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「アレクシス…」

「はい、父上」

「私はお前がこのように立派に成長してくれて嬉しい」


父上はご満悦のようだ。

だが、俺の気持ちは急速に冷めていった。

クロエとの婚約を潰されそうになったこともそうだが、為政者としての姿に失望したからだ。


考えて見れば幼少の頃からもそうだった。

父上は見切るのが早すぎるのだ。その決断の基は、面倒くさくなく、自分の利になるかどうか…。そのためアレクシスは、何でも期待以上の成果を出さなければと、強迫観念のようなものを植え付けられていたのである。

目先のことしか考えず、中長期の視点を持ち合わせない。

そんな人間に国を育てていくことなど出来るわけがない。

子育てすらまともに出来ないのだから。

思い返してみれば、父上とまともに話したことなど無かった。


「そうだ。アレクシスに褒美でも取らせようか?何が良い?」


まるでオモチャでも買ってやるというような気軽さで聞いてきた。

虫酸が走る…。


「では、二つお願いがあります。一つ目はクロエ嬢との婚約を認めていただきたい」


俺はそう進言した。最近のクロエとは仲も良好なので、そろそろ婚約しても良いだろう。もしまた、誰かとの婚約話などがあがったら俺は正気ではいられない…。クロエの気持ちなど二の次で、俺の存在をその体に刻みつけ、一生縛り続ける自信がある。

クロエを殺して俺も死んでもいい…。

あんなに気をつけていたのに、結局、(りゅうじ)もアレクシスと同じ想いに因われてしまった。

クロエの存在は俺にとって、毒にも薬にもなり得るようだった。


「認めよう。優秀な女性だ。良い国母になるであろう」

何も知らないクセに…と(ひと)()ちた。


「では二つ目とは?」

「陛下にご退位いただきたい」

「なっ!!?何だと!!」


俺は再度、静かに殺気を纏わせる。


「だってそうでしょう。古参の貴族が不満を持っている原因はあなただ」

「そんな筈は…」

「心当たり、ありますよね?先の王弟殿下の件もそうですが、今回の件もそうだ。他の大臣たちが、第一王子である私と評判の悪女であるマウラ姫との婚約を考え直せと止めていましたよね?」

「だが、私はそんな悪評聞いていなかった!!」

「いえ、奏上差し上げてましたよ」

「宰相!」


ウィラー公爵が口を開く。


「表には出ない話でしたが、私たちは知っていました。陛下にお渡しした報告書にも書かれています。まぁ、キルケニー侯爵は外務大臣なのに何故か知らなかったようですが…。ピリング教皇猊下は知ってて推奨していましたね。これくらいは王族の可愛いワガママだと…」

「……」

「最近の陛下の公務に対する態度が、高位貴族からの疑心を生んでいる事は気づかれていたのではないですか?」


そう言って、ウィラー公爵は執務室の扉を開ける。

そこには宰相含め総勢9名の各部署のトップが揃っていた。

外務部だけは副大臣だったが…。

控えていたのは、内務大臣、外務副大臣、財務大臣、法務大臣、軍務大臣、騎士団長、宮廷長官、神祇長官。

皆、それぞれ王に意見がある者たちだった。


「お、お前たち…」


「陛下。最近の陛下の仕事に対する態度は目に余るものがあります。もう少し我々の話を聞いて頂きたい」

内務大臣のサイラス侯爵が訴える。


「裁可が早いのは結構ですが、その過程が雑すぎる。その後、何度審議し直した事か…」

法務大臣のキマリエ公爵も訴える。


「陛下の発言一つ一つで現場が混乱します。思いつきを二転三転させないでもらいたい!予算の組み直しは簡単な話ではないのですよ!」

財務大臣のヤルツ伯爵も吠える。


その他諸々の鬱憤が溜まっていたらしく、父上はそれぞれから糾弾されている。いい気味だ。


「し、しかし!アレクシスはまだ成人しておらん!私が王太子に任命するかもわからんのだぞ!エストワールだって優秀だと聞いている!!」


「この状況で何を仰っているのですか?陛下。エストワール第二王子が王太子に任命されたなら、我々はアレクシス殿下を仰ぎ、王家に牙を剥きますよ」

そう、冷静にウィラー公爵が釘をさす。


「な、何を!!」

「陛下…はっきりと申し上げますが、我々はアレクシス第一王子殿下に忠誠を誓ったのです」

カイオム騎士団長が重々しく答える。


「まさか!!…おのれアレクシス!!そこまでして父を引きずり降ろしたいのか!!」


父上が吠えてくる。

五月蝿い…。

俺からクロエを取り上げようとした時からお前の運命は決まっているのに。それにまだお前の尻拭いをしていると気づかないとは…愚かだな。


「父上、違いますよ。父上が懸念されている古参の貴族を納得させる方法がこれしかないのです。ただ私も成人前ですし、彼等から猶予を貰いました」

「猶予?」

「えぇ。あと5年です。5年後に退位頂きます。なのでその間は真面目に公務に励んで頂きたい」

「5年…」

「悪くない話ではないですか?重責を担う『王』としての仕事に期限がついたのです。その後は存分に好きな事ができますよ」


俺は悪魔のように囁いた。プライドは高いが、元々、権力欲が薄く仕事嫌いの父上だ。重責から解放されるという楽な道を用意してやればすぐに飛び付くだろう。


「わ、わかった。それで皆が納得するならば…」


やはりな。この人、こんなにチョロくてよく王なんてやっていたな…。


「では、そういう事で…。ただ、ここでの出来事は最重要機密です。くれぐれも外部に漏れる事がないように取り扱ってくださいね」

俺は虹彩を無くした昏い目でそれぞれを見た。

そして、約束を破った者には相応の制裁があることを言外に分からせたのである。

宰相からは後で、「15歳が纏う覇気ではない」と言われた。

まぁ、25歳が8歳に転生してから7年経ってるから精神年齢33歳だしな。立派なオッサンですよ。


その後の取り決めでは、隣国が落ち着くまで婚約は伏せた方がいいだろうという事になった。マウラ姫との婚約を唆すスパイも炙り出したいからな。ただ、5年後には立太子と戴冠が待っているため、婚約発表の期限は、隣国が落ち着くまでか5年後かのどちらかになった。


緊張するが、さぁ明日はクロエに婚約の話をしに行こう!

意外とアレクシスの中の人はクロエとの年齢差を気にしているので、しっかりと手順を踏みたいようです。

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