同乗
小説家になろうデビュー作です。
よろしくお願いします。
「かふううう!」
「よーしよしよし、ソラトがいない間は、メーちゃんが肩貸してあげちゃう!」
カブ太はメンコの肩の上で、顔をスリスリと彼女の制服に擦りつける。
その仕草は、最大限の懐き度と好感度がある者にしか見せない、巨人カブの愛情表現であった。
麗宮司レイア一行は、1階からエレベーターで0階へと下りる。
フロアに降り立ったレイアを筆頭に、一同は速足で先に進んだ。
エレベーターから伸びた長いスロープを下った後、戦闘機を収納するための格納庫が5機分並んでいる。格納庫の正面には、発射口と思われるゲートが静かにその口を閉じていた。
格納庫を手前から順に確認していく。
しかし、一つ目、二つ目……と空の倉庫が続き、四つ目の格納庫まで戦闘機は姿を見せない。
レイアは焦りを顔に滲ませる。戦闘機を収納している可能性のある格納庫は、残すところ最後の一つとなった。
「あーっ! あったよ!」
最後の一つを走って見に行ったメンコが、一同に朗報を伝える。
「よっしゃ、これで行けるな! ソラトのところによ!」
「……良かったです」
大きくガッツポーズするタツゾウの側で、レイアはホッと胸を撫で下ろした。
しかし、ここに来てある問題が浮上する。
それは、ファナの一言によって、その場の皆に共有された。
「しかし、一体誰が操縦するのですか? この場にパイロットなんておりませんが……」
その発言に、誰一人として答えることはできず、作戦の提案者であるレイアですら目を瞑って考え込む。
「誰かが、やってみるしかないわね……」
「あのレイア様が、あのレイア様が、こんなギャンブル染みたことを……」
レイアの回答に、ファナは瞳孔を開きながら体を細かく震わせる。
「はいはーい! メーちゃんやりたい!」
「待てよメンコ、ここは俺の出番だぜ!」
名乗り出るメンコとタツゾウに対し、ファナは表情をそのままに訝しげな視線を向けた。
「お二人とも、操縦経験があるのですか?」
懐疑的な視線とともに、二人に戦闘機の操縦歴を尋ねる。
「いや、そんなのねえよ」
「やったことないから、やってみたい!」
「チッ、却下に決まっているでしょう。何が悲しくて、あなたたちにレイア様の命を預けなければならないのですか」
タツゾウとメンコの楽天的な答えに、きちんと聞こえる舌打ちをした後、ファナは二人の操縦に猛烈に反対する。
話はまとまらず、時間だけが過ぎていった。
上階で行われている戦闘の衝撃が、一つ下の階であるここまで届いており、天井が崩れてくる心配も出てくる。彼らは決断を急かされた。
格納庫前の廊下で騒ぐ一同の元に、収納された戦闘機の陰から、足音が一つ近づいてくる。
足音の主は、その影をレイア達の前に現すと、音と動きをピタリと止めた。
「やあ、待ってたよっ」
人影は、爽やかな声と共に登場する。
目立つ橙色の髪の下に、美しい顔で微笑みを浮かべている。
「話は聞かせてもらったよっ。大丈夫、心配いらないさ」
「サニ!? お前こんなところで何やってんだ!?」
おもむろに登場した美少年サニ・フレワーに、タツゾウは驚きの感情をそのまま声に出す。
レイア達は状況を飲み込めず、その場で固まったまま、彼の説明を待つことしかできなかった。
「君たちに、助っ人を用意しておいたんだ」
そう告げたサニの元に、いくつかの足音が集まってくる。
複数の人影が、サニと同様に戦闘機の陰から姿を現すと、美少年の背後に集結した。
「クロハに、雅スミレ!? 一体なぜ!?」
「それだけではありません、レイア様。クレネット・ガーベラ、そしてリリィ・コーン。アルファ・クラスの問題児が集結しています」
その顔ぶれにレイアは目を丸くする。
そんな彼女に、ファナは追加の情報を淡々と告げた。
「トラッ!? なんでお前がいるんだよ!?」
タツゾウは、自分とよく似た顔の青年を見つけると、驚嘆の声を上げる。
