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珍獣インストール  作者: 喜納コナユキ
第六章・宙海の恩寵編(前編)
112/117

勇者に

小説家になろうデビュー作です。

よろしくお願いします。

 ランチ周辺、海中にて―――


「こちら、ディナー操縦席! 前方に巨大な海竜を発見、迎撃する!」

『了解! ランチからも援護射撃を行う!』


 戦闘機「ランチ」に迫る海竜を確認し、近辺で待機していた最高戦闘機「ディナー」の操縦者は、戦闘態勢に入ることをランチ操縦者に伝える。


 バババ! バババ!

 全翼型(ぜんよくがた)戦闘機ディナーの、翼の下部から射出口が現れ、水中戦専用の弾が海竜目掛けて放たれる。

 その攻撃に続く形で、ランチの巨大な機体を浮かせる、同じく巨大な翼からも追撃の弾丸が放たれた。


「キギャオオオン!!」

 海竜は、二機の戦闘機から放たれた射撃を全て躱した。

 水中にて、その巨体からは想像もつかないようなスピードで、ディナーとランチの照準をかく乱する。


「くそっ! ディナーで動きが捉えられないだと!?」

『あれは宙海の珍獣「レヴィアタン」だ。こんな時になんて間の悪い!』

「違う! あれはどう考えても、トリトン海賊団の珍獣だ!」


 高速で弾丸の合間を掻い潜り、水棲(すいせい)珍獣「レヴィアタン」は、ディナーを撃ち落とすべく接近する。

 大きな口を開き、鋭い牙をパイロットに見せびらかした。翼目掛けて力強く噛みつく。


 しかし、ディナーは、その牙による攻撃を素早く鮮やかに回避した。レヴィアタンは、実体の無い宙海の水だけを噛む。

 両者ともに機動力に優れ、決め手に欠ける結果となった。


「キギャオオオン!! グゲェア!」

 おもむろに、レヴィアタンがその口から、棒状の何かを水中に吐き出そうとする。

 上顎と下顎に生え揃った鋭い牙の狭間(はざま)から、一部飛び出た棒状の何かは、喉のどこかにつっかえた様子で中々全容を見せない。


「なんだ?」

『気にするな! 動きが止まった今がチャンスだ! 撃て!』


 ディナーのパイロットは異変に気が付くも、ランチのパイロットに射撃を促されたことによって、ハンドルに取り付いた発射スイッチを押す。

 ランチのパイロットも、絶好の好機と見るや否や、射出口から十数発の魚雷を発射した。


「グ、グ、グゲェア!」

 ディナーとランチの攻撃の瞬間、レヴィアタンは棒状のもの全体を口から出し、水中に浮かぶそれを、うねる長い体から生えた小さな腕で掴む。

 海竜がその手に取ったものは、刃が先端の方で三つに枝分かれした、涼しげな青の三叉槍(さんさそう)であった。


 ディナーから発射された弾丸を全てヒラリと躱すと、海竜は迫る魚雷の群れに三叉槍を向ける。

『なんだあれは!?』

「あれは……、特殊装備!? でも、なぜ珍獣が使えるんだ!?」

 ディナーのパイロットは、海竜が手に持つ武器の正体を、そのマナの流れから察する。


 レヴィアタンは、特殊装備である三叉槍にマナの流れを宿し、異能を発動した。

 珍獣であるにもかかわらず、海竜は特殊装備を振り回す。


 振り回された三叉槍は、次第に周囲の水の流れに影響を与え始める。

 レヴィアタンの周りを取り囲むような激流が、魚雷群を巻き込みながら大きな渦を巻いた。


『今すぐそこを離れろ!!』

「わかっている!」


 大きなエネルギーを感じ、咄嗟にその場を離れようとしたディナーのパイロットだったが、その時点では時すでに遅し。

 レヴィアタンの反撃準備は完了しており、大渦目掛け、海竜の大きな口から激流の咆哮(ほうこう)が放たれる。


「キギャオオオオオオン!!」

 激流の咆哮と大渦が合わさって、ディナーはもちろん、巨大戦闘機であるランチにまで覆い被さるような、超広範囲の水流攻撃が繰り出された。

 加えて、十数発の魚雷も押し流され、自らが撃った強力な攻撃手段を、絶大なるカウンターで返されることとなる。


「なにいいい!?」

『マズい!? 直撃だ!!』


 ゴオオオオオオ!! ドゴーン!! ドドーン!! ズドドーン!!



