その後4 【エストワール・ツヴァイト・ミストラル】
次の日。
今日はエストワールの番だ。立ち会い人はロイド、イスターク、クリストフ、ヨハンである。
一応、相手は第二王子だからな。側近、全員呼んでみた。
「エストワール、入れ!」
俺が呼ぶ。
素直にエストワールが入ってくる。
エストワールは、金色の髪に俺よりちょっと濃い青い目をしている。顔立ちは兄弟ということもあり、よく似ている。
「エストワール、私はがっかりしたよ」
開口一番、そう告げた。
だって、忠告したのに聞かなかったからねぇ。
「ち、違うんです兄上!」
お前も言い訳か?
俺はエストワールをじっと見つめた。
「何が違うのかな?」
「私は兄上をクロエの魔の手から守りたかったんです!兄上はティーダ国のマウラ姫と婚約していると聞かされていたので…。国家間の政略結婚をクロエが壊そうとしてるなんて大問題ではないですか!」
「…何それ?」
それ、どんな妄想?
「リリアから聞きました。クロエは、第一王子である兄上の婚約者に収まろうとしているのだと。しかし兄上はマウラ姫と婚約しているので、兄上に近づく足掛かりとしてまずは私の婚約者の地位を狙ったのです。近づくきっかけさえあれば、後はその容姿を使って兄上を籠絡するのは容易いと思っていたに違いありません!私はそんな悪女を放っておくわけにはいかないのです!!」
「この前のパーティーで5年前から婚約していると言ったんだが?」
「それもクロエに言わされたのではないですか?兄上!あの女に騙されてはいけません!!目を醒まして下さい!」
目を醒ますのはお前だよ…と、思いつつ思案する。
エストワールの行為は、兄想いの気持ちからきているのか?
これは思っていた展開と違うな…。
もう少し掘り下げてみるか。
「つまりエストワールは、私とクロエが近づくのが嫌だったのかい?」
「そうです!あんな見た目だけで心が冷たい女に、完璧な兄上の心を略奪されるワケにはいきません!!」
クロエを『見た目だけ』とディスった事にイラッとする。
クロエの方が俺よりよっぽど完璧だよ。
あ〜、もうコイツどうしようかな?と思っていると、
「ブハッ」
と吹き出す声が聞こえる。声のした方を見ると、イスターク達が肩を震わせている。吹き出したのはクリストフのようだ。
ロイドだけは妹が貶されていたため、眉間に皺が寄っているが…。
「殿下はエストワール殿下に物凄く慕われているのですね」
笑いながらイスタークがそう言う。
うん?
クロエがディスられてることに気を取られていたが、発言をよく思い返してみよう。
……。
コイツ、もしかしてめっちゃブラコン?
「あ〜…、エスト」
「はい!兄上!」
うっ。愛称で呼んだらキラキラした目で見てきた…。
なんかやりにくい…。
イスターク達の目が生温いのも嫌だ。
もう、理想的な兄の姿をするのは辞めよう。
俺は前髪をぐしゃぐしゃと崩した。
「お前が俺を慕ってくれているのはわかった。だが、俺は8歳の頃から自分の意思でクロエが好きなんだ。それこそマウラ姫との婚約話が出る前からね。騙されているなんて有り得ない。まぁ仮に騙されているのだとしても、クロエなら許せるがな」
そう言ってニヤリと笑う。
どうだ!理想的な兄の姿を崩せたかな?
エストワールは暫く惚けていたが、顔を赤くしながらより一層、キラキラした目で見てきた。
えっ???
「殿下、逆効果かと」
ロイドが耳打ちしてきた。
「何で!?」
「おそらく『優しくて清廉潔白な兄』の姿から、『清濁併せ呑む素晴らしい為政者としての兄』の姿にイメージが変わっただけです。むしろ黒い部分が加わり、魅力度が増しています」
ええぇ〜〜〜。
もう、対応するのが面倒くさくなってきたな…。
クリストフが笑い転げて死にそうだ。
「エスト聞け。お前の王位継承権は最下位に降格させる。そして、お前の婚姻は今後認めない。仮に婚外子が出来たとしても、その子には継承権は付与しない。これがお前への罰だ」
「わかりました。兄上の指示に従います!」
即、了承してくれたが疲れる…。
エストワールってこんな奴だったっけ?
もっと俺に敵対意識バチバチで、あわよくば俺に成り代わろうとしていなかったか?
だから、『王位』に関する罰を与えたのに…。
本当は継承権剥奪にしたかったけど、今の王族にスペアが少ないから最下位に降格することしかできなかったんだよね。
「では、もう退室していいぞ」
「はい…」
何で悲しそうなの?
用は無いんだけど。
「エストワール殿下。まだ何かアレクシス殿下に言いたい事があるのではないですか?」
「!!!」
ロイドが余計な事を言う。
も〜いーよー。面倒くさい。
「あ、あの!兄上!」
「何?」
「兄上は本当にクロエが好きなんですか?」
「好きどころじゃないよ。心から愛してる。クロエのためなら何でもできるし、クロエが死んだら俺も死ぬ」
俺は本心からそう答える。
「そうだったんですね…。それなのに私は、兄上の最愛を奪おうとしてしまった…」
「そうだな」
「兄上!本当に申し訳ありませんでした!!」
そう言って、エストワールは謝罪する。
心からの謝罪であることが俺にもわかった。
反省したみたいだな。
「エストワール」
「はい、兄上」
「昔みたいにいつでも俺を尋ねてきてくれていいぞ」
「!!。はい!!」
そう言って嬉しそうにエストワールは返事をした。
ゲームと形は違ったが、兄弟の和解の瞬間だった。
エストワールは剣の稽古をつけてもらってから、アレクシスに心酔するブラコンになっていました。
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