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初めての対人戦?

 今回は食事中の方にはおすすめできないシーンがあります。

 無事にホーンラビット狩りから帰還した俺たちは、冒険者ギルドで戦果を換金することにした。


 ちなみにこの世界におけるお金は、10枚ごとに鉄貨→小銅貨→大銅貨→小銀貨→大銀貨→小金貨→大金貨と価値が上がっていくらしい。ゴブリンの落とした鉄の硬貨が鉄貨だな。


 今の俺は、例えば小銀貨1枚と言われたところでそれにどれくらいの価値があるのかまだ把握しきれていない。

 だがティム曰く、小銅貨5枚もあればホーンラビットの串焼きが3本は食べられるらしいので、ある程度のイメージはついた。

 まあ、物によっては地球と価値が違ってもおかしくはないから、あくまで目安程度に考えるべきだが。


 今回の戦果はホーンラビットの肉塊が10個、毛皮が14枚。

 ホーンラビットの肉塊にはそれなりの量があるため、1個あたり大銅貨2枚になる。これに加えて5個ごとに大銅貨1枚が常設依頼の達成報酬として追加される。よって10個で小銀貨2枚と大銅貨2枚だ。

 これに比べると毛皮は外れだ。使い道自体はあるらしく買い取ってはもらえるが、サイズ自体が明らかに小さいので1枚あたり小銅貨5枚にしかならない。依頼もなしだ。14枚で大銅貨7枚。


 ついでにゴブリンの角が換金できないかティムに聞いてみたが、ゴブリンの角には商品価値がなく、あくまで討伐証明部位としての価値しかないため、常設依頼の必要数に達しなければお金にはならないということだったのでここで出すのは控えた。


「合わせて小銀貨2枚と大銅貨9枚になります」


 買取担当のお姉さんが愛想よくお金を渡してくれたが、正直男3人であれだけ動き回ってこの程度か、と思った。これでも遠距離攻撃が使える俺がいる分効率は良い方だと言うあたり、G~Fランク冒険者の生活は相当苦しいな。早いところEランクになって、まともな依頼を受けたいものだ。


「いつもならこの半分くらいが良いとこなんだぜ。今日はうまいもんでも食いに行くか?」

「昨日3人で食べに行ったばっかりだろ。今日はダメだよ」


 普段はこの半分か。2人には失礼だが、よく今までまともに暮らせたものだな。というか、そんな状態で仕事を削ってまで転生者狙いでギルドに張っていたのか……。ティムは慎重派なのかそうでないのかよく分からなくなってきた。


 俺が考え事に浸っていると、酒の匂いを漂わせたおっさんが絡んできた。俺というよりは、ティムを睨みつけながら迫ってくるので、俺とナンドは慌ててティムの傍に着いた。


「随分羽振りがいいじゃねえかよぉ。うまいもんを食いに行くだと? たかがFランクのくせに情報収集気取ってちょろちょろしてた小僧が、生意気なんだよ!」


 どうやら、ティムが転生者を狙いながらギルドで情報収集をしていたのが何故か気に食わなかったらしい。ジョブから言ってティムが狙われるのはまずい。ガードが使える俺が注意を引いた方がまだマシだと考えた俺は、喧嘩に乗ったふりをして挑発した。


「酒臭いおっさんが何の用だ? たかがFランクの癖にとは随分偉そうだが、そういうおっさんは一体何ランクなんだよ」

「そうだぜ。人が楽しく話してる時に絡んで来るんじゃねえよ」

「2人ともやめてくれ!」


 ナンドは絡まれた不機嫌さを隠さず、ティムは俺たちをたしなめた。ティムはともかく、ナンドも怒ったのは誤算だった。これじゃおっさんの注意が俺に行くか分からない。

 

 すると、おっさんは厭らしい笑みを浮かべて言った。


「あ? それ聞いちゃう? 俺様はCランクだ。Fランクの小僧共、今謝れば許してやってもいいぜ? あ、でもうまいもんを食いに行く金があるなら俺様に奢ってもらおうかな~。ギャハハハ」


