08
草太 side
僕達は、あれからヘリに乗せられ、ある建物に連れてこられた。
そこは宿泊から、何かの訓練なども出来るようになっている研修施設のような場所だった。
最初にここに来た時に、この施設の案内を加賀さんがしてくれた。
彼女の説明は分かりやすく、丁寧だ。
しかし、ここが日本ではないという事が未だに信じられない。
それもこれも、まず、この世界の人の名前や風貌だ。
僕らが見たこちらの人々の見た目は黒髪黒目で、日本人となんら変わらない。
名前なども漢字、ひらがな、カタカナを組み合わせたものだ。
言葉も、使っている文字もまるっきり日本語だった。
しかし、その中で日本と言う言葉はなく、代わりに「ヤマト」、または「ヤマトの国」と言い表している。
僕達は最初、騙されているのではないかと思った。
しかし、あの異形の動物や、剛志や僕の体から発した異常な光りや力は、説明が出来ない。
僕らは、彼女らの言う事を鵜呑みにせず、警戒心だけは忘れずにいようとクラスメートみんなで言い合った。
僕達は今、無力だ。彼女らが僕らに何を望んでいるのかまだ分からないが、取りあえず彼女らの保護の対象として、今は従順でいようとしている。
この施設に来た初日は、そのまま就寝して終わった。
次の日、僕らは会議室に集められた。
加賀さんと挨拶を交わした後、これからの予定などの説明があり、それからある映像を見せられた。
それは、衝撃の内容だった。
まず、このヤマトの国の地形や位置は日本国そのままであった。
そして歴史もほとんど同じで、ただ途中、日本国と名前がきまるところがヤマトの国となっていた。
そして何より違うのが、霊力の存在に妖魔の存在だ。
あの、剛志が倒した化け物が妖魔と言われる生物だったらしい。
そしてもっとも驚いたのが、世界は重なって数多く存在しているという事だった。
この世界も、僕らのいた日本の世界も、数多くある世界の一つだという事だった。
その後に視た妖魔との戦いの映像は凄かった。
まず、銃や戦車の砲弾が妖魔には全く効かず、牽制程度しかなっていない。
挙げ句のはてには、戦闘機からミサイルを打ち込んでも、びっくりした程度だ。
僕らは、よく火の着いた枝で追い払おうとしたものだ。
現代兵器が効かない妖魔だが、何故か榊から作った武器は、効果があるのにはびっくりした。
榊とは、あの神社などで奉納する時、玉串などに使われる木だ。
だが、榊の武器も致命傷には至らず、逆に攻撃しているもの達の被害が増大していた。
そこに僕らと同じ、異世界転移者が現れた。
転移者は剛志と同じように体が輝き、光りが収縮し球体になると、その球体を妖魔に投げつけた。
妖魔は、十匹程度の群れだった。しかも僕らが戦った妖魔とは違い、猪に似た形をしている。
どうも妖魔とは、霊力の乱れで動物が変異した物のようだ。
僕らが戦ったのは、鶏が変異した物らしい。
猪は鶏より、はるかに強いのだが、剛志が戦った時のように光った玉が妖魔にぶつかると、光りの粒子となって拡散し、猪の群れを包み込んだ。
そして群れのすべての猪の妖魔を収縮していき、最後は爆発して消滅した。
猪も鶏も全く関係なかった。
いかに僕らが持っている宝玉の力が、妖魔に有効なのかが分かった。
その後、僕らの前任者の異世界転移者の紹介の映像が流れた。
玉制塔という所に転移してくるところから始まり、訓練の様子やさまざまな妖魔との戦いの様子などが視れた。
妖魔との戦いは、猪の群れを倒した時のように、どの妖魔も一発で倒してる。
そして今度は、病院で不治の病を患う少女に対し、宝玉を使う場面が流れた。
顔色が悪く、今にも倒れそうな少女に宝玉を放つと宝玉は少女の体に吸い込まれ、そして少女の体が輝きだす。
光りが治まり、少女の様子を見ると顔色は格段に良くなり、どうみても病が治ったように見える。
その後の検査で、病が克服された事が報告されている。
