その後2 【ダニエル・カイオム】
ヨハンの瞳の色の表記を変更しました。
ライムグリーン→翡翠色
次の日に呼ばれたのはダニエル・カイオムだ。
カイオム騎士団長の息子である。
今回の立ち会い人は、ヨハンとクリストフになった。
ロイドは引っ越しの準備が…とか言っていたな。昨日の今日でご苦労な事である。
ヨハンは、婚約者のシルヴィアが迷惑を被っていた事もあり、殺る気まんまんである。いざとなったら、クリストフと一緒に止めなければ…。
「ダニエル・カイオム、入れ」
クリストフに呼ばれ、ダニエルが入室する。
……。
何でそんなに満身創痍なの?
ダニエルは、全身傷だらけで松葉杖をつきながら入室した。
これにはヨハンもびっくりだ。
クリストフだけが事情を知っているようだった。
「ダニエル、どうしたの?」
「…。これは自業自得なので」
そう言って黙ってしまう。
いや、いや、説明してよ!
ここでキャラの寡黙さとか出さないで!
ダニエルは黒髪短髪の茶色の目をしたイケメンで、将来は父のような騎士団長になりたい!と、ひたむきに頑張っている青年だ。
ただ、今は見る影もない…。
ここは、クリストフがしょうがなく答える。
「あぁ〜、殿下。これは騎士団長によるものですね」
「えぇっ!本当に?」
まぁ何となく察してはいたが、一応驚いてみる。
ダニエルの反応を見るが、うんともすんとも言わない。
う〜ん…。でも、一方的に傷つけられたのか、実力が及ばなかったのかは念の為聞いておかないとな。
カイオム騎士団長は人格者だと評判だが、この様子を見る限りパワハラ野郎とかじゃないよね?
「どうしてそんな状態になったのか詳しく説明してくれるかな?これじゃあ、傷が気になって今後の話もできないから」
「……」
「ダニエル、言うんだ。殿下はお前を悪いようにはしない」
クリストフが話をするように促す。
「早くしないと、そこにいるヨハンから拷問を受けるぞ」
「えっ?ちょっとクリストフさん何て事言ってるんですか!」
ヨハンよ…、俺もクリストフに同意だ。
だが、ダニエルはびっくりしている。
こんな小動物みたいな男が…とでも思っているんだろう。
実際、ヨハンは身長も165cmくらいしかない。
栗色のフワフワの髪の毛に、翡翠色の瞳を持つ癒やし系イケメンだ。
ただその見た目に反し、中身は商魂逞しい暗殺者である。
ギャップ盛りすぎだよね!!
「えっ?本当の事だろ?」
とクリストフが言った瞬間に、ヨハンがナイフを投げた。
ヨハン…、クリストフに対してだけ短気すぎないか?
だが、ナイフはクリストフに刺さる事なく、人差し指と中指で受け止められている。
ねぇ、前にもやってたけど、それどうやってんの?
もう、手品だよね?
以前にクリストフに話を聞いた時は、「目がいいからっス!」って言ってたけど…。
そう、クリストフは目がいい。
射撃の腕前は、戦闘最強のイスタークよりも上だ。
近接も強いが、遠距離においてその真価が発揮される。
普段はヘラヘラして好きな人に尻尾を振って付いてくる犬みたいなヤツだが、いざ戦闘となると、俯瞰で物事を判断する効率重視の狙撃手となる。
背は178cmくらい、ブルネットに紅い瞳で、見た目は細見で柔和なイスタークという感じだ。もちろんイケメンである。
そんな二人のやり取りを見て、ダニエルがずっと驚きっぱなしで置いていかれている。
まぁ、俺も置いてかれているがな…。
ここは、俺がまた声を掛けるか。
「ダニエル、何をそんなに驚いているの?」
「クリストフ様が強い事は知っていましたが、ヨハン様もお強いんですね…」
「人は見かけによらない、という事だよ。騎士団長に習わなかった?」
「…はい。確かに父に、実践でそのことを思い知らされました」
実践で?