 何がおかしいのか、おっさんは一人で笑っている。


「Cランク!? くそ、せっかくの戦果を取り上げられるしかないのか?」

「Cランクじゃもう一人前の冒険者じゃねえか……。駆け出しの俺たちじゃ束になっても敵わねぇぞ。畜生、どうする?」

「こういうのはギルドの人が助けてくれるもんじゃないのか?」


 俺がティムたちに聞くと、答えが返って来る前におっさんの笑い声が響いた。


「ギャハハハハハ、こりゃ傑作だ! 腹いてえ、『ギルドの人が助けてくれる』だとよ! Fランクの小僧はギルド内の喧嘩にギルドは関知しないことすら知らねえらしい! ガッハッハ、ゲホ、ゲホ」


 おっさんは笑いすぎてむせている。残念ながらおっさんの言うことは正しいらしく、俺が2人に目線を送ると、2人とも苦々しげに頷いた。ふざけやがって。だが、おっさんは一つだけ間違えている。


「おっさん。あんた、勘違いしてるよ」

「なんだとぉ? 言ってみろ!」


 おっさんはみるみるうちに怒りの表情を浮かべた。おっさんが手を出してくる前に真実を教えてやらねば。


「確かにこっちの2人はFランクだ。でもな、俺は……Gランクなんだよ!」


 敢えて自信満々に言い放ってやる。それを聞いて、おっさんは手を叩いて笑い始めた。


「アッハッハッハ、何を言い出すかと思えば……。もっと弱いんじゃねえか! ひーっ、おかしい……。『俺は……Gランクなんだよ!』だとよ! お前、冒険者やめて芸人にでもなったらどうだ? ギャッハッハッハッ、笑いすぎて苦しい」


 しまいにはバンバンと机を叩いて笑い始めた。こうやって隙を作り出すことが俺の狙いだったんだが、予想以上にオーバーリアクションなおっさんだな……。


 まあいい。俺は素早くおっさんの胸倉を掴むと、おっさんが驚いているうちにそのまま床に叩きつける。するとおっさんの身体は『リンブラ』同様に異常なほどバウンドし、俺の頭上まで浮かび上がった。今がチャンスだ。


「「リク!?」」


ナンドたちが驚いているが、本当に驚くのはここからだ! この世界に来てから初めてのコンボを叩き込んでやるぜ。


「このボリオン様にひれ伏せ!」


 俺はすかさず、ジャンプから宙返りをするような動きでサマーソルトキックを放った。ボリオンの必殺技、ボリオンサマーである。ボリオン様とボリオンサマーがかかっているのは言うまでもない。

 

 コマンドは、623+K、つまり→↓↘(右・下・右下)+キックだ。ボルケーノショットのコマンドが一般的に波動コマンドと言われているのに対して、このコマンドは昇竜コマンドと呼ばれている。


 今回は下投げからコンボになる強キックボタンでのサマーを出した。俺のサマーはちょうどおっさんの腹を攻撃する形になる。


「うごっ!? ゲホッ、ゲホッ。うえぇ……」


 元々笑いすぎて息が苦しかったのだ。そんなところに突然強烈なコンボを叩き込まれ、腹を攻撃されたおっさんは、呼吸困難に陥って激しく咳き込んだ挙句、飲んでいた酒を戻してしまったらしい。


「おいそこのお前! 何してる、床を汚すんじゃねえ!」


 ギルド内の喧嘩には関知しないと言っても、吐しゃ物で床を汚せば怒られるのか。おっさんは、ギルドの奥から出てきたギルドマスターっぽい偉そうな男に引きずられていった。わざわざギルドマスターが出てきたなら何らかの処分が言い渡されるのかもしれないが、初めてギルドマスターを見るのがこんな理由になるとはな……。


