その後3 【アラン・キルケニー】
更に次の日。
今日はアラン・キルケニーを呼び出す日だ。
正直言って、スカーレット嬢への迷惑行為を謝罪しなかった事もあり、彼はマルクスやダニエルのような措置にはならないだろう。
とにかくロイドが絶対に許さないだろうし…。
という事で、今回の立ち会い人はロイドだ。
もう、ご愁傷さまとしか言いようが無い。
俺も許す気は無いけどな。
ちなみに後からもう一人呼んでいるが、取り敢えずアランの処遇からだ。
「アラン・キルケニー、入れ!」
ロイドの厳しい声でアランが入室する。
先の二人のような悲壮感は無い。
いつもと変わらない、自信家の姿がそこにはあった。
アランは、赤い髪にオレンジ色の目という派手な見た目をしている。イケメンじゃなきゃ許されない色味だな…。
一緒にいると目がチカチカして疲れるから、早く終わらせるか…。
「やぁ、アラン。今日は君の今後について話し合おう」
「殿下!俺はリリアに騙されていただけなんです!」
おおっと!いきなり言い訳ですか…。
底が浅い男だなぁ。
「騙されていたとは?」
俺は冷静に聞く。
「はい。お恥ずかしい話、彼女への恋心を利用されてあんな事をしてしまいました…。あの時の俺は熱にうかされ、正常だったとは言えません!」
「ほう…、なるほどね。では、スカーレット嬢への迷惑行為は?」
「迷惑行為だなんて!彼女は俺の事を好いてくれていました!迷惑だなんて思うワケがないんです!リリアさえ現れなければ、今頃はスカーレットと幸せになれたのに…」
もうね。怖くてロイドの方を見れないんですよ…。
コイツ、今日死ぬんじゃないかな?
「パーティーで、スカーレット嬢は5年前からロイドの婚約者だと言った筈だが?」
「ははっ、殿下。それは政略結婚でしょう?彼女が真に愛していたのは俺なんです!それにロイド様は、キマリエ公爵家のアビゲイル嬢と愛を育んでいらっしゃるとか。どんな美女が誘っても靡かない氷の貴公子のロイド様が、アビゲイル嬢の茶会だけは出席されているのは知られていることですよ?」
いや、それはキマリエ公爵直々に頼み込まれて出席してるからねぇ。同じ公爵家の当主に頼まれて、ただの公爵子息が断れるワケないでしょう。しかも2回くらいだけだし…。
ロイドを見ると、めっちゃ落ち込んでいる。
えぇっ!こんな事で自信喪失しないでよ…。
二人はずっと前から思い合っていたんでしょう?
この前、お互いをずっと愛していた事を再確認したんでしょう?
まったく…、しょうがないな。
「アラン。ロイドがアビゲイル嬢に心を寄せた事など一度も無いよ。お茶会も、キマリエ公爵に頼まれて仕方なく出席しただけだから」
「えっ!そうなんですか?」
アランがロイドを見る。
「はい、その通りです。私がアビゲイル嬢に懸想しているなどと…、そんな事実は一切ありませんよ」
どうやら落ち着きを取り戻したようだな。
後はロイドに任せるか。
「ところで先程、聞き捨てならない話がありましたね。レティが貴殿を愛しているとか…」
愛称呼びで牽制してきたな…。
臨戦態勢に入ったか。
「そうです!スカーレットは奥ゆかしいので態度には表してくれませんが、俺の事を愛してくれています!」
「証拠は?」
「証拠ですか?」
「そうです。レティがあなたを愛しているという証拠です」
「愛に証明は難しいと思いますが…そうですね。スカーレットは俺の話を黙って聞いてくれます。きっと、俺の側が心地よいのでしょう。それに、俺に言い寄られて嬉しくない女性なんていませんよ」
コイツすげぇな。それだけでスカーレット嬢が自分の事を好きだと思ってたのか…。とんだナルシストだな。
それに、絶世の美男のロイド相手に容姿を引き合いに出すなんて…。身の程知らずとはこういう事なのか…。
「そんな事では、レティが貴殿を愛していたとは言えませんね。レティはいつでも態度で表してくれますよ?」
「そんな筈は!」
「失礼します!!」
そう言って入室してきたのは、渦中のスカーレット・ミレン辺境伯令嬢その人だ。
『待っていたもう一人』とは彼女の事だ。
ロイドが暴走しないようにストッパー役として呼んだんだよね。
そんな事とは知らないアランは、自分を助けに来てくれたと勘違いする。
「あぁ!スカーレット!俺のために来てくれたんだね。ロイド様、やはりスカーレットは俺の事を愛してくれていますよ!」
大袈裟に感動し、アランがスカーレット嬢の手を握ろうとする。
が、スカーレット嬢が手を跳ね除けた。
と、同時にアランの首元にロイドが剣を当てている。
怖っ!