それから最後に異世界転移者のインタビューの映像が流れた。
質問者は加賀さんのようだ。
加賀さんは、いろいろ転移者に質問し、転移者はそれに答えていく。
この世界の印象や強く感じた事などを転移者は答えていった。
転移者は三人で、いずれも二十代後半の年齢で男性であった。
そして彼らの世界の日本は「和国」と言う名らしい。
三人は加賀さんの事を随分と信頼していると映像を通して感じられた。
最後に加賀さんが
「後任の防人様への何かアドバイスがあれば、おっしゃって下さい」
と言うと、転移者が次々と答えていった。
「まず、宝玉はどんな願いでも叶えてくれる。とにかく強く念じることだ。」
と一人が言うと
「宝玉の数は限りがある。どのような事に使うかよく考えて使ってほしい」
ともう一人が言い
「俺は和国とか、ヤマトの国とか、考えていない。自分の信念で宝玉を使ってきた。最後までそうするつもりだ。後任の人も自分の信念を大事にしてほしい」
と最後の一人が言った。
こうしてインタビューは終わり、すべての映像も終わった。
映像が終わると、会議室は静かになった。
映像の中身にみんな衝撃を受けているのだ。
しかし、半分ほどは疑念と怒りの感情がうずまいていた。
僕は、この世界の人は随分、身勝手だと思った。
何故かと言うと、現在の人類の繁栄は過去の人類の多大な努力と犠牲の上に成り立っている。
僕らの世界の住人は間違いなくそうだ。
それなのに、この世界の住人は安易に他の世界から人間を連れて来て、自分達の役に立たせようとしている。
そのように考えているのは、僕だけじゃないようで、藤本君や古川君、進藤さん辺りがかなり顔が険しくなっている。
藤本君や古川君は、よく先生などに気に入らない事があると、意見を言ったりするし、進藤さんなどはよく廻りの人達を煽って自分の意見を通そうとする時がある。
この三人は、クラスの中で特に気が短いと言える。
彼らが怒って意見して、僕らの立場がまずくならなければいいが、と心配していると、僕の肩を叩く者がいた。
剛志だ、剛志は希望に満ち溢れた表情をしていた。
もしかして・・・・・・・。
と思っていたら会議室に加賀さんとは違う、誰かが入ってきた。
その人は、でっぷりと肥え太り、お姉さんかおばさんなのか、よく分からない化粧の濃いケバい女の人を連れてきていた。
「あー、私が妖魔対策局の局長、村田 康弘だ。今回の防人は随分と若いな」
何かよく分からないが偉そうだな、と思った。
「局長、転移の術式の数値入力にミスがありましたので」
加賀さんが何か局長と言う人に説明している。
それにしても数値入力のミス?
何か、僕らの転移の時に問題があったのだろうか?すごく気になる。
そして局長と言う人が話しをしようとした時だった。
剛志が急に立ち上がり
「おっさん、悪いけど話しは後でいいか?今すぐ試したい事があるんだ」
そう言うと、僕の方を見るとニッと笑った。
そして何やら集中しだした。
剛志の体が輝き始める。
「おい、剛志、何やってんだ!」
僕はびっくりして剛志に声をかけた。
「剛志、やめろよ!」
「剛志、いったいどうしたんだ」
将と浩幸も、剛志を止めようと声をかけた。
クラスメート達もびっくりして騒ぎ始める。
「いったい、何してるの?」
「室田が急に、何があったんだ?」
そして局長と呼ばれていた男は、
「何故、急に宝玉の力を?」
と、こちらもびっくりしている。
廻りの人間が騒いでいるのに、当の剛志は全く動じず、二回目だからか難なく光りを収縮し、球体にしてしまう。
その球体を僕に向けて言った。
「草太、これで心臓、治るだろ!」
期待のこもった目をして僕に語りかけてきた。
将や浩幸に、クラスメート達もその言葉を聞いて納得した顔をした。
しかしここで、水をかける言葉が発せられた。
加賀さんである。
「申し訳ありませんが、室田様、前の世界からの病気は、宝玉の力をもってしても治す事は出来ません」