04
そんな事をしていると、道路の片方の方向から声が聞こえだした。
「なにか聞こえないか?」
その方向は、宮本さん達が向かった方向だ。
「もう、もどってきたのかな?」
「え、まだ一時間たってないわよ」
三人とも何かが迫っていると思い、声のする方向に集中する。
すると、なにか悲鳴のような声が聞こえだした。
「おい、何か叫んでないか?」
「何かトラブルがあったのかも、行ってみようよ!」
「二人は先に行って、僕は後から追い付くから」
「でも、一人じゃ」
と、栗林さんが顔をしかめる。
「おい、草太、俺につかまれ」
と剛志が言うと、強引に僕を引っ張り込んでおぶった。
「栗林さん、行くよ」と剛志が栗林さんに声を掛けて走りだす。
「剛志、ありがと」と、こっそりと剛志にお礼を言った。剛志は、「うん」とだけ言って頷き、黙って走り続けた。
走って行くと声が大きくなってくる。
少しすると、クラスメートの姿が見えた。
さらにその先に変な物が見えた。
それは、見なれない動物のようだった。
「ケケケケケ・・・・・・」
と変な声を発して、その声は僕達の所まで聞こえてきた。
「なんだあれ」
剛志が声を上げ、足を止める。
「わかんない、だけどみんな、あれから逃げてるみたい」
栗林さんも足を止めた。
僕は、剛志に背負われたまま、じっとその動物を観察した。
その動物は、今まで見たことのない、初めて見る動物に見えた。
二足歩行で、一見、大きなダチョウに似ているが、大きなトサカがあり、クチバシがある。羽はなく、その代わり大きな前腕を持っていた。
そして、尾は孔雀のような飾りがついた尾だが、相対的に孔雀ほど大きくない。
「みんなを助けないと、だけど、どうしたら?」
栗林さんが、悲痛な声を上げた。
「剛志、おろして」
剛志におろしてもらって、背負ってたリュックから着替えの服を取り出した。
「剛志、あそこの木の枝、折れないかな? 」
「これでいいのか?」
僕が指差した枝をつかんで確認してくる。
「うん、それ、急いで、それと栗林さん、菅野さんから借りたケータイを出して」
栗林さんが、ケータイを取り出して僕に渡してきた。僕はそのケータイからリチウム電池を取り出した。
剛志が枝をなんとか折り、持ってきた。
その枝に、僕の着替えの服を巻き付け、その上に服の袖を利用してリチウム電池を巻き付けた。
「剛志、リチウム電池を地面にぶつけて、火を付けるんだ」
僕がやろうとしている事を、理解した剛志が「分かった」と返事をして行動に移した。
折り取った枝は、長さが3メートル位あり、振り回して地面にぶつけるとかなりの衝撃となる。
何度か叩きつけるうちにリチウム電池が小規模な爆発を起こした。
そして、巻き付けた服に引火した。
「動物なら、火を怖がるはずだ。これを突き付けてみよう」
そう言って、火の付いた枝を僕が取ろうとするが、剛志は渡さなかった。
「俺がやる、草太はさがっとけ」
「でも」
火を突き付ける行為はかなり危険なはずだ。
だけど、剛志はゆずらない。
「草太より俺の方がうまくやれる。チャンスは一度しかないんだろ」
たしかに、その通りだ。僕だと枝をうまく振り回せない。
