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「何を馬鹿なことを!お前はここにいるリリアに酷いイジメを行ったそうではないか!私とリリアの仲を妬んでな!」

「どこにそのような証拠が?」

「リリアがそう言ったんだ!被害者の証言があるんだ!言い逃れできないぞ!!」


カイオム伯爵子息が吠える。

本当になんてアホな連中だろう。

そんなものを証拠と信じているいるなんて。

カイオム騎士団長の顔が般若のようになっているぞ。


「そんなものは証拠とは言えませんわ。私は物的証拠や第三者の証言を求めているんです」


クロエの言う通りだ。


「それなら僕が証言しよう」


そう言ってピリング教皇子息マルクスが前に出る。

お前、自分の立場を分かっての発言だろうな?

会場にいるピリング教皇を見ると、険しい目つきでマルクスを見ている。2度目は無いと見た。


「3ヶ月ほど前、放課後の教室で教科書をビリビリに破られ、びしょ濡れのリリアがいたんだ。可哀想に…リリアは泣いていたが、その時には気丈にも誰にやられたかは絶対に言わなかったよ。2週間前にはもっと危険な事が起こった。授業終わりに誰かの叫ぶ声がしたんだ。僕は慌てて声のする方に向かったら、中央階段の下でリリアが倒れていた…」

「だから何ですの?」

「命の危険を感じたリリアは言ったんだ!階段から落ちる時、ミルクティー色の髪色の女生徒が走り去るのを見た!とね」

「バカバカしい…」


クロエが特大のため息をつく。

俺も呆れてしまった。

ミルクティー色の髪の毛なんてこの国には結構いる。

さっきから言っているが、それがクロエであるという確固たる証拠は未だ示せていない。

一体、彼等は学園で何を学んできたんだ…。

意思疎通もできないのか?

あっ、ピリング教皇が側近に何か言付けている。

マルクス、脱落だな。

そんな事を思っていると、ヒロインが話しだした。


「そんなっ!クロエ様、あんなことをしておいて恥ずかしくないんですか?確かにエスト殿下と仲良くなった事は申し訳ありません…。でも!政略結婚なんて悲しすぎます!王族だって一人の人間なんです!真に愛する人と結ばれるべきなんです!私は…男爵令嬢と身分は低いですが、エスト殿下を愛する気持ちと支え合いたいと思う気持ちはクロエ様には負けません!」

「リリア…なんて優しいんだ!そなたこそ私に相応しい!」


…はいはい、三文芝居は他所(よそ)でやってください。

しかし、我が弟ながらアホだな。そんなぬるい甘言で騙されるとは…。

ソイツ、綺麗事しか並べてないからな。

中身スッカラカンの発言だからな。

しかもエストワールを愛していると口では言ってながら、めっちゃこっちに熱視線送ってくるんですけど…。

エストワール、気付いてる?

それに心配されなくても俺は『真に愛する人』と結ばれましたけど〜。余計なお世話ですぅ。


と、そんな事を考えていたらロイドとクロエの朗朗(ろうろう)たる声が響く。


『茶番だな(ね)』

「ロイド!クロエ!何だと!」


エストワールが叫ぶ。


「茶番だと言っているんです。特に最近の国外情勢が怪しい中で、王族の存在意義も、その肩に乗っているであろう重責もわからないとは…。エストワール殿下は王子教育を真面目に受けられたのですか?」

「まったくお兄様の仰る通りですわ!王族とは誰にもおもねることの無い存在。支え合うなど生温い事を…。国にとってより良い選択肢を選んでもらう為、身を粉にする覚悟も無いとは…」


ウィラー兄妹が早口で捲し立てる。

すげぇ忠誠心だな。

俺は、ただただ感心してしまった。

でも、どことなく心がフワフワして温かい。こんな風に思ってもらっているとは思いもしなかった。

クロエの発言にも特大の愛を感じる。さっき『全てを捧げる』と言われた事がフラッシュバックしてニヤけてしまう。

俺の愛も重いけど、クロエの愛もまぁまぁ重いようだ。

それがすごく嬉しい…。


「それにアレクシス殿下に万が一の事があれば、エストワール殿下が次代の王なのですよ?お分かりですか?」


うん?それは聞き捨てならないぞロイドよ。


「ストップ!ストーップ!!」

『アレクシス殿下…』

「二人の忠臣ぶりは良く分かった。まずロイド。私はそんな簡単に死なないから」

「失言でした」


いや、それホントマジな!


「次にクロエ。身を粉にするとか…そこまでの自己犠牲精神は私も求めてないから。アドバイスは欲しいが、私が一番求めているのはクロエの愛という事を忘れないでね」

「失礼しました」


クロエ真っ赤だな。めっちゃ可愛い…。

出来ることなら一生俺の腕の中にいてほしい…。


「兄上…これはどういう事ですか?」


ウィラー兄妹の勢いに押されたエストワールが、涙目で聞いてくる。打たれ弱っ!!


「どうもこうも、クロエは私の婚約者だよ。5年前からね」

「「「「「えっ???」」」」」

「それにキルケニー侯爵子息。スカーレット嬢も同じく5年前からロイドの婚約者だ。どうしてこういう間違いを犯すのか理解できないが、君の婚約者ではないことは確かだ。それにミレン辺境伯は国境の要だよ?君が田舎貴族と馬鹿にしていい存在ではない。正直な話、現時点でキルケニー侯爵家よりミレン辺境伯の方が私にとっては優先順位が高い。この意味、お分かりだね?」

「そっ、そんな…」


アランが青い顔をして呟く。キルケニー侯爵を見るとこちらも息子に負けないくらい青い顔をしていた。

ミレン辺境伯家から『婚約者だと勘違いされて迷惑している』という抗議を受けた時に、何でこの事態を想像できなかったのかな?

息子の手綱を握れてないのか?それとも息子に甘いのか?

どちらにせよ、キルケニー侯爵は外務大臣としても無能を晒している。

クインビー外務副大臣に昇格おめでとうと伝えなければな。


さて、この場を収めるか。

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