7
訪れていただき、ありがとうございます!
「どういう事だアレクシス」
「認めないと言ったんです。絶対にね!!」
俺は父親を射殺すような視線で睨みつける。
「陛下…、アレクシス殿下は幼少時よりクロエの事を好いているんです。私が頑なに反対したのはそういった理由です」
ウィラー公爵が進言する。
「なぜそれを言わん!」
「ご本人がいない所で、実の親に勝手に恋心をバラされたら嫌でしょう!!」
公爵、本当に常識人だな。
うちの父親と交換したいくらいだ。
そして、俺は公爵が信頼するに値する人間になれたようだな。
これはとてつもなく嬉しい…。
喜びを噛み締めていた時、父上がまた何か言い出した。
「だが、アレクシスには宥和政策として隣国の姫を輿入れさせようと思っていたのだかな…」
「……は?」
いや、マジでこの人の人生終わりにしてやろうかな、と思い殺気を放っていると、ウィラー公爵が口をはさむ。
「陛下、それはどういう事です?誰からの入れ知恵でしょうか?」
と、こちらも絶対零度の目線で父上を見据えていた。
何か公爵の気に障る事があるようだ。
「外務大臣のキルケニー侯爵とピリング教皇から提案されたのだ。隣国ティーダの姫はアレクシスと年も同じだというから、私も良い案だと思ってな」
「はぁ〜…。それは愚策ですよ陛下。隣国ティーダの姫がどんな方か知っておられるのですか?」
「とてつもない美姫だと聞きたぞ」
「えぇ、うちのクロエには及びませんが、ティーダ国のマウラ姫は確かに美姫との噂です」
俺も激しく同意した。クロエ以上の女などいないだろう。
「ただ、散財癖が激しく性格は嗜虐性を極めているそうです。国庫を私的に使い疲弊させ、気に入らない女は高位貴族であろうと甚振るのだとか。ティーダ国も持て余しており、さっさと追放したい姫だそうですよ」
「なっ!なんだその、不良債権みたいな姫は!!ヤツラは一度もそんな事は言わなかったぞ!」
「その話はあまり表には出されてないですからね。ティーダ国のメンツもありますし…。なまじ見た目がいい分、そういった事は覆い隠されていたのでしょう。少しワガママな所があるとかナントカで」
「確かにそんな事は言っていたような…」
「それに、ピリング教皇猊下は特にこの婚約に乗り気でしょう。ティーダ国はわが国より、グナーデ教の信仰が厚いですからね。姫が輿入れされれば、ご自身の地位も一段高められると考えているのでは?」
さすがウィラー公爵。そこまで掴んでいるなんて…。
この人が宰相やってるからこの国は保ってるようなもんだな。それに比べてうちの父親ときたら…。
今度は残念なものを見る目つきになってしまった。
これはしょうがない。
「うん?アレクシス、何だその目は…」
「いえ、何でもありません」
「そうすると、どうしたものか…。他にいい手立ては無いものか」
「開戦を遅らせる手立てならありますよ?」
「何!?真か、アレクシス!!」
「はい、そのための情報収集をしている所ですが」
「殿下、話していただけますか?」
俺は側近たちと独自に調べている事を伝えた。
ウィラー公爵は黙って聞いている。
「そもそも何故ティーダ国が開戦準備をしているのだと思います?」
「それは、わが国の領地を狙ってのことだろう?」
「そうです。特に穀倉地帯を狙ってます。ティーダ国は今年、大規模な自然災害により小麦畑が被害を受けたそうですから」
「食糧難か…」
父上もそこまでバカじゃないんだな、と少し見直す。
「海がある土地柄、あちらの国はそういった風災が多い。また、穀倉地帯を海の近くに設置している為、こういった風災があった時に塩害が起こり、除塩作業をしてもその土地が再利用できるには最低でも1年以上かかってしまう…」
これは台風の多い日本でも言われている事だ。また、過去に震災が起きた時には特に大きく取り沙汰されていた。
「しかも大規模な風災は、過去を調べた所によると20年周期でやってきています」
「殿下、そんなことまでお調べになったのですか!」
ウィラー公爵もビックリしている。前世知識で塩害は知っていたが、ここまで調べたのは実はお宅の息子さんですよ。
「ロイドが調べてくれました。それにわが国がティーダ国に頼っているのは主に塩ですよね?」
「そうなのか宰相?」
「そうです陛下。わが国には海がありませんからね。輸入品目まで調べていらっしゃるとは…」
「そこはベイカー子爵子息のヨハンが教えてくれました」
「あの広域キャラバンを有するベイカー子爵ですか!なるほど…」
「それに引き換え、わが国からは小麦を含めた農産物や、鉄・石炭などの鉱物を輸出している。どう考えても貿易で優位に立てるのはわが国ミストラルなんです」
「では、兵糧攻めをすればいいのだな!」
あぁ、また父親を残念な目で見てしまう。ウィラー公爵も同じ目をしてる…。
「そんな事をすればティーダ国の開戦派にいい燃料を投下するだけですよ…」
「では、どうするのだ?」
「とりあえず小麦などの農産物の輸出量を期限付きで増やす条約を結びます。もちろん安価でね。その代わり、鉄・石炭などの軍需に必要な品目の値段は上げ、輸出量も減らします。特に鉄は長期間かけて今の半分くらいまでに減らしたいです。生活必需品がギリギリ賄えるレベルまでにね」
まぁ、刀狩りみたいなもんだな。民間人に不必要な鉄を持たせず、武装解除させる的な。
「ただ、あちらは港を有していますから、他国からの輸入を開始するでしょう。でも風災や輸入コストを考えれば、かの国の軍事力は削いでいけるのではないでしょうか?」
鉄は塩で錆びるしね。
ウィラー公爵が考え込んでいる。あの顔は色々な算段をしているな。
「それに塩は海水以外からも採れます」
「そうなのですか!!」
「ウィラー公爵。クロエ嬢が最近、発見してましたよ。岩から採れるので岩塩と言うようですが…」
「確かに最近、公爵家の研究者たちと鉱山に籠もって何かしているとは思っていたが…まさか」
「まだ採れる量は少ないですが、採掘と備蓄を続けていけば、塩の輸入を減らされても持ち堪えられるかと。山岳地帯を領土に持つミレン辺境伯家にも、ティーダ国の動向を調べるのと同時に調査してもらっています」
「そこまで…」
本当に俺もそう思う。俺が塩害の話をロイドに話してから、ここまで調査してくるとは…。側近の人選も分かっててやっていたのではないかと思うと恐ろしい…。
ロイドが究極のチートキャラであることは揺るぎなかった。
味方で良かった…。
「ふむ…。総合的に考えてもアレクシスの案を採用した方が良さそうだな」
父上、決断は早いんだな。ちょっとビックリした。
この後は交渉人の選定や岩塩の採掘など細かい事を詰めるらしい。
とりあえず、クロエとエストワールの婚約は無くなりそうで良かった。
ビールが飲みたい…。
前作をお読みの方はピンときたかもしれませんが、ドワーフ姫=クロエが発見したのは岩塩です。
まだヒロイン出て来なくてスミマセン。
次回は父親をプチざまぁします。