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お見合いパーティーです。
―――王宮 中庭
あぁ〜緊張する…。どうしよう…。
早くクロエに会いたい気持ちは山々なんだけど、上手く告白できるかな…。
ソワソワと落ち着かない様子にロイドが呆れる。
「アレク…落ち着け。クロエは逃げない!」
「そう言ってもなぁ…。ロイドは緊張しないのかよ」
「俺は政略結婚と割り切っているからな」
涼しい感じがムカつくぜ。コッチはいっぱいいっぱいなのに…。
今日は俺たちと婚約者たちとの顔合わせだ。ガーデンパーティーを装って行われる。
俺にはもちろんクロエ、ロイドにはミレン辺境伯の所のスカーレット嬢が選ばれた。
イスタークは既にガブリエラ・バートレット侯爵令嬢(16)と婚約している。領地が隣であり、幼馴染みだそうだ。
クリストフには騎士団長の娘のイザベラ・カイオム伯爵令嬢(15)、ヨハンには外務副大臣の娘のシルヴィア・クインビー伯爵令嬢(14)との婚約を整えた。
クリストフもヨハンも緊張してるじゃないか!
イスタークとロイドだけだよ!そんなに落ち着いているのは!
そうして待っていると、令嬢たちが庭にやってくる。
みんな色とりどりのドレスを纏い、花のように美しい。
その中でも際立って美しい令嬢がいる。
俺のクロエだ!!
クロエは爽やかなミントグリーンのミモレ丈のドレスに、花をモチーフにしたリボンを髪の毛に編み込んでいる。
さながら森の陽だまりにいる妖精のようだ…。クロエの慈愛に満ちた、そのエメラルドグリーンの瞳に映れるのならば、俺は他に何も要らない。いつもの優しげな君も素敵だが、顔を赤く染め、恥じらう様子の君はこの上なく愛らしい…。
「さすがアレクシス殿下…。よくそんな事がスラスラ言えますね?」
「全然、緊張してないじゃないですか!」
顔を赤くしたヨハンとクリストフが交互に言う。
…やべぇ、全部口に出てた?
「アレクシス殿下。いつも通りなのは結構ですが、人前でそれはやめてください!」
ちょっとムッとしているクロエも可愛…。
じゃなくて!しまった…。クロエを褒めるのが通常運転すぎて、口から勝手に賛辞が出てくる。本気だと思われていないっぽい…。どうしよう…。不安になり、隣のロイドに視線を移す。
……。
そこには彫像と化したロイドがいた。
「ロ、ロイド?」
ダメだ!意識がとんでる。一体何が!?と、その視線の先を見ると、一人の美しい令嬢がいる。
薄いグレーのロングドレスに、腰にはベルベットの真紅のリボンが巻かれ、豊かなブルネットは同じ真紅のリボンで高い位置で結ばれている。ドレスからは白くて細長い手足が覗き、その体は13歳とは思えないグラマラスなラインを描いていた。
瞳は燃えるようなルビー色で意志の強さを感じる。
…うん、絶世の美女だな。
クロエが守ってあげたくなるような可憐な美少女だとしたら、その反対に位置するような美少女だった。
ロイド、こういう娘がタイプだったのか…。
クロエも普段にない兄の姿に絶句している。
あっ、睨んだ。
クロエ…その嫉妬は俺のためにして欲しかった!!
「わっはっは!どうだロイド!我が妹は」
そう言ってロイドの肩を叩いてきたのはイスタークだ。
ということは、彼女がスカーレット嬢か…。
イスタークとクリストフの話によると、ミレン辺境伯と互角に渡り合う剣技だとか…。こんな美女なのに恐ろしい…。
イスタークが叩いた事でロイドの意識が戻ってきた。
「と、とても綺麗な方ですね」
「ありがとうございます」
凛とした透き通る声に今度はボーッとなっている。
完全に攻略されてる…。
こんなロイドは見たことが無かった。
面白!!
ガーデンパーティーは滞りなく進み、みんなそれぞれの婚約者と仲を深めたようだった。クロエはパーティーの最中、ちらちらとロイドとスカーレット嬢を盗み見ており、これからの努力を俺に再認識させていた。
後でロイドにスカーレット嬢とどんな話をしたのか聞いた所、覚えていないと言われた。浮かれ過ぎだろ…。
ただ、俺のクロエに対する気持ちが少しわかった気がする、と言われたのは大きな一歩だと思う。どちらにしろ、ロイドも前途多難そうだった。
ロイドは初見からスカーレットに夢中でした。