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連載です。
目が覚めた時、違和感しかなかった。
見慣れない豪華な天井、肌触りのいい寝具、そして小さな手!?
どういう事だ…。何が起こっているんだ!?
昨日3年付き合った彼女に振られ、ヤケ酒したからか?
ワインと日本酒はちゃんぽんしちゃダメなのか!!?
そうか!これはまだ夢か…、ってそれならもう起きないとヤバイ!今日は朝一で会議なんだ!!
「アレクシス殿下っ!!目が覚めたのですね!今すぐ医師を呼んで参ります!」
そう言って、メイドの格好をしたお姉さんが部屋を出ていく。えっ?どういう事?
……アレクシス殿下?誰それ?
俺は川田隆二、しがない25歳の会社員ですが…。
モソモソとベッドを降り、大きな姿見まで向かう。
そこにはキューティクルつやつやの金髪に、海のような水色の目をした美少年が写っていた。
えっ???
俺が手を挙げる、鏡の美少年も手を挙げる。
俺がジャンプする、鏡の美少年もジャンプする…。
マジかよ…。俺じゃん…。
もしかしなくても異世界転生ってヤツですか!!
そう気づいた時に急に頭痛に襲われた。そのまま意識が遠のき、次に起きた時にはまたベッドの上だった。
俺は気を失ってからそのまま2日寝込んだらしい。その間にこの体の元の持ち主の記憶と、川田隆二の記憶が融合した。昔から環境適応能力が高いと言われていただけあるな。ボーイスカウトやっといて良かった。関係あるかわからんが…。
まぁ、元のアレクシス殿下の記憶を辿ると、
アレクシス・エアスト・ミストラル、8歳。
ミストラル王国の第一王子。
2歳下にエストワールという弟と5歳下にアナスタシアという妹がいる。
父、母とも関係は良好。品行方正で人望も厚い。
現在、婚約者はいない。
そんな所か…。でも、何故ベッドに寝かされていたのかはモヤがかかって思い出せない。でもまぁ、そのうち思い出せるだろう。
そんな事があったため、周りの心配は度を越していた。確かに第一王子が倒れるって大事だよな~。いつでもどこでも誰かが付いて来て、何でもしてくれる。一人暮らしをしていた隆二としては、ちょっと一人になりたい時もある…。
そんな様子に気づいたのは、意外なことに宰相のルーカス・ウィラー公爵だった。ダークブラウンの髪に優しげな緑の瞳のイケオジは、たまに宰相の執務室に俺を呼び出しては一人にさせてくれる。時間としては30分くらいだが、俺にとっては良い息抜きになっていた。
ある日、いつものように執務室で一人を満喫していると、誰かが部屋をノックする。
「父上!ロイドです。忘れ物を届けに来ました」
他に対応する者がいないので、俺は扉を開ける。
そこにはミルクティー色の髪に、綺麗なエメラルド色の瞳をした美少年が立っていた。年は同じくらいだが、俺より背が高くて足が長い…。自分よりイケメンを初めて見た。
「ア、アレクシス殿下!!」
彼は俺を見て恐縮する。
「そんなに畏まらないで。宰相は留守だよ。あともう少ししたら帰って来るんじゃないかな?」
俺はニッコリ笑い、彼に話しかける。
「君はウィラー公爵の息子さんかな?」
「はい!ロイド・ウィラーと申します。殿下におかれましてご機嫌うるわし「あ〜!そういうのいいから」」
「えっ?」
「ちょうど暇してたんだよね。ゲームに付き合ってよ。手加減しなくていいからさ!」
そう言って俺はロイドを引っ張りソファに座らせる。一人でやっていたチェスを片付け、再度、態勢を整える。
そろそろ遊び相手が欲しいと思っていたのは本当だし、自分の力がどこまで通じるのか試したい気持ちもあった。だって男の子だもんね!
結果、俺はロイドに惨敗する…。意気込んで勝負を仕掛けてバカみたいだった。落ち込む俺を見て、ロイドは優しく言う。
「殿下のあの奇襲攻撃には参りましたよ。とっておきの作戦だったんですね。僕には殿下ほどの創造力が無いから考えもつかない…。辛うじて勝てたのは、殿下が勝負を仕掛ける時に顔つきが変わったからです。ポーカーフェイスでされたら、僕が負けてましたよ」
「気休めはやめてくれ!」
悔しくて強めに答えてしまった…。中身は大人なのに…。本当は褒められて嬉しかったし、一緒に遊んで楽しかったのに…。こんなんじゃもう一緒に遊んでくれないかもな、と思っていると、
「そんな事ありませんよ!兵を大切にしながら戦う殿下の一手はとても美しいものでした!また再戦したいです!!」
とロイドに言われる。俺は嬉しくなり、
「望む所だ!次は絶対に勝つ!!」
と熱い友情をロイドと交わした。
「中々、白熱したみたいですね、殿下」
「宰相!」
「父上!」
「今日は偶々忘れ物をしてしまったのですが、今度からロイドも一緒に王宮に登城させましょう。殿下、ロイドに色々教えてやってください」
「あぁ、わかった!任せろ!」
「よろしくお願いします!アレクシス殿下!」
そうして俺は無二の友を得たのだった。
しかし後から冷静に考えてみたが、アレは全て自分の子供を俺の側近にしたい宰相の仕組んだ事だったのでは?と思う。あんなに優しそうなのに…食えない男だ。
ロイドもそのうちあの父親みたくなるのだろうか…と思った途端に急に記憶が蘇る。
「あっ、これ乙女ゲームだ!」
俺はまさかの乙女ゲームの世界に転生してしまっていたのだった。
アレクシス殿下は転生者でした。