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珍獣インストール  作者: 喜納コナユキ
第六章・宙海の恩寵編(前編)
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秘宝

小説家になろうデビュー作です。

よろしくお願いします。

 ランチ内コックピットエリア、操縦室にて―――


「珍獣『レヴィアタン』との遭遇後、ディナーのパイロットと連絡が取れない。待機組の報告だと、敵艦襲撃組は何があったか知らないが、パイロットを含めた辻さん以外の戦士全員が動けないとか。ということは、残るパイロットは俺だけか」


 ランチの操縦を一人託されたパイロットは、待機組の報告を受け、フライトシステムを稼働させる。

 進路を本来の目的地「宙海生態研究所」に取ると、大人数を乗せた鉄の要塞を、海賊艦から離れるべく発進させた。


「とにかく今は、ダリオスさんの指示通り、ここを離れよう」

 彼は、本来複数人で行うランチの操縦を、たった一人で行わなければならないことに、少なからず重圧を感じていた。

 下ろしたレバーを強く握りしめ、レーダーに表示された目的地までの道のりを見据える。


 そんな折だった。

 プルルルル、プルルルル。

 操縦室の固定通信機器が突然鳴り出す。

 心臓に悪い大きな音に、パイロットはビクリと体を跳ねさせた。


「はい、こちらコックピットエリア、操縦室。ご用件は?」

『麗宮司レイアと申します。戦闘機「ファスト」を1機お借りします』

「はい、……はい!?」


 通信相手の奇想天外な申し出に、パイロットは相槌を入れた後、不意を打たれたような素っ頓狂な声を上げる。通常よりも半音上がった間抜けな声は、室内に反響した。


『とは言え、もうすでに拝借しているので、これは申し出ではなくただの報告です。これからこの戦闘機で、私たちは海賊艦に向かいます』

「なんですとおおお!?」


 さぞ普通の事であるかのように、通信先の声は淡白に告げる。

 予想外の通信相手から予想外の事件を知らされ、パイロットは、その驚きを喉が焼ける程の声量で表した。声を先程よりも強く室内に反響させると、あまりの事態に思考を停止させる。


