以上に取り組んだ。
体力トレーニングは、腹筋を朝と夜の一日2セット50回ずつ行い、ランニングを空いた時間で3キロ走ることを継続して行った。
昔から体が弱く、運動も苦手な僕にとっては非常にハードなスケジュールだった。周囲の同級生たちに比べて断然劣っていたのが、ちょっと劣っているくらいまでは成長したと思う。
でも……、それでも……。
「うん……。それはそうだけど、やっぱり受験者のレベルに達してないし、これだけやってここにいる皆にやっと追いついてきた程度じゃあ……」
弱音を吐く。当然だ。今の僕では、挑戦できるレベルにすら達していない。不安しかない。
「やれること全部やったんなら俯くな。自分を誇れ、少なくとも俺はお前が誇らしいぞ」
父の言葉に少しだけ勇気をもらった。
そうだ。やれるだけやったんだから、挑戦するだけして、ダメだったらそれはその時また考えればいい。
少しだけ前向きになれた。
「本当はウミとリクトにもお見送りさせたかったんだけど、二人共学校があるから来られないのよ。ごめんね。連絡、ちゃんとしてね」
母・佳月から心配そうにそう言われ、わかった、と返事をする。
実を言うと、母からは幾度も考え直すように言われていた。しかし、僕の気持ちは変わらなかった。
「それじゃあ、行ってきます!」
今度は胸を張って元気良く言う。
合格したら、ここには当分帰ってこないのだ。
◇
「行っちゃった。まさかあの子も同じ道を行くなんてね」
佳月は数年前を思い出しながらそう言った。
「あの時はあんなに怒っていたのに、今回は割とすんなり受け入れたなあ」
コスモは当時の彼女と比較する。
当時、彼が目の当たりにした佳月は鬼のようであった。普段の彼女からは、到底考えられないような怒り具合だったのだ。
「だって、あの子のあんなに頑張る姿見せられちゃったら、本当は反対なんだけど、さすがに怒鳴る気は起こらないわよ」
佳月は命の危険がある職業を極端に嫌っていた。
「良い顔するようになったもんな」
コスモは、厳しいスケジュールをこなしているときのソラトの真剣な表情を思い出す。
似ていないと思っていたが、その時の顔が兄にそっくりであった。
お読みいただきありがとうございました。




