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四十七個の宝玉  作者: 黒灰 賢二郎
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07

 父は、この国を愛していました。


 国の為になればと思い、自分の専門の遺伝子操作で倫理観の問題のある人間の遺伝子組み替えを行ったのです。


 私達は、父の意志を継ぎ、政府の中で自分の能力を発揮できる部署に配属してもらい、まだ十歳に満たない頃から働いてきたのでした。


 しかし、高い能力と身体的に劣る私達は、どの部署でも敬遠されました。


 そして父が月からの贈り物としてつけた、ムーンチャイルドと言う名称は、私達を人間の出来損ないだと蔑称として使われるようになりました。


 その後、いろいろな部署をたらい回しにされながらも父の意志を優先させてきました。


 そして私達の仲間が一人死に、二人死に、と数を減らしてゆくと、父は自分より早く死んでゆく者達を見て、随分と苦しんでいました。


 その父も五年ほど前に他界しました。


 「残す者には申し訳無いが、もう子供達の亡くなるのを見なくて済む」


 と、逆に嬉しそうでした。


 そして私が今の妖魔対策局に配属になった時、もう私達の仲間は私を含め三人になっていました。


 私もあと数年で亡くなることでしょう。


 その後も父の意志を継ぎ、この国に役立とうと努力してきたのです。






 そして今現在、私は局長の命令を実行する為に三十人分の異世界転移を実行できるように術式の大まかな組み立てを行っています。


 異世界転移は、玉制塔で行われます。


 異世界転移の術式のような大きな仕事は私一人では出来ません。その為、もう一人の秘書官に手伝ってもらっています。


 西脇 梨香秘書官、正直彼女では不安が残りますが、同じ秘書官です。これ位はやってもらわねば。


 術式の細かな所の入力を西脇秘書官にまかせ、私は他の準備に取り掛かりました。


 三十人もの防人様の出迎えとなれば、大変な騒ぎです。

 

 まず、宿泊する所から手配したり、誰と誰に会見するか、などの調整、それに国民へのお披露目もあります。


 国民へのお披露目は、オープンカーでパレードを行う予定です。

 毎回、防人様のお披露目はこのやり方です。


 しかし、今回は三十人もの人数なので手配する車や、警備の者達も多くなります。

 計画書を作り、関係省庁に連絡を行いました。


 そんな事をしていると、あわただしく日数は過ぎていき、いよいよ異世界転移の術式の起動が行われます。


 実行日は前日が満月の日です。


 霊力が、高まる満月の日に玉制塔に霊力を溜め込み、次の日の日中に実行するのです。


 そして、玉制塔は順調に霊力を溜め、次の日に術式を起動しました。


 しかしここで、問題が起こりました。


 術式は正常に起動したのに、転移の間に防人様達が現れません。


 その場は大きな騒ぎになりました。


 すぐに術式の確認が行われ、転移してくる場所の位置の座標が、一桁間違っている事が分かりました。

 さらに、余計な部分に数値を入れているせいで、転移者の年齢が十五歳以下になっています。


 「これ、西脇さんが入力したのよね?」


 「あれ~、そうだっけ?」


 入力した時の端末の記録があるのです、誰が入力したか一目瞭然でした。


 そこに局長が現れました。


 「君、原因は分かったのかね?」


 「局長~、加賀さんから私が入力ミスしと責められてます~」


 西脇 梨香は局長の腕にすがり付き、泣く真似をします。

 局長は、すがり付いてくる西脇秘書官をなでなから端末の記録を見ました。


 「君、原因が分かったのなら同僚のミスをつつくより、防人達を迎えに行った方が良いのでは無いのかね!」 


 私は、タメ息をつきたくなるのを我慢して返事をしました。


 「わかりました。すぐに向かいます」


 そして、西脇 梨香を見ます。彼女は、勝ち誇った顔をしていました。


 彼女は、局長の愛人枠として秘書官をしています。ですから、いつも私に見下した目を向けてきました。


 女性として自分の方が上なのだと、その目は語っています。


 私の体は十二才前後で成長が止まっています。

 膨らみかけの胸、伸びなかった身長、そして毎月、月経はあるのに排卵は無いという事実。

 私は好きな人が出来ても、その人と子をなす事は出来ません。そしてあと数年でくる寿命。


 その事が私に重くのし掛かります。


 気だるくなり、その場に座り込みたくなるのを我慢して、その場を去ろうとしました。


 後ろでバカげた会話が聞こえてきました。


 「局長、私、宝玉で老化防止の効果を試してみたいです」


 「おお、たしかに君のような若くて綺麗な子にこそ宝玉の力を使うべきだと私も思うぞ、うんうん」


 いくらなんでも、そのような勝手な事が許されるはずがないでしょう。


 いや、待って、もしかして今までこの国の権力者達は、このような事に宝玉の力を使ってきたのではないでしょうか?