「す、凄いね、リク……。Cランクの奴をあっという間にのしちゃうなんて」

「ああ……。転生者ってのはこんなに強えもんなのか」

「いや、流石に今のはあいつが隙を晒してくれたし酔っぱらってたから勝てただけだと思う。他に手がなさそうだったから戦ったが、二度とこんなことはしたくない」


 俺が言うと、ティムも同意してくれた。


「そうだね……。リクが攻撃するなんて思わなくて凄く怖かった。僕に絡んできたのを助けられて貰っておいてわがままかもしれないけど、こんな無茶はもうしないでくれよ」


 まあ、めっちゃ楽しかったんだけどな! 今回勝てたのは運が良かっただけだと思っているのも、こんな綱渡りはもうしたくないのも嘘ではないが、それ以上にこっちの世界に来て初めてコンボが決まった興奮がでかい。


 だって、コンボができてこその格ゲーだろう。もちろん、コンボさえできれば対戦に勝てるわけじゃない。でも、やっぱり必殺技やコンボが思い通りに決まる瞬間が格ゲーの一番の醍醐味だと思う。


 今回俺が決めた下投げサマーはボリオンの基本コンボの一つだ。元々『リンブラ』では投げが強めに調整されており、様々な点で優遇されている。投げをメインとする投げキャラ以外でも複数の種類の投げを使い分けられたり、他の格ゲーに比べて投げ始動のコンボが極端に多かったりする。


 『リンブラ』の開発者代表である梅山氏曰く、初心者は格ゲーにおいて重要な投げを軽視しがちなので、『リンブラ』では敢えて投げを強くしたそうだ。初心者が投げを軽視しているかどうかは俺には分からないが、少なくともこの設計のおかげで『リンブラ』において「初心者はまず投げコンから始めろ」と言われるほど投げが初心者にも浸透していたのは事実だった。


 *


 それはさておき、なんとかおっさんを退けた俺たちは、宿まで引き上げた。


 俺たちの今日の稼ぎは小銀貨2枚と大銅貨9枚。つまり約小銀貨3枚だから、ホーンラビットの串焼き換算で18本足らずでしかない。

 宿代としては心許ないと思っていたが、実際は小銀貨1枚で朝夕食事付きで泊まることができた。


 地球のビジネスホテルなどと違って、一人部屋に2人以上が泊まり、ベッドが足りない者は床で眠るという行為が黙認されているのと、出てくる食事がかなり質素なために実現されている価格らしい。


 そもそも、俺がごく普通の宿だと勘違いしていただけで、かなりの安宿だったのだろう。ベッドも、どうせ床で眠る者が出るからということなのか、かなりボロく見えた。


 まあ、ティムとナンドの2人で1日動き回って今日の半分しか稼げなくて当然だというのだから、これくらいでないとFランク以下の冒険者の生活は成り立たないのだろう。むしろこの価格でもその日暮らしを強いられるレベルだ。


 取った部屋に入り、一息つくとナンドが思い出したように言った。


「しっかし、今日のリクは凄かったな! あれだけ強いなら明日はゴブリン狩りに行ってもいいんじゃねえか?」

「そうだな。ホーンラビット狩りがあんなにきついと思わなかったし」

「いいんじゃないかな? 不意打ちとはいえCランクをああもあっさり倒せるなら、ホブゴブリンくらいなら仮に出会っても楽勝だと思う。もちろん、もっと上位のゴブリンが率いる大きい群れなんかに当たったら逃げるしかないし、基本的には普通のゴブリンを狙っていくけどね」


 こうして俺たちは、明日はゴブリン狩りに行くと決めた。ゴブリンは一匹でいてもかなり好戦的なようだから、ホーンラビットのように逃げたりはしない。その分駆け出し冒険者にはリスクがある相手なんだろうが、今日戦ってみた感じ俺は思ったよりも強い。問題ないはずだ。

 ちなみに、ビジネスホテルで一人部屋を複数で利用する行為は、地球では犯罪ですので絶対に真似しないでください。この世界では駆け出し冒険者の金銭事情を加味して黙認されているという設定です。


 正直お金に関してはバランスを取るのが難しかったので、仮に不自然でもお目こぼし頂けるとありがたいです。

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