「汚い手で俺のレティに触るな」
静かに怒れるロイドに圧をかけられる。
おい、素が出てるぞ…。
スカーレット嬢もアランを睨む。
「ロイ様の前で私に触れないで下さいませ。それに前から言っていますが、私が貴方を愛している事実などありません!」
「そんな!スカーレット…。嘘だよな!俺がリリアに靡いたから拗ねているのか?」
うわぁ…。スカーレット嬢が毛虫を見るような目でアランを見ている。ロイドも不機嫌の極みにいるな。
「キルケニー侯爵子息様。私は5年前にロイ様と初めて会った時から、ずっとロイ様しか愛していません!ロイ様以外の誰かが私の心に居座った事もありません!ずっとロイ様一筋です!貴方の発言は妄言ですし、私に付きまとうのははっきり言って迷惑でした!!」
おぉ…言い切ったな。
ロイド、ニヤニヤするな。
「そ、そんな…」
「こっち見んな!ナルシスクソヤロー!」
スカーレット嬢…口悪いな。
アランはきっと、ここまで女性に拒絶された事がなかったんだな。見事に崩れ落ちている。頃合かな?
「という事で自信家のアランくん。この国の女性に拒絶されて傷心の君には、良いチケットを用意してあげたよ。なんと、ヨルム国への永住権だ!」
「!!!?」
ヨルム国――そこは女王の支配する国である。
ヨルム国は文明が低いワケでもなく、国民の容姿が特別醜いワケでも無いから安心してほしい。
むしろ文明は最先端と言ってもいいだろう。
ただ、あの国はそんなに甘くは無い…。
女性優位のため選択権は女性にあり、彼女達は優秀な遺伝子しか求めない。
容姿が意味を成さない国、というだけだ。
今のアランのように、何もしなくても自分の容姿に女性が寄ってくると考えているヤツにはぴったりだろう。
「そんな、殿下!待って下さい!」
「出発は卒業式後すぐだよ。君、外務大臣の息子なんだから、我が国とヨルム国の架け橋として頑張ってきてくれよ。国益が掛かってるから、逃げないでね…」
そう言って釘を刺す。
まぁ、外務大臣子息の称号もあと僅かだけどね。
それにホントは国益なんて掛かってない。
あちらには容姿オンリーの無能が行く、と言ってあるから。
それを了承したのはヨルム国だ。
能力カーストが酷いあの国では、定期的に低能の生贄が必要になる。いわゆる、ガス抜きだよね。
せいぜい、ヨルム国で役に立ってきてくれ。
アランが護衛騎士に連れられ部屋を出て行った後、執務室では甘酸っぱい雰囲気が流れていた…。
「レティ、あの王宮でのお茶会から…その、俺の事が好きだったの?」
「…はい、ロイ様。だってロイ様、素敵ですから…。その容姿もですが、所作や足捌き、気配の配り方まで完璧なんですもの!その長い手足も羨ましいですわ…。モチロン、性格も素敵ですわよ!!」
「レティ!」
甘い…のか?
二人がいいならいいか…。
前にミレン兄弟が『武人として見てる』と言っていたのはこのことだったんだな…。
でも、目の前でイチャイチャされるのは腹が立つな。
「二人とも!そういう事は家でやってくれ」
『はっ、申し訳ありません!殿下!』
はぁ〜、俺もクロエとイチャイチャしたい…。
次は、エストワールの番です。
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