 

 私はふとその考えに至った時、足元がふらつきその場に倒れそうになりました。


 私は、何も知らされず、宝玉を使いきり、自分の体を崩壊させてゆく防人様を、映像で何人も見てきました。


 その顔はとても悲しそうでした。しかし、私は彼らを救う術を持ちません。


 私は、何も出来ない自分自身を何度も罵ってきました。


 彼らの会話を聞いていると、私自身がおかしくなりそうです。

 もうこれ以上、彼らの近くにいたくない。


 私は足早にその場を後にしました。


 すぐに軍施設のヘリポートへ移動し、一部隊を手配した私は、兵士達と供にヘリ三台に分乗して、現地に向かいました。

 

 間違った座標の場所は、近くに原生林が有るような、山奥でした。

 道路は通っているようですが、到着するまでに結構な時間がかかりそうです。

 そして現地に向かう途中、宝玉の力を観測しました。


 「なぜ、宝玉の力が?現地で何が起こっているの?」


 宝玉の力はそう簡単に使いこなせる物ではないはず、この世界に来たばかりの防人様が何かトラブルに巻き込まれているのでは?と心配になりました。


 そしてようやく、それらしき人々を発見しました。


 すぐに兵士達と供に現場に降り立ちました。


 宝玉の力が観測された為、兵士達は用心の為に銃を備えています。


 私は兵士の後に続き、彼らと対面しようとしました。


 その時、一番前にいた一人の小柄な男性が、宝玉の力を溜め始めました。


 兵士達は警戒して、銃を構え包囲しようとします。

 兵士達の気持ちもわかります。宝玉の力は強大です。

 それが自分達に向けられたら、と思うと銃も向けたくなるでしょう。


 しかし、それをさせるわけにはいきません。


 「待て、貴様ら、何を考えて防人様に銃を向けているのだ!すぐに銃を降ろせ!」


 私は叫びました。そして前に出て防人様の元へ向かおうとします。

 しかし、部隊の佐竹隊長が私に忠告してきます。


 「秘書官、危険です」


 佐竹隊長は、昔から世話になっている方で、私の事をムーンチャイルドと蔑むような態度をとる方ではありません。

 いつも陰ながら私のフォローなどをしてくれます。


 階級が私の方が上なのでぞんざいな口調で答えますが、私は彼の気遣いを嬉しく思います。


 「大丈夫だ、私が交渉する。貴様らは下がっていろ」


 「しかし・・・・・・」


 「二度も言わすな!」


 私の事が心配なのでしょう、食い下がる佐竹隊長を退けて防人様の前に立ちます。


 「防人様、どうか気をお鎮め下さい。我々は味方です」


 「み、味方?」


 「そうです、貴方達の味方です。貴方達に危害を加える者ではありません。どうか落ち着いて下さい」


 「落ち着けって、何を言って?」


 「その宝玉の力を開放してはなりません。その力を開放すると防人様は無事でもこの辺り一帯の生命は、私どもを含め、死に絶えてしまいます」


 「え、宝玉の力って?」


 「その光輝いている力の事です」


 そこで初めて彼は、自分自身の胴体や腕を見て、自分の状態が分かったようです。


 「これ、どうすれば?」

 

 彼は戸惑い、私に聞いてきました。


 「取りあえず、落ち着いて、深呼吸をして」


 私の言葉に合わせて何度も深呼吸を繰り返すと、段々と落ち着き、光りが消えいきます。


 すべての光りが、消えたのが確認出来たので、ホッとしました。


 取りあえず、宝玉の力の暴走と言う最悪の状況はまぬがれました。

 私は安堵しました。


 しかしすぐに気を入れ直して、防人様達を見渡します。

 そして自己紹介をしました。


 「申し遅れました、私はヤマトの国国防軍所属、妖魔対策局、局長付き秘書官、加賀 アスミと申します」


 これが、私の運命の人となる間壁 草太との出会いでした。

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