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躍進 1

 ホーンラビット狩りを成功させた翌日からというもの、俺たちは快進撃を続けていた。結論から言うと、ホーンラビット狩りの次に予定していたゴブリン狩りは大成功を収めたのだ。


 ゴブリンが集まる洞窟に向かった俺たちは、当初、洞窟の中には入らず、周囲を巡回していたり、外に出てきたりする一部のゴブリンを狩るという方針を立てていた。


 しかし、俺がボルケーノショットを連射しているだけでただのゴブリンなら何体でも倒せそうだったので、予定を変更して、洞窟の中を探索することに決めた。


 途中、ホブゴブリンに出会ったり、ゴブリンが何体か集まった小規模な群れに出会ったりしたが、問題なく殲滅できた。


 だが、ゴブリンウォリアーが前衛を、ゴブリンメイジが後衛を務めるというパーティじみた構成のゴブリンと戦った時は流石に若干苦戦した。


 とはいえ、戦士なだけに、剣による攻撃力だけではなく守りも堅いナンドと協力して攻撃を凌げば問題はなかった。ナンドにとっては若干格上の相手なので、ナンドは防御優先で攻撃は少なめだったが、それで十分だった。もちろん無傷とは行かなかったが、軽いケガならティムの魔法で簡単に回復できる。


 結果として、俺たちはゴブリン狩りでかなりのお金を稼げるようになった。ゴブリンやその上位種は直接お金を落とすモンスターなので、Fランクでクエストを受注できない俺たちが狩っても金になるからだ。もちろんクエストの達成報酬が入らない分儲けは減るが、それでも本来ならEランクの冒険者が手に入れるくらいの金額がコンスタントに手に入るようになった。


 現状、Eランクの冒険者が倒すようなモンスターが倒せるのに、クエストを受注できないためにEランクになれないのはあまりにも理不尽だ。一応、Fランクにはすぐになれたのだが。

 そう思った俺がギルド職員に尋ねたが、それは当然のことだと言われてしまった。


「いいですか? 本来Eランク向けのモンスターが倒せたから自分はEランクだ、などというのを認めてしまったら、無理にゴブリンファイターやゴブリンメイジを狙って死ぬ駆け出し冒険者が増えます。それに、ランクというのはすぐに上がるものではないのです」


 まあ、確かに無理をしてしまう冒険者は増えるだろうな。ただでさえ駆け出し冒険者の死因はゴブリン狩りの失敗が多いというし。だが、ランクは本当に上がりにくいのか?


「そうなんですか? 俺のランクはすぐFランクに上がりましたけど……」

「Fランクに上がるのはすぐなんですよ。どのみち、GランクもFランクも駆け出し冒険者の括りですから。それに、本来ならGランクのうちは雑用仕事をするところをあなたはFランクの冒険者と組んで常設依頼で上げたのでしょう? それならばランクアップが早くて当然です」


 なるほど。Gランクは本来雑用からというのは知らなかったな。きっとティムやナンドは雑用から始めたのだろう。ギルド職員はさらに話を続けた。


「Eランクになるということの意味は大きいです。駆け出し冒険者を卒業して、半人前の冒険者くらいの扱いは受けます。それに依頼を受注できるようになるということは、『この仕事は必ず自分たちが成功するから任せろ』という契約を交わすようになるということなのですよ。そこには責任を伴います。いくら腕っぷしが強くても、Fランクのうちに苦労して、依頼を必ずやり遂げるという精神を培ってもらわなければならないのです」

「なるほど……。俺が浅はかでした。すみません」


 確かにそうだ。俺たちならまだしも、ギリギリの生活をしている一般的なFランク冒険者は、一度常設依頼を達成し損ねただけでも冗談抜きで破産しかねない。そうやって、身をもって依頼に対する姿勢を養うことになるのだろう。


 しかし、それにしてもFランク冒険者の生活は厳しすぎるようにも思えた。毎日の宿代を稼ぐのがせいぜいでは、休養もまともに入れられず、武器が壊れたりパーティメンバーが怪我しただけで一巻の終わりだ。