『攫われた友人を助けに行きます。私たちのことはお気になさらなくて結構です。戦士の皆様の迷惑にはなりません』


 そう告げた後、返事も待たずに通信は切られる。

 茫然と固まったパイロットの荒げた息だけが、その場に時の動きをもたらしていた。



 海賊艦にて―――


 艦内に取り残された辻は、まだ少し揺らいでいる視界の中に、他の扉とは明らかに雰囲気の違う、大きな木製の両開き扉を映す。

 リング状の取手に手を掛けると、一度深呼吸を挟み、ゆっくりと押し開けた。


 艦長室は、鉄色の殺風景な他の箇所とは異なり、味のある木の壁に囲われ、部屋の奥にある大きな丸い窓が宙海の青を映し出している。

 上品なシャンデリアの暖かな光が、優しい空間を作り出していた。


 窓の前に立派な椅子が一つ、扉に背を向ける形で佇んでいる。

 黒いキャプテンハットが、椅子の上から僅かに覗いていた。

 辻には、そこに腰を掛けている人物が誰なのか、顔を見るまでもなく容易に想像がつく。


「さすがに、そっちの隠し玉には驚かされた」

 ろくに正体を確認することもなく、相手を決めつけ、第一声を発する。


「サスガニ、ソッチノ隠シ玉ニハ驚カサレタ」

 丸い大窓の側に置かれた鳥籠(とりかご)の中から、オウムが辻の声に反応し、同じ言葉を反芻する。


 挨拶代わりのそのセリフの後、ややあってから大艦艇の主は椅子を回転させた。

 その姿を戦士の前に晒す。


「ビッグサァプラーイズ! 楽しんでもぉらえたかな?」

「まあな。タイタンの存在には、誰もが色んな意味で心を躍らせる」


 辻は腰に携えてある(さや)から剣を抜く。

 トリトンは椅子に背をもたげながら、左目を眼帯の下で鋭く細めた。

 無言の緊張感が漂う。


「頭と胴を分けるんで、覚悟、海賊艦長」

「部隊長・辻二軍。君が残るこぉとは想定済みさ。ただ、俺様には敵わぁない」


 剣を構える辻を前にして、トリトンは椅子から立ち上がると、右手を宙に差し伸べる。

 すると、鳥籠に収まっていたオウムが、片翼を外に出して鍵を外し、ひとりでに扉を開けた。その身を籠の外に投げやると、主人の差し伸べられた腕を目掛け、翼で宙を扇ぐ。


 オウムがトリトンの腕に止まったその瞬間、辻はその鳥の頭部に異変を感じた。

 目を凝らしてよく見てみると、オウムは、鳥のような様相であるにもかかわらず(くちばし)を持ってない。

 それどころか、その顔は鳥類のものではなく霊長類(れいちょうるい)のものである。


「珍獣装備『猿真似(さるまね)オウム』」


 不気味な風体の猿面鳥は、「キッキッキ」と小馬鹿にして笑うような鳴き声を上げると、光を放ちながら武器へと変貌した。

 トリトンの手元に、全体を苔生(こけむ)したような(うぐいす)色で主張する、P字形状の(つか)のレイピアが現れる。

 その刀身と柄の接合部にて、印象的な猿の赤い面が、安らかに目を閉じていた。


「八併軍、知りたぁいかね?」

「何をだ?」


 戦闘態勢が万全に整った段階で、トリトンは静かに殺意を向ける戦士に対して、おちょくるような表情で尋ねた。

 辻はその質問に質問で返す。


「宙海のぉ秘宝のぉ在処さぁ」

「突き止めたと?」

「まぁあね」


「信じがたいな。秘宝の在処が分かるのは、明石博士の話では、後何万年も先の未来のことだそうだが」

「はぁーっ、はっはっは! そういうのは、科学技術の進歩とやぁらで早まったりするもんだろう? 俺様にとっては、それが有能な味方の加入だったわぁけさ」

 その話を聞き、焦燥(しょうそう)の表情を浮かべる辻と対照的に、トリトンは高笑いの後、愉快そうに含み笑いを浮かべる。


「宙海は俺様の庭さ。海の勝手を知ってぇいる分、秘宝を探すたぁめの研究は(はかど)った」

「加入した有能な味方っていうは、副艦長レヴィア・青瀧のことだな?」


「あいつは身体の内に、海竜を飼ぁっているのさ。シンビィオシスの連中と同じでね。おかげで、水中でぇの研究や、宙海に生息する凶暴な珍獣にも恐れることなぁく、伸び伸び秘宝の在処を探せたよ」

 トリトンは片手を腰に、天井のシャンデリアを仰ぐと、自身の部下について得意げに語った。


「俺様とこぉこで戦う意味が、分かったかな?」

「まあな。どのみちここで殺すんだ。俺の意思も覚悟も変わりはしない」

 決して力強くはない口調で、辻は覚悟を口にする。


「世界を揺るがすキューブの秘宝『芯玉(しんぎょく)』。その対となる宙海の秘宝が見つかり、加えて海賊の手に渡ったとなれば、人類史もここまでだ。負けるわけにはいかない」

「負けらぁれない戦いに、敗北をプレゼンツ!」


 辻は、若干緩んだ剣の構えを正す。

 トリトンも、自身の持つレイピアを相手に差し向けた。


『麗宮司流剣技・氷花両断(ひょうかりょうだん)


