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ブックマーク、ありがとうございます!
頑張ります!!
「その日、クロエ嬢は落ち込んでたんだ。理由を聞いたら、今日王都に帰る事になったからアレクと会えなくなってしまうってね。そしてまた辛い淑女教育が始まってしまうかもしれない…と、怯えていたよ」
「そういえばあの時、父上が急に帰るって言い出したからな…」
やっぱり公爵の仕業だったんだ…。親バカめ!
「だから俺はクロエ嬢に告白しようと思って。宝物だった緑柱石を渡して、『君はこの石と一緒だね』って言ったんだ」
「へー。ずいぶんと遠回しな言い方だな」
「やっぱりそう思うか…。俺的には最高にロマンチックな感じにしようと思ってたんだがな…」
「クロエはませてても6歳だぞ?それで伝わったのか?」
「『公爵令嬢の私を石なんかと一緒にしないで!私はそこらへんに黙って転がっているような存在じゃない!』と言って、石を握り込んだ拳で殴ってきた」
ロイドが驚いている。まぁ、そうだろうな。
「第一王子を殴った……?」
「うん。ガッツリと。いいパンチだったよ」
ロイドが目を開けたまま気絶している。大丈夫かな?と思った瞬間にテーブルに頭をこすりつけて謝罪態勢に入った。
「うちのクロエが、大っ!変っ!申し訳ありませんでした!!!私にできることなら何でもしますので、どうかウィラー家の取り潰しだけはお許し下さい!!」
「いやいや、そんな事しないよ!!」
「本当ですか?こんなに不敬な事をしたのに…」
今度はロイドが泣きそうだ。
「公爵も同じ謝り方してきたから」
「父上もですか!!」
「影で私たち二人を見守っていたから報告を受けたんだろうね。とっても慌ててたよ」
その時の公爵を思い出すと少し溜飲が下がる。
「けど、俺はクロエ嬢に振られたショックであんまり聞いてなかったけどね。だって初恋だったんだよ?そして、そのまま一晩泣き腫らして熱が出てベッドで寝込む事になった。殿下の一大事だ!って言われてすぐに王宮に戻されたよ」
前世を思い出したのが振られたきっかけだったなんて、何の因果だ!!俺、そんなに悪い事にした!?
「そんな事が…」
「でも、何でクロエ嬢は覚えてないの?」
「確かクロエもその日、熱を出して寝込んでました。手に石を握り込んだまま。ただ、起きた時には記憶が曖昧になっていて…」
「石に例えられたのがそんなに嫌だったのかなぁ…」
「そこはよくわかりませんが…。あの日を境に今ではすっかり鉱物の研究に魅せられてますよ」
「そっか…。記憶には残らなかったけどクロエの心には爪痕を残せたんだね。まぁ、良しとしよう」
そう言って俺はうっそりと微笑った。
「殿下?」
「いや、何でもない…」
ダメだ…。クロエの事を考えると元のアレクシスに引きずられる。しっかりしないと!
何だかとんでもない狂気に囚われそうなんだよな…。
「それよりロイド、殿下呼びに戻ってる。今は友人として接してほしいのに」
「はっ…!申し訳無さが先立っていた…」
「ははは、真面目だなぁ。でもよく俺の言うことを信じたね?こんな突拍子もない事言われても、ふつう頭のおかしいヤツだと思うだろ?」
「アレクはそんな冗談言わないだろ?」
この返答に俺は驚いた。ロイドは何の疑いもなくこちらを見ている。俺は、信頼される心地良さを感じて自然と口角が上がってしまう…。
「信じてくれてありがとう」
「何てことはないさ」
そう言ってロイドも笑う。
コイツ、本当にカッコいいな…。いやもう、兄貴!!って感じだよ。精神年齢は俺のほうが上なのに…。
「ロイドに弱点とか無さそうだな?」
「俺はそんなに完璧な人間じゃないよ。アレクこそ弱点なんて無いだろ?」
「あるよ。最大の弱点が」
「えっ?」
「クロエ嬢だよ」
「そんな事、俺に教えていいのか?」
「さっき号泣してしまったのを見られてるしね。アレクには知っててもらいたい。そして俺がクロエ嬢の事で暴走しそうになったら、殴ってでも止めてほしい」
だってゲームのアレクシスは、それで人を殺そうと思ったんだから…。
「兄妹そろってアレクを殴らせないでくれよ…。でも、わかった。…じゃあさっきの話じゃないけど、やっぱりお前がクロエの婚約者になったらいいんじゃないか?」
「う〜ん…。実は、忘れられていた事が相当ショックっぽい。ちょっとクロエ嬢と今は距離をおきたくなってる…」
「そういうものなのか?」
「あの『初めて』という言葉に拒絶を感じたからね。でも、たぶん離れられないと思う…。何があってもクロエ嬢を求めてしまうだろうから」
「難しいな。俺にはわからないけど」
「ロイドも恋をすればわかるよ。美しい気持ちと一緒に醜い気持ちも生まれるから…。それに念のため公爵には話を通してるんだ。謝罪を受け入れる代わりに、クロエ嬢を18歳のデビュタントまで婚約させないで、ってね」
「縛りすぎたろ!あと12年だぞ…。はぁ…アレクに目をつけられたのが運の尽きだな…」
本当にそう思う。ゲームの補正かわからないけど、アレクシスのクロエを求める気持ちは尋常じゃない…。
けど、婚約していなければ婚約破棄を含めた断罪も無くなる!
俺も闇堕ちしなくて済むかもしれない。
「関係がリセットされてしまったんだ。形振りかまってられないよ。公爵にもクロエ嬢の気持ち優先で!って言われてるから、今からクロエ嬢を全力で落としにいくよ」
「まぁ、頑張ってくれ…。あっ、そうだ。たぶんだけど、父上はアレクが前と違う事に恐らく気づいてるぞ。だから俺を近づけさせたみたいだし」
「えっ!!」
ロイドがとんでもない事を言っている。
公爵…恐るべし…。
〔〜クロエ〜〕
「クロエ、そんなに怒ってどうしたんだい?」
「お父様、聞いて!アレクったら失礼しちゃう!私を石と一緒にしたのよ?」
「こんな可愛いクロエをか?(どうやらアレクシス殿下は失敗したようだな…ヨシっ!)」
「頭にきすぎて思わず殴っちゃった!」
「!!!」
「お父様?どうしたの?」
「クロエ、よく聞きなさい…。あの子は…あの方は、アレクシス第一王子殿下だ…」
「えっ!!」
「殴ったと言っても軽くだよね?ね?」
「グーで思いっきり行きました…」
「………我が家はおしまいだ…」
「!!!」
「えっ、クロエ?クロエ!!」
こうしてクロエは意識を失い、記憶も失ったのである。