瞳は同じ赤色であるが、エネルギー溢れるタツゾウの目とは違い、彼の目はどこか疲れているような雰囲気を感じさせる。加えて、髪色も銀ではなく銅色であった。
「見てよタツゾウ! あれ、アカデミー試験の時にいたジュガイ・残菊だよ!」
メンコは、集団の一番後ろに立って尚、その存在感を主張する大男を指さした。
ソラトやタツゾウらと共に、アカデミー試験を受験した実力者である。
それぞれが一通りのリアクションを見せた後、一人、後方集団から抜け出してくる者がいた。
彼はレイアの前まで来ると、片手を前に差し出す。
「麗宮司レイアさん、俺たちも作戦に協力させてください」
「……あなたは、ベータ・クラスの委員長、登竜門ススム」
「覚えていてくれて嬉しいです」
レイアは、前髪を切り揃えた黒髪の少年の名を告げる。
彼女は困惑したまま、差し出された手を握り、握手に応じた。
「俺にとっても、ソラトは友人なんです。あなたの乗る機体に、俺も乗せてください!」
ススムは真っ直ぐな眼差しをレイアに向ける。
レイアは突然の事態に戸惑いこそすれど、彼の本気の思いだけは確かに感じ取った。
「……わかりました。こちらとしても、追加の戦力はありがたいのです。断る理由はありません」
「共に、ソラトを救いましょう!」
二人が握手を交わし、全員がそれを見守る中で、サニは一人、格納庫にある戦闘機の方へと歩を進める。
機体の扉まで続く階段を上り、その扉を開くと、廊下にいる全員に声を掛けた。
「時間も惜しいわけだし、行こうか。出発の準備も整っているしねっ」
作戦参加者各人が、戦闘機「ファスト」の座席に着く。
操縦席にはクロハが座り、助手席には雅スミレが腰かけていた。
「みやびんパイロット志望でしょ? なんで助手席?」
「クロハの方が上手だから……、私はサポート」
「う~わ、みやびんのアイデンティティまで奪うのは、さすがに引くわ~」
リリィの疑問に、雅は複雑そうな表情で答えた。クレネットは苦笑を浮かべる。
クロハと雅以外の二人は、操縦席に近い一番前の席に座った。クロハグループは機体前方を占有する。
「俺たちは同じベータ・クラスだ。残菊君、俺は君に、クラスの仲間として心を開いて欲しいんだ!」
「うるせえ! 暑苦しいんだよ、近寄んな! とっとと失せろ!」
群れることを嫌うジュガイ・残菊は、最後尾の座席に一人で横たわる。彼は、自分の懐に入り込もうとしてくるススムを邪険に扱った。
そんな二人を他所に、銅髪の青年は無口に窓の外を眺め、窓枠に肘を付いて黄昏れている。
ベータ・クラスの三人は、機体後方にて到着までの時間を過ごす。
「直接お会いするのは初めてですねっ」
「はい。アルファ・クラスの麗宮司レイアです。この度は、助太刀感謝いたします」
「イプシロン・クラスのサニ・フレワーです。会えて光栄です、レイアさん」
機体の中央部にて、レイアとサニは握手を交わす。
レイアには、彼の行動に対して疑問がいくつかあった。
「あの、尋ねてもよろしいですか?」
「なんでも聞いて下さい。僕の答えられる範囲であれば、なんでもお答えしますよっ」
無表情のレイアに、サニは爽やかな微笑みを向ける。
「サニ、お前どうやってこの作戦のこと知ったんだよ? 俺たちは誰にも言ってなかったんだぜ?」
レイアの疑問を、タツゾウが割り込んで代弁する。
サニは、レイアからタツゾウの方へと視線を移した。
「君たちの話し声が、たまたま聞こえてきてねっ」
「……それは、嘘ですね?」
サニの回答を、レイアは一刀両断する。
「私たちは、この作戦をつい先ほど思いつき、流れるようにこの格納庫へやってきました。あなたがもし本当に、私たちの話を聞いてここにいるのだとすれば、私たちが1階からこの0階へ下りてくるまでの間に、メンバーを集めて戦闘機の準備まで整えていたことになります。こんな短時間では、それは不可能です」
