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The grid

 前回の残酷な表現を読み飛ばした人向けの要約です。


 熊を倒した後、陸たちは烏魔三郎を発見。同時に律子も見つけたが、脚を怪我させられており逃げ出せない状態だった。なんとか隙を作って律子を助け出そうと陸たちは奮闘する。


 なお、今回も残酷寄りの内容です。前回のような不快系の表現はありませんが、戦闘描写として予想される程度の流血描写ありです。苦手な方はご注意ください。

「お前タちごときが、敵うものカーッ!」


 次の瞬間、烏魔は身体中の羽根を弾丸のように飛ばしてきた!


「伏せろ!」


 ティムが素早く号令を出すが……。


「ぐあああっ」

「くそっ! 戻れ、モモカ! いてててっ」


 この攻撃だけで、ナンドがあっという間にやられた。風圧で壁際まで吹き飛ばされ、出血している。

 また、モモカの姿が消えている。モモカを守るために、ショウタが一度引っ込めたようだ。確かに、今までも自由自在に呼び出したり戻したりしていたな。


「ナンド!!」


 ティムが叫び、駆け寄ろうとしたが、それを止める声があった。


「来るんじゃねえっ!」


 当のナンドである。


「来ればお前が狙われるぞ。正直言って俺はこいつには敵いそうもない」

「なら、これでどうだ!」


 俺は、一気に大量のボルケーノショットを最高速で放った。


「誰が当たるンダ? そんな攻撃」


 ひらりと宙を舞う烏魔に、俺の攻撃は全く当たらなかった。地を這うボルケーノショットはこいつには通用しない!


「キッヒッヒ……それにしても傑作だナあ、おまエたち……」

「なんだと!」

「見たトこロ、弱いヤツらの寄せ集メ。オレサマの獲物を取り返しに来たヨウだが、無駄無駄」


 畜生。確かに、俺たちの戦力は十分とはいえない。今も、あの弾丸を恐れて近づけずにいる。かといって遠距離攻撃のボルケーノショットも通用しない。これでは八方塞がりだ。


「ふん。言っているが良いわ。あの時のように、封印で済ませてはやらぬぞ」

「ジジイ! あの時ハ油断したダケだ! 今の耄碌もうろくしたキサマに敗北などしない」


 気がつくと、キョウシャさんの姿が一瞬消えたように見えた。目にも止まらぬ速さで貫手を繰り出したのだ。


「遅いナ、ハエが止まル」

「ぐっ……!」


 その大きな槍でキョウシャさんは吹き飛ばされてしまった。


「後はお前だけダなぁ! それとも、今からでも尻尾を巻いて逃げ出すカーッ?」

「それだけは死んでもごめんだ……!」


 俺が一か八か突撃する覚悟を決めたその瞬間。


内臓(・・)ないぞう(・・・・)なんて言わせないぞう(・・・・)


 律子が動いた。

 3段ギャグになったことで前に聞いた時よりもくだらなくなったそのダジャレが、世界を凍りつかせる。


「カーッ! カーッ!?」


 見ると、烏魔の羽根には無数の霜が浮かび、凍りついていた。


「これでもう飛べないでしょ? 効果はばつぐんだね」

「おのれ、女! もう生かしてハおかんゾ!!」


 烏魔は律子に襲い掛かろうとするが、させるわけがない。


「みじん切り!」


 俺はラルフにキャラを変更し、俺に背を向ける形になった烏魔に向けて、必殺技のみじん切りを放った。


 みじん切りは『リンブラ』では弱くてほとんど使われていなかった技だ。

 この技は、ラルフが突進すると同時に斬撃の壁を生み出し、相手を切り刻むという技なのだが、発生──技の出るまでの時間──が遅く、使った後の硬直も大きいため隙だらけ。


 しかし、律子に気を取られている今なら、当てることは難しくなかった。

 しかもこの技には一つ特殊な性質がある。


「ギヒィーッ!?」


 この斬撃の壁はラルフの身長よりも遥かに高く、画面を上まで埋め尽くすほどのものなのだ。それにより、相手の身長が高ければ高いほどヒット数が増え、ダメージが増える。


 『リンブラ』では一番身長の高いキャラに当ててもある程度の威力にしかならなかったが、身長3m弱はありそうなこいつには間違いなく有効だ。


「侮っていた奴に手痛い一撃を喰らう気分はどうだ?」


 挑発しつつ、追撃を狙ってラルフのブロードソードを大きく振り上げた。この攻撃からコンボに繋いで決める!


「図に乗るナァ!!」


 だが、トドメを狙った俺の攻撃はあっけなく防がれてしまった。それどころか逆に腕を掴まれ、地面に引き倒される。


「くそ、やめろっ!」

「コノ、コノ、コノォ!!」


 押さえつけられたまま執拗に踏みつけられ、喉を蹴られた。鋭い痛みが走り、口からは血を吐いた。


「うおおおおおお!!」


 その瞬間、仲間たちが一斉に俺を助けようと飛びかかってきた。しかし、烏魔は俺を乱暴に打ち捨て、槍を持つと、軽々と振り回して追い払ってしまった。


「終わりダ。そこで女が死ぬのを見ていロ。もっとも、オレサマが手を下すまでもなイかな?」

「ぐはっ! げほっ、げほっ! な、なんだと」


 俺が必死で目を向けると、律子はその場に倒れ伏していた。


「限界だったんだ……」


 ティムが悔しそうに呟いた。


「僕たちが来るまで、リツコさんは1週間以上もここにいた。衰弱していて当たり前だ。それにさっきの冷気でリツコさん自身体力を奪われた」


 それでは、雪山で眠ってしまうのと同じだ。その結果は……。

 そう考えた瞬間、世界が歪んだ。


 今感じている全て。洞窟の岩肌、血の匂い、喉の痛み、仲間たちの声……

 そういったものが全て、ぐにゃりと溶けるようにして消え去っていった。


 そして、目の前に残ったものは、どこか見慣れた殺風景な空間だった。そこは白い部屋で、床や壁、天井にはまるで方眼紙のように延々とマス目が書き込まれている。


 直感的に理解した。俺が今いるのは『リンブラ』にあったトレーニング用のステージだ。シンプルな背景ゆえにマシンに余計な負荷がかからないとされ対戦にも良く用いられた。


 そして、この空間の上下には、あまりにも見慣れたゲージがついていた。

 上には残り体力を示すゲージ。そして、下には、超必殺技を打つためのゲージ。


「お前を……倒す」

「キ、キサマ、なぜダ、なぜ立ち上がれル! なぜ喋れル! 虫ノ息だったはずダぞ!」

「ああ、そうだぜ」


 俺の体力ゲージはほんの僅かしか残っていない。何か一つでも攻撃を受けたら、それどころか何か必殺技をガードしただけでも体力は尽きる。確かに、虫の息だ。だが、虫の息だからなんだ?


「烏野郎には分からないだろうけどな……。格闘ゲームでは、体力1ドットになろうが試合は終わらない。そこから何度も負けてきた。そして、何度も勝ってきた」

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