体力がないのが、すごく悔しい。
僕は、渋々と手を引いた。
「危なくなったら、絶対に逃げるんだよ!」
「分かってる」
僕の忠告に、返事をした剛志が前に出て歩き始めた。
逃げている生徒は、女子が前を走り、男子があの異形の動物を牽制しながら、逃げて来ている。
女子生徒達が、僕達にたどり着きはじめた。
その内の一人、宮本さんが剛志と僕を見て、悲鳴のような声を掛けてきた。
「何してるの!そんなので危ないよ、早く逃げよう!」
「大丈夫だ、草太が考えついたんだ。こいつで追い返す!」
剛志は、僕の策を妄信しているが、こんなのじゃ牽制程度にしかならないだろう。
「剛志、侮らないで。こんなのじゃどこまでもつか分からないから!」
そして、逃げているクラスメート達に声をかけた。
「みんな!剛志が火を突き付けるから、石でもなんでもいいから投げつけて援護して!」
僕の言葉に、逃げて来た女子生徒達が、石を拾って身構える。
こちらに向かって来る男子生徒達も、石や落ちている枝などを拾いながら走って来る。
僕はタイミングを見計らって、みんなに声をかける事にした。
「みんな、僕がタイミングを見るから声をかけたら一斉に石とか投げて!剛志、みんなが投げ終わりの瞬間を狙って、火を突き付けて!」
「分かった」
そして、そのタイミングが来る。
異形の動物との距離が、五メートル位になった。
その動物が、火を見て足を止めた。
ここだと思った。
「みんな、投げて!」
僕の号令にみんなが、一斉に石や木の枝を投げつける。
やっぱりだ、異形の動物には、石を投げつけた程度じゃびくともしない。だが少し、嫌がっているようだ。手を上げて顔を引っ込めている。
そして、投てきの攻撃が途切れた。
その瞬間、僕は声を上げた。
「剛志、今だ!」
「オウ!」
返事とともに、剛志が火を突き付けた。
「グッケケケケケーーーーー」
異形の動物は、火を突き付けられて、びっくりしてのけぞった。
これで逃げてくれればと期待した。
しかし、怒ったように剛志が持つ火の枝を払った。パキンと音がして、枝が簡単に折れる。
「剛志、ダメだ、逃げて!」
僕は、生涯で一番と言える位、声を張り上げて叫んだ。
しかし、剛志は逃げない。
折れ残った枝を、突き付けながら牽制し、時間を稼ぐ。
「草太、俺が引き付ける。今のうちに逃げろ!」
肩ごしに僕の方を見ながら、とんでもない事を言ってきた。
「ダメだよ、一緒に逃げよう!」
「それこそ、ダメだ!追い付かれる。宮本ぉ、草太を連れていってくれ」
宮本さんが「えぇ~?」と、戸惑いながら僕の肩をつかんだ。
僕は、宮本さんの手を払いのけて剛志の所に向かおうとするが、僕の力じゃ宮本さんの手を払いきれない。
これほど、自分の腕力の無さを呪った事は無かった。
「剛志、一緒に逃げよう!」
もう一度、剛志に向かって叫んだ。
でも剛志は、こっちを見もしないで、異形の動物にそのまま折れ残った枝を突き付けた。
しかし、簡単に払われ、枝が完全に無くなってしまった。
剛志は、拳を固めて素手で対抗しようと身構える。
僕は、宮本さんの手を払って前に進もうとするが、びくともしない。
どれだけ力が、無いんだよ、この体は!
