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四十七個の宝玉  作者: 黒灰 賢二郎
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 加賀 アスミ side


 「局長、本気で言っているのですか?防人様を一度に三十人も呼び寄せるなんて!」


 「本気だ、今さら何を驚いている」


 局長は、機嫌の悪い顔をさらに悪くして聞き返してきました。


 「しかし、いくら何でも三十人と言うのは!」


 「昨年の霊力の乱れを知っているだろう。今年は妖魔が、大量発生するとした研究班の報告書を貴様も読んでるはずだが?」


 「確かに読みました。しかし、昨今の国際世論は、異世界転移者の人権問題にうるさくなってきています。

 このような事を続けていけばヤマトの国は、国際社会で孤立してしまいます」


 私の意見に対し、局長は猜疑心のこもった目を向けて言ってきました。


 「貴様、まさか国防軍に所属しておいて、倫理観がどうとか言うまいな?」


 最近、国防軍は倫理観の面でマスコミから、たたかれています。


 「いえ、決してそのような事は」


 「ならば命令に従え!これだからムーンチャイルドのような出来損ないは!」


 「・・・・・わかりました」






 私の名は、加賀 アスミ、妖魔対策局の局長付秘書官として、国防軍に所属しています。


 私は今、局長に異議を申し立てていました。


 それと言うのも、対策局や国防軍、それとも国全体か、もしかしたら局長個人だけかもしれませんが、何か間違った方向に進んでいるような気がしてならないからです。


 しかし、私の異議は却下されました。






 私達のいる世界は、いろいろな世界が重なりあって存在していると言われています。

 パラレルワールドとも言われますが、それは二つの世界だけではなく、数多の世界が重なっていると言います。


 そして、その世界の中で私達のいる世界は、特に霊力が豊富なのだそうです。


 霊力とは、万物にやどる力でこの霊力の乱れが、妖魔のような化け物を生み出すのだと言われています。

 

 また霊力の乱れ方にもいろいろあり、その一つのパターンが異世界転移を引き起こすと分かっています。

 

 この異世界転移により、この世界に来た者は、霊力とも違う強大な力を持って転移してきます。

 その力を私達は、宝玉の力と呼んでいるのです。


 転移者が力を使おうとする時、光る球体へと変化します。その形状から宝玉の力と呼ばれるようになりました。

 

 この宝玉の力を使えば、妖魔でもたやすく倒すことができます。


 妖魔を倒すのに宝玉の力を使わない場合、大変な犠牲を伴う事になります。まず、現代兵器が使えません。

 銃に始まり、戦車の砲弾、はてはミサイルまで使っても倒すことはできないのです。攻撃がまったく通じないのです。

 

 妖魔に通じる攻撃を行うには、木刀、木槍、弓矢の矢じりなどの武器を、榊と呼ばれる木から削り出した物を使わなければ効果はありません。


 この方法は、古来から人類が妖魔に対抗する為に編み出された方法でした。


 しかしこの方法は、犠牲が多く出るやり方でした。

 妖魔一匹に対して国防軍の兵士が十人単位で死亡するのです。


 妖魔対策局に移動になった者は、ほぼ死刑宣告をされた者のようでした。


 そのような経緯で、国防軍の戦力維持の為にも宝玉の力は、欠かせない力と理解されました。

 だから国は異世界転移を人工的に起こせないか研究し、それを実現しました。


 しかし研究者達は、呼び寄せるだけでなく転移者を送り還す事も研究しました。

 その結果、宝玉の力を使えば元の世界に送り還す事が可能だと分かりました。


 この送り還す事を研究したのは、研究者達の良心だったのでしょう。


 その後、この技術は世界中に広まり、我が国だけでなく世界中のあらゆる国々が、転移者達を自国に招き、妖魔討伐を依頼するようになりました。

 

