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男子会です。
誤字報告、ありがとうございましたm(__)m
秋試験も終わり、世間がデビュタントに向けてそわそわし出す頃、俺たちはある悩みを共有するために集まった。
「あの女の子、行く先々で出会って怖いんだけど…」
「ヨハンもかよ!実は俺もなんだよね…」
「お前たちもか…。俺もそうなんだよ」
「えっ!兄貴も?」
「殿下とロイドはどうなんだ?」
イスタークに言われ、俺たちも答える。
「俺も殿下も同じだよ」
「本当、困るよね〜」
そう、悩みとはヒロインの事である。
彼女とは高確率で遭遇する。しかもただ出会うだけなのだ。
話しかけられもしないし、何かされるわけでもない。
ただ、いるだけなのだ。
話しかけられるのを待っている気がするので、いつも無視してるんだけど…。
ストーカー行為マジで怖い。
お前が言うな!という言葉は受付けない。
「殿下〜。接近禁止令とか出せないんスか?」
クリストフが聞いてくる。
「危害を加えてくるワケじゃないから難しいかもね。相手は女の子だし、敵意も無いし…。ただ出会うだけだからね…」
「そうなんスね…。狙撃…できないかなぁ…」
クリストフがしょんぼりしながら怖い事を言ってきた。
「一般人、絶対殺しちゃダメ」
俺は静かに釘を刺す。
「でも殿下!聞いてくださいよ!!この女のせいで、イザベラとあんまりうまくいってないんですよ!!俺にとっては死活問題です!!」
「クリストフさんもですか!!僕もなんですよ~。シルヴィが冷たい…。あの女何?って顔でいつも見られてるんです~」
「俺もミカがギャビーに報告するみたいで、手紙が減った…。領地に帰りたい…」
イスタークの婚約者のガブリエラ嬢は卒業後、辺境伯領にいる。こちらは元から婚約している事がわかっているカップルのため、彼女は辺境伯領で花嫁修業中だ。
手紙でやり取りを行っているらしく、ちょっと前のロイドを見ているようだった。
また、ガブリエラ嬢の妹のミカエラ嬢は、学生のため王都のタウンハウスにいる。仲の良い姉妹らしく、イスタークの様子は筒抜けらしい。
「ロイドはどうなんだ?」
「変わりなくだな」
「お前…、レティにちゃんと相手にされているか?」
「どういう意味だ?」
本人は心底、心外そうにしているが、スカーレット嬢の兄たちにはどんな状況か手に取るようにわかるようだ。
というか、みんな察している。
「少しは進展したんですか?」
「よく聞いてくれたヨハン!殿下の計らいで、剣術の稽古をしてから少し会話が続くようになった!」
ロイドは嬉しそうだが、みんなは頭を抱えている。
「まぁ、レティもレティだからな…」
「だよね兄貴…」
「イスタークたちは、スカーレット嬢とロイドの話とかするの?」
ロイドが凄い期待を込めた顔でこちらを見てる。
外すなよミレン兄弟!!
「するにはするけど…、あんまり色気の無い話だぞ」
「そうですよ。ロイド様は剣筋が良いとか、槍の扱いについてはクリストフお兄様より上、とか…。基本的に武人としてしか見ていない様子ですよ」
「それは…女の子にしては特殊な褒め方ですね」
本当にヨハンの言う通りだよ…。顔が良いとか出ないのかよ!あのロイドだぞ!
ロイドを見ると何故か照れてる…。
それでいいのかよ…お前。
「ロイドは、スカーレット嬢とこうなりたい!とか無いの?」
「うーん。強いて言えば対等な関係になりたいな。これから先、長い人生を共にするんだ。気兼ねなく過ごせる関係になりたい!」
「いや、俺が聞いているのはそういう事じゃない…。そんな真面目な話、クソ面白くもない!」
「アレク…口が悪いぞ」
「まぁまぁ、殿下もロイドさんも落ち着いて!ロイドさん、殿下が言いたいのは男女関係の進展の話ですよ」
ナイス、ヨハン!わかってるね〜。
「ちなみに俺は、クロエと早くキスしたい」
「おまっ!!ひとの妹になんて思いを抱いてるんだ…」
「いやいや普通でしょ?これでもクロエがデビュタント前だから、だいぶ我慢している方なんだけど」
「えっ?殿下、クロエ嬢とキスもしてないの?有り得ない…。よく頑張ってますね…」
クリストフが驚いている。
「確かに殿下は手が早そうだからな…」
イスターク…覚えてろよ。
「俺だって分別くらいはある!」
前世のサガもあり、俺は俺で中々踏み出せないでいた。
この国でも18歳が成人として見られる。クロエは春生まれのため、18歳にはなっていた。ただ、前世で言う『成人式』に当たるのがデビュタントのため、それまでは待とうと自分で決めていたのである。
「それよりロイドだよ!どうなんだ?」
「いや、まぁ…そういう気持ちも…無くは、ない…」
語尾が小さくなっていく。
こんな事で恥ずかしがるなんて、聖人かよ…。
「だろう?ならチンタラしてんなよ。もうちょっと踏み込め!」
「殿下…。一応、レティは俺らの妹なんで…。身内のそういう話はちょっと勘弁です」
チッ。クリストフめ。
「ロイドさんは、スカーレット嬢に好意を伝えたりしたんですか?」
ヨハンが聞く。
「いや、言おうとは思うんだけど…中々、口に出せなくて。プレゼントの力を使おうとも思ったんだが、結局渡せず仕舞いなんだ…」
ヘタレ過ぎるだろ…。
「わかった。ロイド。次の逢瀬でスカーレット嬢に告白しろ!」
「はぁ?そんなのアレクが決めるなよ!」
「出来なければ俺が付いてって強制的に告らせるからな!」
「いやいや、そんなの必要ないから」
「お前…そんなに悠長にしてていいのか?好意も伝えない、プレゼントも無し、デートも行かないなんて…。今は自由恋愛が流行っているって事、忘れてないだろうな」
「分かっている!」
「なら、スカーレット嬢から婚約破棄されないように頑張れ!煽るような事言って悪かったな。お前の気持ちを知っているからこそ、俺は上手くいってもらいたいんだよ」
「そうだよ。ロイドに上手くいってもらいたいと思っているのは、ここにいる皆の共通の思いだから」
クリストフがそう言うと、みんながうんうんと頷く。
「みんな…」
感動の友情シーンだな、と思っているとロイドが何かに気づく。
「……うん?えっ!?みんな…俺がスカーレット嬢に惚れ込んでいるって知ってたの…?」
ロイドの顔がみるみる赤くなる。
クールなイケメンが台無しだなと思いつつ、仲間内でしか見せない人間らしさに好感を持つ。
「そういう事だから、何か手伝ってほしい事があれば言えよ」
そう言って、男の友情を再確認したのである。




