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4  〜黒い日々とひとすじの希望〜

前半、ちょっと暴力的な表現があります。

お気をつけください。

――――アレクシス


「アレクシス殿下には今日から王子教育を始めてもらいます」

「王子教育?新しい事を教えてもらえるの?楽しそう!!」


ぼくは純粋に楽しそうだと思ったんだ。

新しい事を知るのは楽しいし、王子教育が終わって一人前だと父上に言われてたから。それに、アレクシス殿下ならこの国をより良い国にしてくれるって、みんなが期待してくれてる…。頑張らないと…。

今までの勉強だってあっという間に終わらせたんだ、王子教育だってすぐに終わらせれば、早く一人前だと認めてもらえる!

             ・

             ・

             ・

「殿下、早く決めてください」

「こんな事決められないよ先生!!」

「簡単ではないですか。手元の資料を見て、その3人のうち誰を殺すか決めるだけですよ。決められないのなら全員にしましょうか?」

「嫌だ!何でそんな事言うんですか!みんなの話を聞いて、何とか助けられないんですか!!」

「殿下…。王には決断力が求められます。いざという時に、命に順番をつけるのを躊躇ってどうするんですか?それにその3人は重罪人です。彼等の話を聞いても助ける事はできませんよ」

「殺さない方法は本当に無いんですか?」

「何を甘い事を…。ありませんよ!彼等が生き残る事で民は不安を覚えるし、犯罪者からは軽んじられる。不平不満のうねりが大きくなった時、王族に待っているのは死ですよ!!」

「その不満を解消するように務めるのが王なのではないですか!!」

「民の不平不満などいくつあると思っているんです?いちいち全ては聞けませんよ。ではそうですね、明日からは誰を切り捨てるかの授業をしましょう」

「イヤだ!イヤだ!イヤだ!!」


来る日も来る日も非情な決断の連続…。心が壊れてしまいそうだった。でも、

(みんなが良い王様を期待してくれている)

という思いがギリギリでぼくを踏みとどまらせていた…。

けど、ぼくは知ってしまったんだ…。いつの間にか失望されていることを…。


「アレクシス殿下の王子教育が進んでないらしい…」

「あんなに優秀だったのにか?」

「優しすぎるんだと」

「なるほどな。これならちょっとヤンチャだが、闊達(かったつ)なエストワール殿下の方が王に向いているのかもしれん」

「違いない」


見捨てないで!ぼく、頑張るから!いい王様になるから!

ぼくから離れていかないで!!


「アレクシスの王子教育は進んでないのか?」

「はい。優秀ではあるのですが、お優しい性分が非情になりきれないのでしょう」

「期待していたんだがな…」

「陛下!アレクシスはまだ子供なのです!こんな酷い仕打ちをなさるなんて…」

「黙れ王妃よ!アレクシスには早く立派になってもらわねばならん!隣国が攻めてくる可能性が出てきたんだぞ!!」

「左様です、王妃様。この国を守るために必要なことなのですよ!」

「そんな…!!」


ぼくのせいで、父上と母上がケンカをしている…。

ぼくがダメな子だから…?

泣かないで母上…。ぼく頑張るから…。

がんばって立派になるから…。

だから父上、母上…今までみたいに…愛して…。


「いつも頑張っているアレクシスにご褒美よ!久しぶりにお休みが貰える事になったの。自然豊かなウィラー公爵領に遊びに行きましょう」

「えっ!でも母上、勉強が…」

「息抜きも必要よ。お父様も先生も許可してくださったわ」


父上も先生も許した…?

ぼくに失望したから?もう、王子教育は必要ないって事?

ぼくは…イラナクナッタノ…?


「…わかりました、母上」


母上はホッとしたような顔でぼくを見た。

母上もぼくに期待しなくなったのかな…?



――――クロエ


「クロエ様!淑女は走ったりしません!」

「クロエ様!淑女は口を大きく開けて笑いません!」

「クロエ様!危ないです!木に登らないでください!!」


うるさい、うるさい、うるさーい!淑女、淑女って、大きくなったらちゃんとできるわよ!

今は敢えてやらないだけ!!

最近、みんな私を大人しくさせようとする。私は今にしかできないことを楽しんでいるのに…。

そんな時、淑女教育で有名な講師が公爵家に招かれた。


「初めまして、クロエ様。アンネ・ミラーソンと申します」

そう言って先生は優雅なお辞儀をした。

「ミラーソン先生?」

「はい、そうです。これからクロエ様の淑女教育を担当します。よろしくお願いしますね」

そう言ってにこやかに微笑んだ先生は、とても優しそうだった。けど、ここから地獄が始まる…。


「先生、この課題は私には易しすぎます。それに私はもう6歳ですよ」

「何を仰ってるんです?クロエ様の今までの行いを伺ったからこそ、出している課題ですよ。それにほら、ココのスペルが間違っていますし。はぁ〜…クロエ様にはこれくらいのレベルが丁度良いと思いましたがダメですね。もっとレベルを下げましょう」


そう言って先生は勉強の質をどんどん落としていった。簡単な問題を間違えてしまった気恥かしさで、私は何も言えなかった。最終的には、幼児のやるような簡単な塗り絵にまでレベルを落とされてしまったのである。