 もちろん我が国でも、転移者達に妖魔討伐を依頼します。


 妖魔討伐を引き受けた異世界転移者を我が国では、古来より国を守ってきた者達の総称に合わせてを【防人様】(さきもりさま)と呼ぶようになりました。


 その後、世界各国で転移者による妖魔討伐を行われるようになったのですが、宝玉の力は限りがある事が分かりました。


 それは、一人に付き四十七個の宝玉しか持っていないという事でした。


 その四十七個の宝玉を使いきってしまうと転移者は、この世界で自分の体を維持出来なくなり、体を崩壊させ、死んでしまいます。


 その為最初の頃は、四十六個まで宝玉を使ってもらい、最後の一個で元の世界に帰還してもらっていました。


 しかし、世界各国の欲にまみれた権力者達は、転移者に宝玉を使いきってしまうと死んでしまうという情報を伝えず、最後の一個まで使いきらせるようになったのです。


 権力者達の言い分は「自分達とまったく違う世界の住人の生命などより、自国の民の生命の方がずっと重い」という事でした。


 こうして一時、転移者をまるで家畜ように扱い、自分達の都合の良いように宝玉の力を使っていたのです。


 さらに宝玉の力は妖魔討伐だけに留まらず、不治の病を治したり、寿命を延ばす事が出来たり、老化を防いだり出来る事が分かりました。


 寿命を延ばしたりする事が出来ると理解した権力者達は、こぞって宝玉の力を求めて転移者を呼び寄せるようになりました。


 しかし、ある学説が一連の流れを変えます。


 それは、宝玉の力を使えばそれだけ霊力が乱れ、妖魔が発生しやすくなるという事でした。


 この学説が発表されると世論は一気に宝玉の力を自分達に都合の良いように使うのは、間違っているとしたものに変わりました。


 さらに拍車を掛ける事件が起きたのです。


 宝玉を戦争に利用しようとしたバカ者がいたのです。


 宝玉の力は、妖魔に使えば妖魔のみに作用します。

 他の利用方法もその利用する物しか反応しないのですが、戦争に使った場合、敵、味方関係なく、さらにその一帯の動植物すべての生命を死に至らしめました。


 生き残ったのは、転移者のみでした。


 後から国連の調査が入り、発覚したのです。

 その報告書の中には、転移者の心情により宝玉の力の作用が変わる事が書かれてありました。


 戦争という極限状態の中で転移者が、暴走したのです。


 そこから世論は完全に、異世界転移者に対して同情的になりました。

 

 「異世界転移者は、自分達と同じ人間であり、宝玉の力は世界の均衡を崩す原因になる。

 異世界転移者をこの世界に呼び寄せるのはやめるべきだ」


 と言うのが、今の国際社会の世論です。


 しかし我がヤマトの国は、宝玉の力が霊力の乱れを起こす、という学説は信憑性が低いとして議論すらされていません。


 さらに公式には、異世界転移者の宝玉は四十六個までしか使わず、最後の一個で元の世界に帰しているとしていますが、実際にはここ数年、ほとんどの者が最後の一個まで使わされ、死に至っています。


 もし、この事が世界や国民にばれたら、まず今の政権は失脚し、政府の上層部はすべて首を切られる事になるでしょう。


 それにも関わらず、今だに異世界転移者の扱いを変えようとしません。


 私は、今の権力者達が宝玉の力の魅力にとらわれ、現実から目をそらしているように感じるのです。


 実際に異世界転移者を呼び寄せるようになってから妖魔の被害は、極端に多くなっています。


 それまでは国全体で年間に十件を越える事は無かったそうですが、年々増えて、今現在は年間に百件を越える被害や目撃情報などが寄せられています。


 それなのに権力者達は、この事について発言する者は誰一人としていません。


 このままでは父が愛したこの国が駄目になってしまいます。


 私は、局長に罵られるのを覚悟して意見したのですが、結果は私の身体的特長まで蔑むものでした。




 この国、いや他の国でもですが、優秀な人材を確保する為に昔から秘密裏に遺伝子組み換えや、優秀な遺伝子同士の人工受精などが行われてきました。


 しかし遺伝子組み換えは、生命の神秘を弄る神の領域に踏み込み行為です。


 その為、なかなか成功せず、困っていたところで私達の義理の父で遺伝子工学の第一人者の加賀 義道教授が、霊力の高まる満月の日に人工受精を行い、成功させたのです。


 この事から父である加賀教授は、私達の事を月から贈り物と言う意味を込めて、ムーンチャイルドと呼びました。


 ムーンチャイルドの実施は、失敗と成功を繰り返し、何年か行われました。


 こうして生まれてきた数人の子供を加賀教授は自分で引き取り、養子としたのでした。

 父として接する加賀 義道はとても優しく、私達は愛情を持って育てられました。


 しかし私達の遺伝子は、やはり異常があり、永く生きられない事が分かりました。

 その上成長障害もあり、男子は精通前に、女子は初潮がきて暫くすると成長が止まりました。


 そしてその後の容姿は変わらず、老化もしないのに二十歳前後で急に亡くなるのです。


 しかし、別の特性もありました。


 それは個人によって違うのですが、ある兄弟の一人は、筋肉の細胞が優れていて同じ筋肉量で三倍ほどの力を発揮したり、ある姉妹の一人は、計算能力が非常に優れていて計算機を使わないと解けないような計算でも、瞬時に暗算して見せたりしました。


 私の場合は、大量の情報を記憶し必要に応じてすぐに思い出せると言うものでした。


 ですがこのような能力を持っていても、寿命が短ければ意味がない、と父は私達に涙ながらに謝罪しました。

 しかし私達は、悲観しませんでした。

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