「…………」
矛盾点を的確についてくるレイアに、サニは微笑みを浮かべたまま沈黙した。
「あなたがこの場にこのメンバー全員を集め、私たちを待ち受けているためには、私がソラトの救出作戦を思いつくよりも早く、あなたはこの作戦について知っていなければならないのです」
サニの行動が、いかに不可解極まりないことであるかを証明したレイアであったが、タツゾウやメンコは顎に手を添えて首を傾げる。
「メーちゃん、あんまり分かんないや。天才だからかな?」
「レイア、俺もよく分かんねえけど、サニは悪いやつじゃないぜ?」
サニにとって、少し居心地の悪い空気になっていることに気が付き、タツゾウは彼を庇うような言動を取る。
「タツゾウ、あなたが情に厚い人間だということは知っています。しかし、彼の取った行動を事実から推察してみると、ある仮説が浮かび上がるのです」
レイアは、勘ぐるような冷たい眼差しをサニに向けると、彼女が自身の中で結論付けた答えを、迷わず言い放った。
「その仮説とは、サニ・フレワー、あなたが事前にソラトが誘拐されることを知っていたというものです。あくまで仮説にすぎませんが、これならあなたの動きに説明が付きます」
「レイア様、それはつまり……」
レイアの仮説が意味するところを理解したファナは、主と同じような冷ややかな視線を容疑者に向ける。そして、小さくボソリと零した。
「敵との、内通者……」
「てめえ! そんな訳ないだろーが!」
タツゾウはファナの眼前に立ち、威圧感溢れる赤い瞳で睨みつける。
「じゃあ、もし仮に僕が内通者だとして、一体何のメリットがあってこの作戦に手を貸すんでしょうか?」
「それは……」
一通り聞き終えたサニは反論に出る。レイアは答えることができなかった。
彼の微笑みは、最初の方から少しも崩れてはいない。
「私には分かりません。ですが、あなたの早すぎる行動、そして嘘をついたこと、この二つの要素は十分疑うに値します。それとも、説明できるのですか?」
レイアのサニを見る眼差しは、山葵間に向けるそれとほとんど大差ない。
猜疑心を拭えないでいるレイアの問いに、サニはいつもと変わらぬ爽やかな声で答えた。
「……夢ですよっ。信じてもらえるとは思えませんが」
「夢?」
レイアは、サニの口から出たワードを反芻する。
「予知夢のようなものですねっ。夢のお告げとでも言うんでしょうか。ソラトが誘拐されるところを見たんです。信じてもらえないと思ったので、嘘をつきました。謝りますよっ」
「…………」
あまりに突拍子もない話を受け、今度はレイアが沈黙に沈んだ。
「おい留年寺、もう発進しても良いのか?」
「…………」
レイアはサニを見据えて考え込む。
操縦者であるクロハの呼び掛けは、彼女の耳を右から左へと通り抜けていった。
「おい!」
「……! 私ですか?」
「あんたがこの作戦の立案者だろ?」
二度目の呼びかけで、レイアはハッと意識を現実に戻す。
そして彼女は、今自分がこの場でどのような立場であるかを認識した。
「ええ、ファストの発進を許可します。目的地は、トリトン海賊団の海賊艦『オーシャンスケール・サブマリン』。皆さん、戦場へ赴く前に、きちんと心の準備をしておいてください」
リーダーは、戦士の心構えを備えておくようメンバーに言い聞かせる。
キュイーーーン。
ファストが高い音を上げて、エンジンを稼働させた。閉じていた戦闘機の発射口が、徐々に開いていく。
完全にゲートが開き切ったところで、クロハは宙海に向けてファストを動かした。
少年少女12人と珍獣2匹を乗せた機体は、運命という名の導を進む。
その先に紡がれる物語が、彼らの予期せぬものであったとしても、導は止まることも、逆行することも許さない。
彼らは同じ船に乗ってしまった。
各々抱く意思は違えども、辿り着く地は同じである。
お読みいただきありがとうございました。