 ランチ内部、1階大食堂にて―――


 レイアとタツゾウは、山葵間の「目」が無くなった途端に、ソラトと山葵間が入っていった鉄の塊の中に足を踏み入れる。


「……誰もいません」

「クソッ! 骸骨男、ソラトをどこに連れて行きやがった!?」

 しかし、彼らが辿り着いた時、すでに中身はもぬけの(から)であった。


「ここって、一体なんなんだよ?」

「おそらく、トリトン海賊団の潜水艇でしょう。侵入してきた二人は、敵の海賊艦からやってきたと推察できますね」


 タツゾウの疑問に対して、レイアは、内部に操縦パネルとハンドルがあるのを確認すると、衝突時の衝撃でボロボロになった鉄の塊について言い当てる。

 さらに彼女は、操縦パネルの端の方にある赤い「緊急」ボタンを見つけた後、奥の方で宙海へと開かれた扉に視線を向けた。


「潜水艇であるにもかかわらず、席がない。山葵間はソラトを連れて、緊急脱出ボタンで外に逃げたのでしょう」

「外って、どこに逃げたってんだよ!?」

「遠くに逃げたとは考えにくいですね。となると、トリトン海賊団の本艦……」


 ソラトの行方について推理し終えると、レイアは早い足取りで潜水艇を後にする。

 タツゾウも彼女に続いた。


「ソラトは、そこにいるんだな」

「ええ、おそらく」


 二人は潜水艇から出ると、大食堂にいるとある人物の元まで急ぐ。

「でもその前に、彼女にはきちんと言っておかなくては」

「それはまあ、なんつーか……、しょうがねえよな……」


「あれ? 私、なんでこんなところに?」

「俺って何してたんだっけ?」

 山葵間の異能が解除され、正気を取り戻した研修生たちは、自分の身に起こったことが理解できず、そのほとんどが戸惑いを隠せない様子でいた。

 1階だけでなく、2階、3階……と山葵間によって操られていた研修生が意識を取り戻した場所では、同じような困惑の声が多く聞こえてくる。


「何か言うことがあるのではないですか?」

「お腹が、空いたよ……?」

「違います」


 騒ぎを起こした元凶の一人であるメンコは、レイアを前にして、綺麗な正座の姿勢で説教を受ける。

 幸いなことに、死者が出なかったためまだ良かったものの、万が一死人が出ていれば、単なる説教で済むなんてことはない。


「私ではなく、主に迷惑を掛けた皆さんに」

「……ごめんなさい」

「はあ……、後で、研修生と戦士の皆さんの全体に対し、誠心誠意深い反省の意を込めて謝罪を述べてください」


 深いため息をついたレイアは、目にウルウルと涙を溜めるメンコに、変わらず厳しめの口調で言い放つ。

「泣いたって誰も許してはくれませんよ」

「ううぇっへ~ん! やだよ~! 皆の前で謝るなんてやだ~! 絶対皆怒ってるよ~!」

「離れてください」


 メンコは溜めた涙を堪えきれずに溢れさせながら、レイアの脚にしがみつく。

 側で見ていたファナは舌打ちをしながら、主の膝元から離れようとしないメンコを引き剥がすべく、彼女の制服の襟元(えりもと)を掴んで引っ張った。メンコの鼻から鼻水が垂れる。


「離れなさい、今すぐに。この無礼者。あなたの品性の欠片も無いような顔を、レイア様の高貴な脚に擦りつけないでください」

 力強く引っ張るファナ、それでも一向に離れようとしないメンコ。

 そんな様子を見兼ねたレイアは、再びため息をついて、赤髪の問題児少女に告げる。


「……わかりました。謝罪の言葉は一緒に考えます。私も辻さんの指示を破ってここにいますので、人に言えた口ではありません。だから泣くのをやめて、私の脚から離れてください」

「……ホント? やった! レイア、優しい!」

 メンコはレイアの顔を見上げると、泣いていた時とは打って変わって、満面の笑みをその顔に浮かべた。


 少し離れた位置で様子を見ていたタツゾウは、メンコが無事解放されたことに安堵するも、同時にいなくなってしまった親友に思いを巡らせる。

 サイコサウルスは「ぐうぇへっへっへ」とトラブルメーカー・メンコの所業にしゃがれた笑い声を上げた。

 カブ太だけは、よく分かっていないようなキョトンとした顔で首を傾げている。


「まったく、こんなことをしている場合ではないと言うのに。一刻も早く、ソラトを助けに行かなければ……」

 レイアがそう言った次の瞬間だった。


 ドゴーン!! ドドーン!! ズドドーン!!

 爆発音が複数回に渡って鳴り響き、その度にランチ全体が激しく揺れる。


 先程までとは比較にならない大きな揺れに、レイアやタツゾウたちを含めた、食堂にいた全員が床に倒れ込んだ。

 宿泊エリアの各階から高いトーンの悲鳴がいくつも上がる。


「キャーーー!! なに!? なんなの!?」

「今のって、爆発、だよね……」


 大食堂にて、メンコの珍獣装備による異能を浴びて気絶させられた後、山葵間の異能で操られていた研修生たちは、八併軍とトリトン海賊団の抗争開始の事実を知る機会がなかった。未曽有(みぞう)の事態に、彼らはパニックに陥る。