 辻の剣技が炸裂(さくれつ)する。正確無比な上段からの一振りが、トリトンを襲う。

 後方に素早くスライドし、その攻撃を難なく回避したトリトンは、辻と同様に、レイピアを上方に振り上げた。


 すると珍獣装備「猿真似オウム」は、大きい針のような形状のレイピアから、切れ味の良さげな剣の形状へと変化する。


『麗宮司流剣技・氷花両断』

 麗宮司の剣技を学んだはずのないトリトンが、辻と全く同じ動きで、ひとつ前に繰り出した彼の剣技を披露する。


 辻は気味悪がって顔をしかめると、相手の上段斬りを横に流した。

模倣(もほう)か。まさか武器の形状まで変えられるとはな」


 戦士が持つ常識としては、珍獣装備の形状は変えられない。

 珍獣と契約が完了した際、一度思い描いた武器の形状で固定されるはずなのだが、トリトンの持つそれは、辻の常識から外れていた。


『麗宮司流剣技・雪貫』

『麗宮司流剣技・雪貫』


 カアアアン!

 今度は突き攻撃を選択した辻だったが、これも再びのオウム返しを受ける形になる。

 刃の切っ先同士が、爽快な金属音を奏でて衝突した。


「たぁしかに実在したよ、宙海の()()。君はそぉの姿を拝めずに死ぬがね」

「『ウミヌシ』か、世紀の大発見だな。じゃあ、お前は野望の一歩手前でくたばれ。後は俺らが継いでやる」


 二人が見合う中、辻の背後にある出入り口の扉がおもむろに開く。

 軋む音を強く短く響かせる慌ただしい開扉(かいひ)だった。


 トリトンは勝利を確信したようにニヤリと口角を上げる。その笑みを見た辻は、身の危険を感じて後ろを振り返ろうとした。

 しかし、扉が開いてからの刹那(せつな)、辻の首元にヒヤリとした感触が広がり、その冷気が彼に振り返ることを許さなかった。


「武器を手放し、両手を挙げてください。さもなくば、この三叉槍があなたのうなじを貫きますよ」

「こいつが有能な新入りって奴か……」


 扉の先から現れたレヴィアは、侵入者の首筋に青の三叉槍を添わせる。

 辻は剣を手放し、床に落ちた鉄の音が、彼の投降の意思を示した。


 レヴィアは、辻の両手を後ろに組ませ、重厚な手枷を嵌める。

 硬く重い枷は、マナの流れを扱う戦士からも自由を奪った。


「トリトンさん、八併軍の戦闘機ディナーとファストをパイロット諸共破壊しました。戦闘機ランチは、ここを離れて目的地へ向かったようです」

「ごぉくろう、レヴィア。彼らはトカゲの尻尾切りを行ぁったわけだね。獲物を取り逃がしたのは痛いけど、部隊長を捕ぁえたのはデカい。これで八併軍も下手に宙海へは来らぁれなくなる」


 任務を終えて帰還したレヴィアに、トリトンは労いの言葉を送る。

 彼らは、敵の最高戦闘機ディナーと戦闘機ファスト3機の計4機を破壊し、戦士たちを艦内に閉じ込めることに成功した。


「ランチ内も制圧して、燃料や食料も奪うつもりだったんですけど、向こうには十奇人ダリオスがいました。やむを得ず、ガチキチさんを回収して引き返しました」

聡明(そうめい)なぁ判断だよ。ガチキチ君はどこに?」

「タイタンさんのところに行きましたよ」


 レヴィアはトリトンに、事の顛末(てんまつ)と客人の行方を伝える。

 二人の会話に、拘束された辻が反応した。


「俺がいなくなったところで、八併軍は宙海への進軍をやめたりしない」

「いいや、部隊長の戦力は大きい。八併軍としても、そう簡単には失ぁえないはず。となれば、宙海の危険度の認識を改める良い機会になぁるのさ。はぁーっ、はっはっはっ!」


 辻は奥歯を噛みしめる。トリトンは天を仰いで高らかに笑う。

 戦士と海賊に明暗がはっきりと分かれた。


「八併軍さぁえいなくなれば、宙海の秘宝はこのトォ~リトン様のものだ」

お読みいただきありがとうございました。

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