また、その頃には先生のため息一つにビクつくようになっていた…。あれだけ高かった私の自尊心は、ポッキリと折れていた。


使用人達は、すっかり大人しくなった私を見て喜んだ。そして先生を称賛する…。

それを見て私はやるせない気持ちを抱え続けた。

月日がたちストレスが限界を迎えた私は、夜中に屋敷を徘徊するようになってしまった。

それを初めに発見したのはお母様である。

夜中にお母様の部屋へ向かったからだ。

私は無意識にお母様に助けを求めていたのかもしれない…。


全てを知ったお母様はすぐにミラーソン先生を解雇した。

そして私を抱きしめながら泣いて謝った。

大人のため息にビクつく私を見て、事態を重く見たお父様が領地での静養を提案してきた。

ちょうど田舎の大自然の中でお祖母様も静養していたので、そのお見舞いも兼ねる事になったのである。


今の私は人の多い王都にはいられなかった…。




――――アレクシス&クロエ


緑豊かなウィラー公爵領の森を散策していると、木陰に女の子がいる。倒れていたら大変と思い近寄ると、その子はすやすやと気持ち良さそうに寝ていた。ホッとして立ち去ろうと思った瞬間、その子の目がパッチリと開いた。

エメラルドのようなキレイな翠色の瞳だった。


「あなた誰?」

「ぼく?ぼくはアレクだよ。君は?」

「私はクロエ。クロエ・ウィラー」

「ウィラー公爵のお嬢様か」

ぼくは何となく身分を隠してしまった。

「お嬢様とかやめて!クロエでいいわ。私もアレクって呼んでいい?」

「もちろんだよ!」

「アレク!よろしく」

そう言ってクロエはにっこり微笑んだ。不覚にも、その笑顔にドキリとしてしまった。


それからぼくたちは一緒に遊んだ。

クロエは公爵令嬢らしからぬ行動力の持ち主だった。森を走ったり、木に登ったり、釣りをしたり…。心の赴くままに振る舞うクロエに段々と惹かれて始めていた。


ある時、ぼくはクロエに質問を投げかけてみた。


「クロエは、とても大きな選択を迫られた時どうする?しかもすぐに決めなきゃならない」

「??…たとえば?」

「うーん…。カウントダウンが始まってる爆弾を、2本のコードのどちらかを切って止めなきゃならない、とか」

「何それー!でも、そうね…。周りの人の話を聞いたり、知ってることを一生懸命思い出すかも。本当はその爆弾の説明書があればいいんだけどね」

そう言って、おどけて笑う。

「でも最後は自分で決めるわ。どんなことになっても、切るまでに私は最善を尽くす。私なら出来ると信じて任せてくれた人たちがそこにいるもの」

そう言って真っ直ぐにクロエはぼくを見た。


信じて任せる…。そうだ…。先生は()()()!とは言ってたけど()()()()()()!とは一言も言わなかった…。それに決めた事に対して、あとからお説教があるわけでもなかった。

それに説明書…、他の人が纏めてくれた資料も用意してあった…。全部、全部ぼくの事を信じてくれてたからなんだ!


「ありがとう!クロエ!!ぼく、ちょっと用事を思い出したから帰るね!」

「えっ!アレク??」

「じゃあね!」


急いで滞在先の屋敷に戻ると先生がいた。

「先生…」

「殿下…。王子教育とはいえ、殿下のお心を軽んじてしまい、大変申し訳ありませんでした」

そう言って先生、宰相のルーカス・ウィラー公爵が謝る。

「もう、大丈夫です。先生がなぜこんな指導をしたのか分かりましたから!ぼくを…いえ、私を信じてくれていたからですよね!」

「アレクシス殿下……。何か掴まれたようですね」

「はい!大事な事がわかりました!」

「王の顔つきになっています。この国を率いていくのに相応しいお方になりましたね」

そう言って、宰相は穏やかに微笑む。

その顔はクロエの笑顔によく似ていた。


「そうだ先生!いや、ウィラー公爵!お願いがあるんですが…」

「何でしょう?」

「クロエ嬢を私のお嫁さんに下さい!!」

「えっ!!」

「ダメでしょうか…?」

宰相のことだから、ぼくとクロエが会っていることなんて筒抜けのハズ。思った通り、「なぜクロエを知っているのか?」とは聞かれなかった。

「あ〜…。う〜〜ん…」

ぼくは期待を込めた目でウィラー公爵を見つめる。

「殿下…。私もクロエを殿下の婚約者にすることに吝かではありません。ただ正直な話、私はクロエをまだ手放したくないのです」

そう言った公爵の顔は、純粋に父親の顔だった。

「それにクロエの気持ちも大切です。私が言うことではないのかもしれませんが、クロエが殿下を好いているなら考えましょう」

「わかった!クロエに聞いてくるよ」

「殿下、今日はもう遅いですので明日にしてください」

「えっ?まだ夕方前だよ?」

()()()()()()()()()。明後日以降でもいいですよ?」

「わ、わかった…」


ウィラー公爵の圧に推され、今日聞くことは諦めた。

父親の気持ちの整理は難しい…と呟いて、公爵も部屋を出て行ったのだった。

ルーカスの宰相としての手腕 < 親心

(笑)

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