 冒険者は底辺職だと言い切ったあのいけすかない受付嬢の言い分にも一理はあるのだと思い知らされてしまった。


「分かればいいのです。国の支配下に入った転生者は、Cランクから始めていきなり一人前扱いをされるものらしいですが、私からすればあり得ませんね」


 そう言って、ギルド職員は話を締めくくった。そんなシステムまであったのか。


 とにかく、そう言われてしまえば地道な下積みを続けるしかない。とはいえ、金銭的な余裕が生まれた俺たちは、その分休養日を多めに入れる余裕も生まれた。


 その時間で、俺はこの世界の言葉を読み書きする練習をすることにした。神が何かの処置をしたのか、口での会話には困らないものの、読み書きはできたほうが絶対にいいだろう。


 問題は、教科書もなくどうやって勉強するかだった。

 というか、仮に教科書があったとして、文字が全く読めないのでは学びようがない。


 俺はまず、街に読み書きできる人がいないか探してみた。すると、現状はまだ文字を読めない人がいる為、代読・代筆業務をこなしている人がいることがわかった。


 冒険者ギルドでは受付嬢が代筆をしてくれたが、依頼ボードを代読してもらったり、冒険者ギルド以外で代筆をしてもらう場合などはこうした人々に依頼することになるらしい。言われてみれば、依頼ボードのそばにずっと立っている人がいたような気もする。

 

 俺はそう言った人々に、文字ごとの読み方だけでもお金を払って聞けないか打診してみた。


 もっとも、ひらがなのような表音文字でなければそれだけではあまり意味はないかもしれないが、他に手が思いつかなかったのだ。


 しかし、俺の依頼を受けてくれる人は1人としていなかった。考えてみれば当たり前だ。彼らは識字率の上昇に伴って仕事を失っていく立場にいるのに、多少とはいえ読み書きを教えるメリットがない。


 むしろ、読み書きができずに困っているなら自分が代読や代筆を行う、安くしておくから是非利用してみないかと言われてしまう始末だ。


 考え直した結果、俺は門番のバモンに相談に行くことにした。俺からすれば、転生者特例措置に誘導してきた人だとも言えた。だが、ティムやナンドが頼れないなら、この世界で俺が知っている人はバモンくらいしかいない。


 それに、俺はバモンを恨んでなどいなかった。むしろ腹ペコの俺のために問題にされるリスクを冒して手続きを省略してくれたバモンは、どう見てもただのお人好しにしか見えない。


 特例措置自体も、Fランク冒険者の現実と、特例措置を受ければCランクから始められたということを考えれば、本当にそう悪い話でもなかったのだとわかる。


 3日分を貸し付けられた宿代が3倍返しという話には驚いたが、この世界では安宿であればかなり安く泊まれる。宿のレベルにもよるだろうが、俺たちが泊まっている宿なら朝夕食事付きですら小銀貨1枚に過ぎない。


 つまり、3日分の3倍返しでもたった小銀貨9枚だ。低ランク冒険者ならいざ知らず、特例措置でCランクから始められる転生者が返すのに苦労する金額とはとても思えない。


 そういう事情とは関係なく、転生者の弱みにつけ込んで小金を稼ごうとしたり、契約で行動を縛って取り込もうとするウィンドルフへの不信感は未だにあるが、バモンはあくまで親切心と門番としての責任感だけで動いているだろうと俺には思えた。


 むしろ、特例措置を受ける前提で門を入っておいて、受付嬢と揉めて特例措置を受けず帰ってくるなどということをしたのだから、もし迷惑をかけたのであればお詫びをしたいくらいだった。


 その辺も含めて色々と話すために、俺はバモンを食事にでも誘うことにした。勤務中に差し入れでもしつつ約束を取り付ければ良いだろう。

矛盾が発生していたため6話(『俺、格ゲーマーになります。』)及び今話を修正しました。修正内容としてはティムたちも文字が読めないことが発覚するタイミングが早まっただけなので、再読されなくても大きな問題はありません。

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