その後5 【リリア・ヴァーベナ 前】
長くなりそうだったので分けました。
いつも、読んでいただきありがとうございます!
今日はお騒がせ5人組の最後の人物に話をする日だ。
立ち会い人は昨日と同じく、側近全員を揃えた。
本当は男爵令嬢如きにそんなに人数は要らないんだが、みんなそれぞれ迷惑を被っていたため、辞退する人間がいなかった。
「リリア・ヴァーベナ、入れ!」
ロイドの指示でリリアが入室する。
そして伏せていた顔を上げた瞬間に、その顔に歓喜を滲ませたのを俺は見逃さなかった。
「ヴァーベナ男爵令嬢、何をそんなに喜んでいるんだい?」
俺の言葉に側近たちがぎょっとする。
そりゃそうだろう。
罰を与えられる為にココに呼ばれたのに、喜ぶなんて正気の沙汰ではないからな。
「あんな騒ぎを起こして、反省していないのかな?」
俺は皮肉たっぷりに言葉をかける。
「いえ、違います!反省はきちんとしています!」
「では、その顔はどういうつもりなんだい?」
「えっ!!」
慌ててリリアが自分の顔に手をやったが、少し遅かった。
ロイドたちも軽蔑の目で見ている。
なぜなら彼女は、俺たち5人を見てニヤニヤと笑っていたのだから。
さすがにみんなドン引きだ。
「す、すみません!皆さんがあまりにも素敵だったので!!」
「それを反省していないと言うのでは?」
ロイドが冷たく言い放つ。
「とんでもなくお目出度いヤツなんだな」
イスタークが呆れる。
「兄貴、お目出度いヤツじゃなくて気持ち悪いヤツだよコイツ」
クリストフが嫌悪感を表す。
「殺す…」
ヨハン!
リリアを見ると、彼女は口元を両手で覆い目を潤ませていた。
……。あれは悲しみではなく、「神声優…」と感動している様子だな。
「はぁ〜…」
俺の大きな溜め息に、リリアがビクつく。
俺はリリアを見て言い放つ。
「『推し』でもいるの?」
その言葉にリリアの動きが止まる。
顔からも笑みが消えた。
「ま、まさか…」
「そのまさかだよ。ご苦労様でした、ヒロインさん」
そう言って俺は嫣然と微笑んだ。ロイド以外は俺が転生者だと知らない為、怪訝な顔をしている。
「そ、そんな…。一番の『推し』が転生者だったなんて!」
「へぇ、君。アレクシスが推しだったんだ」
俺たち二人のやり取りに、痺れを切らしたクリストフが聞いてくる。
「もう殿下!全然話がわからないッス!わかるように教えて下さい!」
イスタークとヨハンも、うんうん頷いている。
「あはは。ごめん、ごめん。クリストフ達にもわかるように話すよ」
「お願いします!」
「信じられないかもしれないけど、実は、私とそこのヴァーベナ男爵令嬢は前世の記憶があるんだよ」
『えっ!?』
「しかも同じ世界のね。ちなみに俺の前世は『川田隆二、25歳、会社員』だけど、君は?」
「『山本ゆりあ、21歳、大学生』です」
「という風にね」
「え?では殿下とヴァーベナ男爵令嬢は元々、お知り合いなんですか?」
ヨハンが聞いてくる。
「ううん。おそらく同じ時代にいたというだけで、全く面識のない人だよ」
リリアを見ると、物凄く難しい顔をしている。
えっ?俺の事、知ってんの?俺は知らないけど。
「ヴァーベナ男爵令嬢、どうしたの?すごく難しい顔してるけど」
「えっ?あっ、はい…。その、コレが何作目の話なのかを考えていて…」
「あぁ、なるほどね。俺は『四季恋』の話だと思ったんだけど」
「えっ?『四季恋2』じゃないんですか?」
リリアが驚いたように聞いてくる。
その内容に俺も驚いた。
「えっ?あれ『2』とか出てんの?」
「はい」
「知らなかった…。俺は『キングメイカー』のヤツしか知らないから…」
「あぁ!!納得しました!!」
『キングメイカー』は俺がやっていたスマホゲームである。
めっちゃ面白かったんだよなぁ…。
「でも、納得って?」
「いや、25歳会社員の男性が、まさか18禁乙女ゲームをやっているなんて思いもしなかったので…」
リリア嬢は話しながら俺を見てハッとする。
「ねぇ。18禁乙女ゲームってどういう事?」
俺は今、初めて知った事実に驚愕し青くなっていた。
えっ?『四季恋』って全年齢対象ゲームじゃなかったの?『2』でいきなりR18指定になるなんてある?
やっぱりあのゲームの運営会社、ぶっ飛んでるな…。
「ええっと…。実は、ここにいらっしゃるアレクシス殿下たちが攻略対象者なんです」
オーマイガッ!!
俺ら攻略対象者でしたか…。道理でハイスペックな筈だ…。
「で、君は俺たちを攻略しようとしてきたと…」
「いえ、ちょっと違います。…その、攻略対象者は攻略対象者なんですが、ゲームで本当に攻略されるのはプレイヤーなんです…」
「…?」
えっ?どういこと?
俺があまりにも「わかりません!」という顔をしていたので、リリア嬢が説明してくれる。
「『四季恋2』は略奪系乙女ゲームなんです。『2』のキャラが『1』のキャラからプレイヤーを落としにかかるという…。ちなみに通常の乙女ゲームと同じように、親密度を上げないとダメですよ。じゃないと遊ばれて終わりや売られて終わりのバッドエンドになります。親密度を上げてから攻略されると、めくるめくハッピーエンドが待っているんです。でもアレクシス殿下達の攻め方が秀逸過ぎて、親密度が上がりきる前に攻略されてしまうプレイヤーが後を絶ちませんでしたね。エンドの種類もそれぞれ5種類ずつありますし、最初の恋人を『1』の誰にするかでシナリオも変わるので、めちゃくちゃやり込まれてましたよ。『1』からのデータ引継ぎもありましたしね。とんでもない人数の女性がこぞってプレイしてました」
話を聞いてわかった事が二つある…。
一つ目は、略奪待ちだったので、彼女は行く先々に出現しただけだったという事。
二つ目は、『四季恋』の運営会社は、悔しいけど非常に優秀な会社だという事だ。
時代を作るのはいつでもぶっ飛んだ思考のクリエイター達なのだなと、改めて感じた…。
R18と聞いて、衝撃を受けるアレクシスの回でした。
側近たち、完全に置いてかれてます(笑)