 レイアは自分の取るべき行動を理解すると、揺れが収まったところで、即座にそれを実行に移した。


「研修生の皆さん、聞いて下さい。今、八併軍は海賊と抗争状態にあります。辻さんからの指示で、部屋の外には出るなと。ですので、皆さんはすぐに自分の部屋へ戻り、抗争が収まるまで待機していてください。そして、分かっていない人を見かけたら、このことを伝えてあげてください」


 大食堂にいた研修生たちは、今この場で最も信頼を置ける、麗宮司レイアという人間の言葉によって、僅かに冷静さを取り戻す。そして、彼女の声に従い、各々の宿泊部屋に向けて走り始めた。

 大勢が2階への広い階段を駆け上がり、1階は先程までの喧騒が嘘のように一気に静まりかえる。


「私とタツゾウは、これから0階に行きます」

「0階? なんでだ? てか、0階とかあったのかよ」


「0階は、戦闘機の格納庫です。戦闘機に乗り、海賊艦に向かいます」

「おい、なんだそれ? めちゃくちゃ楽しそうじゃねえか!」

 これからの動向について話すレイアに、タツゾウは目を輝かせる。


「……お供いたします」

「じゃあメーちゃんも!」


 ファナは、ソラトがこの場にいないことで状況を察すると、主に対し丁寧なお辞儀を見せた。

 対照的に何も分かっていないメンコは、ただただワクワクを表情に出しながら、挙手で参加の意思表示をする。


 レイアは、階段とは反対側に位置するエレベーターに向け歩き出した。

 彼女の後を、タツゾウ、ファナ、メンコがつけていく。


「あんたらはどうすんだ?」

 タツゾウは途中で振り返ると、(たたず)んだままでいるサイコサウルスとカブ太に問いかけた。


「まあ、あたしゃらも行くとこないし、ついて行こうか。のう、カブの坊や?」

「かーふっ!」

 サイコサウルスが同行の意思を示すと、頭上のカブ太も呼応して元気な鳴き声を上げる。

 二匹の珍獣は、先行する四人の背中を追った。


(さら)われたソラトを、助けに行きます」

 レイアは、その強固な意志を瞳に宿す。


 エレベーターの中は人が十数名入れるほど広く、人間よりもスペースを多く取るサイコサウルスを入れてなお、その空間にはゆとりがあった。


「ソラトが攫われたぁ!? 大変だよ!! すぐに助けに行かなきゃ!!」

「だから今、向かっているところさね」

「そういえばこの珍獣なに!? 恐竜!? メーちゃん知らないよ!!」

 メンコの感情は大忙しであった。意識を失っていた間の情報を、必死に整理しようとしている。


「この救出作戦は、私たちの身勝手ではた迷惑な作戦です。きっと、あとで色々なところからお叱りが来ることでしょう。(もっと)も、それは、私たちが海賊艦から生きて帰って来られたらの話ですが」

 レイアは「0」と記されたボタンを押すと、その場にいる全員に、この作戦を実行するということの意味を伝える。


「その救出作戦、戦士たちに任せる形では駄目だったのでしょうか?」

 ファナが、普段のレイアらしからぬ行動に疑問を覚えつつ、その真意について尋ねる。

 集団の規則や秩序を何よりも重んじるレイアが、それを乱すような行動を取っていることは、ファナにとって信じ難いことだった。


「戦士たちの目的は海賊を討つこと。彼らにそれ以上の負担をかけるのは、得策じゃないわ」

 レイアは(おの)が従者に理由を告げる。しかし、それはあくまでも小さな要素に過ぎなかった。

 彼女は続けて理由の大部分である、本心を答える。


「それに、もしも戦士たちに任せたのなら、きっとソラトの救出はついでの任務になってしまう。でも、私たちは違う。私たちなら、ソラトのことを一番に考えられる」

「だから、私たちの力だけで救い出すと……」

「……後悔したくないの」


 その決断には、麗宮司レイアの勇気と覚悟、そして何よりも、必ず助け出すという本気の熱が(こも)っていた。

 エレベーターが0階に到着し、扉が開く。


『秩序を守らば、勇気を生まず』


 レイアは、自分が攫われたあの事件を思い出す。

 その時、彼女の目の前に参上したのは、まだ見知って間もない少年の姿だった。

 指示を無視し、大事な試験を放り出して、ほぼ他人とも呼べる間柄にもかかわらず、少年は命を張って彼女の元に現れた。


 後にこっ酷く叱られた少年ではあったが、彼の取った行動は、少女の冷え切った心に確かな火を灯していた。


「ごめんなさい、ファナ。あなた、この作戦には反対でしょう?」

「はい。しかし、レイア様のご意志とあらば、私はどこへでも赴きます」

 ファナは両手を体の前で重ね、レイアの問いかけに、真っ直ぐな視線で答えた。


 レイアは微かに微笑むと、開いた扉から0階へと踏み入る。

 一度目は辻の指示に背いて部屋を出た時、そしてこの瞬間は二度目となる。

 彼女は再び、自らの意思で秩序を破った。


「私もなれるかしら、勇者に」

「もうすでに、なっているものかと思われます」

お読みいただきありがとうございました。

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