05
僕らの言い争いが終わったのを確認したのか、みんなが集まってきた。
その中に、浩幸がいた。
「ごめんよぉ、俺、勇気がなくて助けに行きたくても、体が動かなかったんだ」
「気にするなよ、僕も何も出来なかったんだから」
僕の場合は、宮本さんに止められて何も出来なかったのだが、結果は一緒だ。
しかし、
「何言ってんだよ、草太はみんなに指示して役に立ってただろ」
と浩幸が切り返す。
「そうだよ、草太が一番、活躍したんだよ」
と剛志がまた僕を持ち上げてくる。
もう、勘弁してほしい。
「それより、あの変な動物って、いったい何だったんだ?どこから現れたんだ?」
僕の疑問にクラスメートの藤本君が答えた。
「俺達が、向かってた道路の先から歩いて来たんだよ、正体はさっぱり分からねえ」
他のクラスメートも、それ以上の事は分からないようだ。
「あの化け物の事も、そうだけど室田君の光りの玉はなんなの?」
今度は、別のクラスメートの北原 聡子が質問してきた。
剛志もよく分かっていないのだろう、困った顔をして僕の方を見てくる。
「あれは、よくわかんない。ただ何かの力の塊のような、エネルギーの結晶体のような物だと思う。
だけど、剛志のあの力のおかげで、みんな助かったんだ」
僕が剛志に代わって答えたが、はっきりいって答えになっていない。
北原さんも、納得できないという顔をしている。
他のクラスメートもそうだ。
しかし、それしか言いようがない。
「みんなぁ、あの変な生き物の事や室田君の事も、気になるけど、私は反対方向に行った人達が心配なの、早く戻って合流したいのだけど!」
栗林さんが、しびれを切らしたかのように要望してきた。
たしかにそうだ、反対方向にもあの異形が現れているかもしれない。
クラスメート達は、すぐに賛成して移動する事にした。
すでに最初の地点で別れてから一時間以上たっている。
ぞろぞろとみんなで、反対方向に歩き始めた。
歩き始めてすぐに、剛志が寄って来た。
「さっきはごめん、首、痛くなかったか?」
「うん大丈夫だよ、僕も言いすぎたよ」
そう言って謝り、ニヘラと笑う。
剛志も、ニッと笑っていつもの調子に戻ったようだ。
しばらく歩くと、先の方から栗林さんの声が聞こえてきた。
「みんなぁ、進藤さん、古川君、他の人達も、無事だった?」
どうやら反対方向に行った人達も、こちらに向かって歩いて来てたようだ。
「将、西村さん、植村さん、無事だったか?」
僕は、反対方向に行っていた将達を見つけ、声を掛けた。
「無事って、何かあったのか?集合場所に誰もいないから、みんなで話し合って取りあえずこっちの方へ歩いて来たんだ」
将達の方は、何事もなかったらしい。何も発見できず、時間になったので引き返してきたそうだ。
その話を聞いて、みんな、ホッと胸を撫で下ろした。
そして、こちらの方で起きた事を話し始める。
すると、ここで待ってました、とばかりに身振り手振りを交えて、浩幸が話し始めた。
物語じみた物言いに、僕も剛志も苦笑してしまった。
話は、だんだんと誇張されていき、剛志が光りの玉で異形を倒す所になると、怪獣と正義の味方みたいになって、僕と剛志が「話がでかくなりすぎ」、「何と何の戦いだよ」とツッコンだ。
だが、将や西村さん、植村さんは浩幸の話には馴れたもので、だいたいの所は理解したようだ。
「しかし、その異形の化け物ってのは、気になるな」
将が険しい顔をする。
「その化け物、見たかったなあ」
西村さんは、興味津々といった様子だ。
その後、クラスのみんなでこのあとどう行動するのか話し合った。
そして、僕が剛志や栗林さんにも言った、あの光りの中から投げ出された時の状況をもう一度みんなに思い出してもらい、意見を聞いてみた。
そんな感じでみんなで、話してる時だった。
「オイ、何か聞こえないか?」
クラスメートの一人が、そう言うとみんな耳をすませる。
「これ、ヘリコプターの音じゃないか?」
確かに、何かバタバタとした音が聞こえる。
少しすると、はっきりと聞こえだした。
「ヘリだ、救助してもらえるんじゃないか?」
みんなの期待が高まる。
僕も期待した。
ヘリが見えた瞬間、みんなで手を振り、大声を上げた。
ヘリは、白色で胴体に八咫烏のマークが描かれていた。そして、僕らの廻りを旋回しだした。
「よかった、気づいたみたいだ!」
ヘリの方は、僕達の存在に気づいた。後は、自分達の状況をどう伝えるかだ。
うまく伝えないと僕達が、ただハイキングとかしているだけの集団と間違えかねない。
どうやれば、うまく伝わるか考えていると、またさらに、ヘリの音が聞こえてきた。
そして、すぐに姿を現したのだが、僕は目を疑った。
ヘリは、前後にプロペラを持つ大型の機体だった。しかも二台。そして迷彩柄だったので、てっきり自衛隊だと思ったのだ。
しかし、ヘリに描かれたマークは、赤い三本足の鳥のマーク、つまり八咫烏のマークだ。そして、どこにも日の丸は描かれていない。
どこの所属のヘリなのだろうと思っていると、二台の大型のヘリが空中でホバリングをし、ロープを垂らしてきた。
僕らは、ヘリからの風であおられて転びそうになりながら、その状況を見ていた。
ロープをつたい、迷彩柄の戦闘服を着た大柄な男達が降りてきた。
彼らは、銃を持っていた。
僕は、降りてきた男達を見て危機感をハンパなく感じていた。何者なのだろうか、警戒感が増す。
彼らの動きは、よく訓練された者のようだった。
そして、彼らの服の胸ポケットの位置にやはりというか、八咫烏のマークが入っている。日の丸ではない。自衛隊員では無いようだ。
彼らは、銃を胸に抱えたまま、こちらへ近づいて来る。
彼らは、どこかの兵隊なのだろうか?僕らは、このまま拉致とかされるのだろうか?
