暗躍
話の区切りの都合上、前話の最後に少し追記しています。
お手数ですがそちらも併せてお読みください。
なお、今話から最終章突入です(しばらく続く予定ですが)。
あれから2年が経った。
俺はあれをきっかけに、再びパーティを組もうとティムたちに持ちかけたのだが、The grid──相手を格闘ゲームのフィールドに持ち込む能力につけた名前だ──や超必殺技といった新しい力を発現させた俺にとって、自分たちは足手纏いになると言って断られた。
ショコラさんのことだが、急に「母親だ」と言われたからといって家族として接することができるものでもなく、未だにさん付けだ。それ以外の敬語はやめたが。
今の俺は、キョウシャさんの屋敷に律子と共に住まわせてもらいながら冒険者として生活する傍ら、地球への帰還を目指して情報収集をする日々を送っていた。
今までは魔王退治に積極的ではなかった俺だが、2年前の出来事以来、律子のこともあって地球に帰りたいという思いが強まったのだ。
もし地球に戻れば記憶も戻るのなら、ショコラさんや律子のことをちゃんと思い出したいという願いもある。
「今日は何かわかった?」
「ああ、前から考えてた通りおかしいな。この世界の歴史は、やっぱり50年前くらいまでしかない」
魔王について情報を得るため、いつ現れたのか、どんな力があると言われているのか、と言った情報を集めにかかったのだが、歴史自体が全く見つからなかったのだ。
一応、数千年くらいの歴史があるということになってはいる。しかし、具体的な歴史が不自然なほどに残されていない。
どの国の歴史書を紐解いても「数千年前からこの国は存在していた」くらいのことしか書かれていないのだ。
もっとも、キョウシャさんが仕えていた先王の時代あたりからは、先王がどれほどの悪政を行っていたかとか、そこから今の王がどう立て直したのかとか、そういう具体的な歴史も書かれている。
しかしそれ以前の内容となると、不自然なほど全くわからなくなる。あっても神話レベルのフワッとした歴史だけだ。他国の歴史も、だいたいそれくらいの年数までの歴史しか残っていない。
「今日はウィンドルフの知り合いに無理を言って父親に聞いてきてもらったんだが、何も覚えていなかったそうだ」
ちなみにバモンさんのことだ。あれからほとぼりも冷めたので、あの時のお礼も兼ねて何度か会ったのだ。ちなみにお金も返そうとしたのだが、アレは落とした金だと言って固辞されてしまった。
「ボケちゃったんじゃないの?」
「いやいや失礼だな! 他のお年寄りも大体そんな感じだから、やっぱり不自然だと思う」
バモンさんのお父さんは大体80くらい。先王の治世が大体50年前のことだから、それより少し前のことくらいなら知っているはずだ。しかし、思い出せなかったらしい。
もちろん、律子が言っているようにボケているわけではなくてまだまだご健在だ。
「うーん。困ったね。この際、魔王に関する情報なんて探さなくていいんじゃない? 多分ウィンドルフにいるってことはわかってるんでしょ?」
「いや、それは危ないだろ。何をしてくるか、どれくらい強いかもわからないんだぞ」
結局、毎日こんな感じのやり取りをして終わる。多分ウィンドルフにいるというのも、2年前ショウタに襲われた時に「ウィンドルフに行かなきゃどうしようもない」と口を滑らせていたことしか根拠はないのだ。
いつも通りに1日が終わろうとしていたその時。
「大変だ!」
「ティム!? どうしたんだ」
突然、部屋にティムが飛び込んできた。後ろにはナンド、ショウタと、見知らぬ女性を連れている。
「僕らの故郷の近くでワイバーンが目撃された!」
「ワイバーン!? じゃあ、また討伐隊が組まれるのか」
ワイバーンはかなり危険なモンスターだ。律子によると地球の伝承ではブレスを吐かないとするものが多かったらしいが、この世界のワイバーンは当然のようにブレスを吐いてくる。
近距離では尖った尾、距離が離れると炎のブレスで攻撃してくる強力なモンスターで、しかも10〜20匹の群れで現れることがほとんどだ。なので、出た時にはCランク以上は強制参加の討伐隊が組まれる。
「いや、討伐隊は出ないらしい。普通の討伐依頼が出た」
「えっ!?」
俺が驚いていると、ナンドが後を引き継いだ。
「数匹しか目撃されてないからだとよ。ふざけてやがる。いくら人手不足って言ってもワイバーンに人をケチるなよ」
確かに、ここ半年ほど妙に魔物の被害が大きく、冒険者不足が声高に叫ばれているのは確かだ。だからと言って、ワイバーンを通常の依頼というのは異例すぎるが。
「まあまあ、だからあたいらみたいなのがもうBランクになれたんだろ」
そう窘めたのは、今日が初対面の見知らぬ女性だ。
「じゃあ、ティムがここに来たのは」
「うん。僕たちでワイバーンを狩るしかないんだ。無茶な話だって僕も分かってるけど、リクに手伝ってほしい。頼むよ」
確かに、無茶な話ではある。人手不足で仕事が溢れている今、わざわざワイバーンを狩りに行く冒険者なんか誰もいないだろう。
「普通なら受けない話だな」
「…………」
そう告げると、ティムの顔は一気に曇った。仕方ない、とでも言いたげだ。だが、行かないとは言っていない。
「だけど、他ならぬティムとナンドの故郷だろ? それに、あそこには昔ウィンドルフから逃げ出した時お世話になったんだ。今が恩返しの時だ」
「リク……。ありがとう」
そうと決まれば、今後の予定を立てるか。
「今日はもう遅いから、とにかくあの村に行って泊めてもらおう。それで翌日に目撃されたあたりを探して……」
「待って。私も行くよ」
「律子!? 危険だぞ」
2年前のように律子を危険に晒すことがあってはいけない。
「こっちのセリフだよ。私だって陸くんだけ危ないところには行かせられない」
「仕方ないな……。分かったよ」
確かに逆の立場なら俺も絶対についていくと主張するだろうし、止めてもこっそりとついてくるかもしれない。
何より、2年前こんな押し問答で痛い目を見ている俺からすれば、そう言われては連れていくしかない。
こうして、俺、ティム、ナンド、ショウタ、律子、そして見知らぬ女性の6人でワイバーンを退治しに向かうことになったのだった。
お久しぶりです。
ここ2週間、別件で忙しかったのと、最終章突入にあたってプロットの練り直しを行っていました。
更新ペースがどうなるかわかりませんが少しずつ更新していこうと思います。