俺が不思議そうにしているのに気付き、ダニエルが説明してくれる。
「実は、父はリリアの本性が分かっていたようなのです。そのため、『あの女の元に行きたいのなら、俺を倒してから行け!』と言われ…。俺は父に挑む事になりました」
良かった。一方的な可愛がりじゃ無かった!
騎士団長パワハラ疑惑はクリアだな。
「俺は、父は見た目通りの大振りなパワー攻撃しか出来ないだろうと、高を括っていました。けど違ったんです。小回りの効く技巧的な攻撃もあり、俺は為す術もなく敗北しました。そして『頭を冷やせ!よく思い返してみろ!』と言われました」
その時の事を思い出して苦い顔をしている。
相手の実力を見くびらない、これは戦闘において鉄則だからな。
「君は、ヴァーベナ男爵令嬢の上辺だけ取り繕った言葉に気付いていた?」
「当時は気付きませんでした。でも思い返してみれば、いつも同じ言葉しか掛けてもらってなかったような気がします」
手抜き攻略かよ…。
可哀想に…。本命じゃなかったんだな。
「ヴァーベナ男爵令嬢の見た目や、話し方、身振り手振りなどに翻弄されていたんだね。そして本心まで見抜けなかったと」
「…はい」
一応の反省はしているみたいだな。
「では、君には本心を見抜く鍛錬をしてもらおう。ヨハン!」
「はい、殿下」
「ベイカー商会でダニエルを雇ってくれないか?」
「えっ?カイオム伯爵子息をですか?」
「あぁ。もちろん伯爵子息の肩書きは無しで、ただのダニエルを雇ってほしい」
「まぁ、それならいいですけど…」
ヨハンが承諾してくれた。
ダニエルのこれからの頑張りに期待したい。
「ちょっと待って下さい!あんな騒ぎを起こした俺を雇うなんておかしくないですか!それにベイカー商会にも悪い評判をつけてしまいます!!」
ダニエルは、こんな罰は優しすぎると訴えてくる。
するとヨハンがそれに答える。
「ダニエル。君はベイカー商会で何をさせられると思っているの?」
「えっ?商品の護衛とかじゃないんですか?」
「殿下は『本心を見抜く鍛錬』と言ったんだよ?商人の一人になるに決まっているじゃないか!」
「えぇっ!!」
本当に言葉を上辺だけでしか捉えないんだな…。
そしてヨハンは流石である。あれだけの情報で、俺の本心を探り当てた。頼りになるなぁ。
「これからみっちり、一流商人になるようシゴイてあげるからね?」
ヨハンが黒い微笑みを浮かべている。怖っ!
「それに問題児を更生させ、一流の商人に育て上げれば、ベイカー商会の評判も更に上がるというもの。君の底辺の評判を有効活用させてもらうよ」
いや、本当にヨハンは商魂逞しいな…。
いっそ清々しいくらいだ。
「な?だから殿下は、ダニエルを悪いようにはしないと言ったろ?お前の弱点を克服する手助けと、就職先まで斡旋してくれたんだから」
クリストフもそう言ってくる。コイツ、良い所だけ取りやがったな…。
「精一杯、精進します!ヨハン様、よろしくお願いします」
そう言ってダニエルが頭を下げる。
ヨハンに商売習うなんて…俺ならごめんだな。
どんな目に合うか、わかったもんじゃない。
めちゃくちゃキツいと思うが、自分には後がないと思って頑張ってくれ!
数年後、立派な商人になったダニエルは、ベイカー商会の支店を任せられるまでに成った。騎士団長を目指していたのに大転換である。
ただ、女性の心の裏を読み過ぎて、未だに伴侶に恵まれないらしい…。
何事もホドホドが大切だよね。
【小話】
またもや辞職を願い出たカイオム騎士団長は、憧れのミレン辺境伯に諭され、現職に留まります。実力的には、
ミレン辺境伯 >>>>>> カイオム騎士団長
という感じです。
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