考えれば考えるほど不安になり、僕はいつの間にか、みんなの前に歩み出ていた。
もう二度と、あんな思いはたくさんだ!親友に友達、親しい人達、みんなが傷ついたり、命の危険を感じたりする。そんな不幸は、絶対に起きてはならない。
もし、誰かが不幸になるなら代わってやる。
不幸になるのは、僕一人でいいんだ。
何故なら僕はもう・・・・・。
みんなを絶対に、助けなきゃ!守らなきゃ!
僕は、さらに前に進んでいた。
そして、思いを強くするごとに体が、熱くなっていく。
すると、後ろから声が聞こえた。
「草太ぁ、なにやってんだぁ!」
「何故?・・・・間壁君が光ってる」
「おい、草太、落ち着け!」
いつの間にか、ヘリが後方に遠のき、みんなの声が聞こえるようになっていた。
剛志を将が押さえている。
みんなが、何を言っているのか、意味がわからない。
前に向き直ると、こちらに向かっていた男達が動きを変えた。
彼らは銃を構え、まるで僕を警戒するかのように展開し包囲しようとする。
そして彼らから、ある感情が読み取れた。
それは怯えだ。
彼らは、僕に対して怯えている。
まるで僕を、怪獣か何かのように怯えた目で見ている。そして銃の筒先を僕の方に向けている。
すると、彼らの後ろの方から声がした。
「待て、貴様ら、何を考えて防人様に銃を向けているのだ!すぐに銃を降ろせ!」
その声は、可愛らしい女性の声だった。
声のした方を見ると、男達の人垣が割れ、一人の女性が姿を現した。
その女性は、女性と言うより少女と言い表した方が、ぴったりとくる容姿をしていた。
背は僕と同じ位で、顔立ちはまだ幼さが残っていて、僕らより二、三才年下ではないかと思う。
しかし、その歩き方、手の振り方はよく訓練された者のようできびきびとしている。そして、こちらを見る眼差しは意志の強さを感じさせる目をしていた。
彼女は、男達と同じ迷彩服を着ていたが、銃のような武器を持たず、タブレットなのか、通信機器のような物を持っていた。
彼女が僕の方へ歩み寄ろうとすると、彼女に詰め寄る一人の男がいた。
「秘書官、危険です。」
「大丈夫だ、私が交渉する。貴様らは下がっていろ」
「しかし・・・・」
「二度も言わすな!」
彼女らのやりとりは、僕の所まで聞こえてきた。
どうやらその容姿に似合わず、彼女の方が立場が上のようだ。
彼女が、僕の前にやって来た。
「防人様、どうか、気をお鎮め下さい。我々は味方です」
「み、味方?」
「そうです、あなた達の味方です。あなた達に危害を加える者ではありません。どうか、落ち着いて下さい」
「落ち着けって、何を言って?」
「その宝玉の力を開放してはなりません。その力を開放すると防人様は無事でもこの辺り一帯の生命は、私どもを含め死に絶えてしまいます」
「え、宝玉の力って?」
「その光り輝いている力の事です」
そこで始めて自分の体を見た。
僕の体は、さっき剛志がなっていたみたいに光り輝いていた。
そして気付く、体が熱く、力が後から後から湧き出して来るのがわかるのだ。
それから、今女性が言った言葉の意味を考える。
力を開放すると廻りの生命が死に絶える?
僕は、冷や汗が出る思いがした。
すぐに目の前の女性に質問する。
「これ、どうすれば?」
「取りあえず、落ち着いて、深呼吸をして」
女性に言われたように、深呼吸を繰り返し行う。
だんだんと体の熱さがとれてきた。高ぶっていた感情が、落ち着いてきた。
そして光りが消えて、いつもの自分に戻ったのがわかる。
目の前の女性が、ホッと安堵したのがわかった。
落ち着いてよく見てみると、女性は少し化粧をしていた。この歳であまり似合わない気がした。
女性は、すごく綺麗な人だった。
あと数年すれば道行く人々はみんな振り返る、そんな事を予想させるような顔立ちだった。
その女性が安堵の表情から一転し、キリッとした表情になり、僕達を見渡しながら言ってきた。
「申し遅れました、私はヤマトの国国防軍所属、妖魔対策局、局長付秘書官、加賀 アスミと申します」
僕達は、ここで初めてここが日本ではない事を知ったのだった。