宮本さんは、僕を離さないが、後方へ僕を連れて行こうともしない。
ただ、どうしたらいいか分からず、固まったように止まったままだ。
僕は、もう懇願するように剛志に向かって、声を張り上げるしか無かった。
「剛志ぃぃぃ、頼むから逃げてくれよぉ!」
剛志の方を見ていると、何故だか見ずらくなってきた。剛志の姿がぼやけるのだ。僕は、気付かない内に涙を流していたらしい。
涙を流しながら何度も叫ぶ。
「剛志ぃぃ、頼むよぉ!」
剛志は、僕に答える代わりに大きな声で叫んだ。
「ちくしょーーーーー、絶対負けねえ!」
そして拳を上げて、ファイティングポーズに力を込める。
その時だった、不思議な事が起きた。
剛志の体が、輝き始めたのだ。
そして僕は、今まで感じた事の無い力の本流みたいなものを、剛志から感じた。
その後、輝き始めた剛志の体の光りが剛志の手に集まって一つの玉のようになる。
剛志は、手の平を開いてその玉をつかんだ。
剛志も何が起こっているか、分かってないみたいだ。
僕は、叫んだ。
「剛志、その玉を異形に投げるんだ!」
「オ、オウ」
剛志は戸惑いながらも、玉を投げつけた。
異形の動物に向かって光りの玉は、飛んで行き、そしてぶつかった。
次の瞬間、光りの玉は四散するように、バラバラになったか思うと光りの粒子になり異形を包みこんだ。
そして今度は、光りの粒子が収縮して行く。
光りの収縮にともなって異形の動物も縮んで行き「グケケケケケ」と奇怪な声を上げている。そしてさらに「グゲー」と今度は、苦しそうな悲痛の叫び声を上げた。
観察していると、異形はどんどん小さくなっていってる。
最後には、ゴルフボール大の大きさまでになった。このまま、消滅するのかと思われたが違った。
収縮が止まった。
収縮が止まったと言うことは、収縮していた大きな力が、逆向きに解放されるのではないか?その考えに至った時、僕はまた叫んでいた。
「みんなぁ、玉が爆発する、伏せて!」
僕も、剛志も、宮本さんもクラスメートのみんなも慌てて伏せた。
次の瞬間、玉がはじけるように動いたかと思うと、爆発した。
爆風が、僕らの頭上を駆け抜けていった。
風がやみ、顔を上げると剛志と目が合った。
「いったい、何が起きたんだ?」
「わからない」
剛志が僕に質問してくるが、僕も返答に困る。
そして起きあがり、宮本さんも含め、みんなが無事だった事を確認した。
「室田君、間壁君、宮本さん、無事だった?」
委員長の栗林さんが、僕らの元に駆けつけてきた。
「なんとか無事。他の人達は、怪我人とか出てない?」
僕が透かさず返事をして、他の人の安否を尋ねる。
「他の人はみんな無事。これも室田君と間壁君のお陰だわ」
「僕は何もやってないよ、剛志が光りの玉を投げつけて倒したんだ」
「いや、俺は草太に言われた通りに動いただけだ。本当にすごいのは草太だよ」
「えー、僕が逃げてって、いくら言っても聞かなかったくせに。何が僕に言われた通りだよ」
僕は納得できず、剛志に食って掛かった。
「どうして逃げてって、言った時に逃げてくれなかったのさ」
「誰かが止めなきゃならなかったんだ。仕方ないだろ」
「初めに言ったよな、危なくなったら逃げるんだって、約束守れよな!」
「だから仕方ないだろ、臨機応変だよ」
「仕方ないってなんだよ、剛志が犠牲になるくらいなら僕がぁ・・・」
剛志が、僕の襟首を掴んで引っ張り寄せた。
「今、何言おうとした?」
ものすごい剣幕で睨んできた。
しかし、ここは引けなかった。襟首の間に指入れ込み、気道を確保して反撃の声を上げた。
「そうだよ、剛志が犠牲になるくらいなら、僕がなるって言おうとしたんだ。どうせ僕はもう永くは「もう、やめて!」」
僕の言いたい事は、宮本さんに止められてしまった。
「もう、二人ともやめて、誰も悪くないし、誰も犠牲にならなくていいんだから!」
宮本さんが、泣きそうな顔で僕らを諭す。
剛志も、ものすごい剣幕だったのが、いつの間にか泣きそうな顔に変わっている。そして僕の襟首を離した。
「ごめん、言いすぎた。」
僕は素直に謝った。剛志はこの話題に触れると、現実逃避するように黙り込んでしまう。
だからもう、この話題は終わらせた方がいいのだ。
リチウム電池が衝撃により発火するのかは、専門家では無いのでわかりませんが、危険なので絶対にまねしないでください。
リチウム電池の発火ついては、メーカーの方やそれに関わる職種の方に、不快な思いをさせたとしたら申し訳ありません。
物語のストーリーの流れだと思って、軽く流してもらえると有難いです。