落ち着いて聞いてください。……ガンです
雷がなっていた。雨も風も強い。医師は患者に告げた。
「……ガンです」
「ガン!?」
本当の事を言ってくれと自分から頼んだが、やはり現実を突きつけられると辛かった。雨がまた強くなった気がした。
「先生。私に残された時間は……?」
「……持って一週間です」
「いっしゅう……かん?」
余りにも短い。絶望で目の前が真っ暗になる。
「私諦めたくない!いくらかかるんですか?」
医師は手のひらを拡げて患者に向けた。
「最低でも50……」
高過ぎる。そんな金はなかった。
「バカ!先生のバカ!私信じない!」
「君!」
患者は外に飛び出して行った。あっと言う間にびしょ濡れになった。
悲しくて涙が止まらない。少なすぎる時間。莫大にかかる金。自分が信じていた物が全て崩れさる絶望。
「希望を捨てるな!……金は私が出す」
追いかけてきた医師が後ろから抱き締めてくれた。
「なんで……そこまでしてくれるんですか?」
「勘違いするなよ?患者を助けるのは医師の務めさ」
先生が暖かい。
患者は決めた。最後まで戦い抜く事を。この人を信じよう。私はきっと大丈夫。
・
退院の日がやって来た。
患者は病院の敷地内から出る前にいつも医師と二人で話した第二診察室を見た。
窓際にいる医師と目が合った。患者は深々と礼をして自宅へと帰っていった。
(……二度と盲腸になんてなるなよ)
医師は胸ポケットから300円のクオカードを取り出してしばらくそれを見つめた。これは二人で勝ち取った栄光。
「先生!急患です!」
「分かった!すぐ行く!」
看護士に呼ばれ医師は部屋から飛び出した。
診察室の机の上にはクロスワードパズルの本が開いたまま置かれている。
『⚪月号の問題『機動戦士⚪⚪ダムの⚪⚪に入る言葉は?』の答えは『ガン』でした!正解者の中から抽選で一名様にクオカードをプレゼント!』
ハガキ代と切手代50円は医師が払った。