03
後ろから僕の様子を見ていた将と、浩幸が声をかけてきた。
「やっぱり、こういう時は草太が一番あてになるな!」
「そりゃあ草太だもん、何せ俺よか成績がいいんだから、当然だよ!」
僕と浩幸は、いつも成績を競っている。いつも、ぎりぎりで浩幸より点数はよいが体力がない分、せめてテストの点数ぐらい良くないと面目が保てないから僕も頑張っているのだ。
そんな事より、二人に誉められて少し恥ずかしいな、と思っていると剛志が僕の肩をたたいて言った。
「さすが草太だな、俺じゃぜんぜん思いつかなかったよ!」
ほんとに、やめてほしい。
顔がすごく熱くなってしまった。
ちなみにだが、僕と剛志はケータイとか持っていない。施設にはあるのだが、数に限りがあるため、小さい子に優先的に持たせるようにしている為だ。
それと僕らの学校は、集団行動中にケータイやスマホを使っていると没収されてしまうため、みんな学校の中や行事中は使う人はいない。
だからパッと、思い浮かばなかったのだ。
しばらくすると栗林さんが、あせった様子で僕を呼んだ。
「間壁君、電波も届いてないし、GPSもダメみたい、どうしよう」
「え、GPSもダメなの?」
僕も圏外は予想していたが、GPSが使えないのは想定外だった。
うーん、と僕が悩んでいると、クラスメート達が寄って来てスマホとか持っていた者達と操作の仕方を変えてやってみる。だけど、やっぱりダメみたいだ。
「やっぱり、ダメだ」
「なんでGPSまで通じないんだ」
「どうしよう」
みんなが、悩んでまた僕の方をみる。
「とりあえず、僕達がどの辺にいるのか仮定してみよう」
そう言って僕は、さっきの小冊子を取り出す。
この小冊子には、今日、向かうはずだった林間学校の施設の位置を略式の地図で書き込んである。
その地図を、みんなに見せながら説明する。
「僕らの通っていたトンネルは、この道の先にあると思うんだ」
と略式の地図の道路が切れている所へ、ペンで指差す。
「俺もそう思う」
「間違いないよ」
と何人かが肯定する。
僕らは昨年もこの施設に来ている。地図とかに疎くなければ、自分達がどの道を通ってきたかぐらい分かるものだ。
「だから、たぶん、この辺りにトンネルがあると思うんだ。」
と言って切れた道路の先に、ペンでトンネルを書き足す。
「僕達がいるのは、たぶんトンネルと林間学校の場所の間だと思う」
「どうして?トンネルより学校側かもしれないじゃん」
僕の説明を聞いていた西村さんが、疑問を口にした。
「それはね、僕はバスの中でずっと起きていたんだけど、トンネルの中に入ってから随分と走っていたんだよ。
もし、爆風なんかで飛ばされて、あの距離を飛んだとしたら、まず僕らは助かってないよ」
僕の言葉に、西村さんが納得した。
「だから同じ理由で多分、トンネルも近くにあると思う」
「それならトンネルを探して位置がはっきりすれば、私達もどっちに進めばいいかはっきりするんだね」
僕の言葉に栗林さんが、明るい声を出す。
「一応、僕の案なんだけど聞いてもらっていいかな?」
と言って、みんなの同意を得てから話し出した。
「僕達は三つに別れて行動した方が、いいと思う」
「え、なんで、二つのグループでいいんじゃないの?」
とクラスメートの藤本 修一が聞いてきた。
「うん、左右どちらとも人手を分けて進ませればいいけど、真ん中にも連絡役がいた方がいいと思うんだ」
と説明するが、よく分かってないようだ。
「真ん中に連絡役を置いて左右に別れた人達は決まった時間で、もどって来てもらえばいいと思う。
それと、一応、東西南北の方角も調べといた方がいいと思う」
「え、なんで、方角なんて必要なの?」
「これは、保険だけどね」
と言いながら、さっきの小冊子の地図をみせる。
「この地図は、上の方が北になっているんだけどね、もし仮に今この場所の北の方向がこっちなら、地図の方向と合わせると」
と言って地図の方向を合わせる。すると道路の方向がはっきりするので、自分達が進みたい方向が分かるのだ。
「へぇー、地図ってこんなにして見るんだ!」
数人の女子生徒達が、感心した様子で小冊子の地図を眺めていた。
なれない、やった事がない者は、こんな事でも感心するものだ。少し呆れてしまった。
「それと、もう一つ、僕は歩くのが遅いからね、みんなに迷惑をかけない為にここに残るよ」
そう言うと、ほとんどの者が納得した。
ただ「じゃあ俺も、ここに残るよ」と剛志が言った。が少し怒っている。
剛志は、僕が自分を卑下した事を言うと、「そんな事言うな!」とすぐ怒るのだ。
「それなら、私もここに残るかな。どちらの方も何かあった時、駆けつけたいから」
と、栗林さんもここに残る事にしたようだ。
その他の人達は、左右に別れて道路の先を調べる事にしたようだ。
「理穂、ケータイ、ごめんね。もどって来たら返すから」
栗林さんは、クラスメートの菅野 理穂のケータイを借りて時間を計るみたいだ。
「それじゃあ、みんな、一時間後にこの場所で!三十分歩いたら、何も見付けなくても帰ってくるのよ!」
と、栗林さんの号令でみんなが出発した。
「さあて、こっちもやらなきゃいけない事を、さっさと済ませますか!」
と、剛志が腕を振り回しながらやる気をみせた。
「だけど、方角なんてどうやって調べるの?」
と栗林さんが質問してくる。
「うん、木の切り株とかあれば、年輪を見て年輪の芯が、よっている方が北だよ。あと、木とか岩なんかに生えてるコケのついている方向が、北だよ」
「へぇー、よく知っているのね」
「あったり前だよ、草太だぜ!」
「そんなに変に持ち上げるなよ、僕はみんなみたいに体が動かせない分、本を読んで知識があるだけさ」
「また、そうやって自分を卑下する。草太の悪いとこだぞ」
「ごめん、ごめん」と、軽く謝ると、ようやく剛志は機嫌の良い顔をした。
「フフフ、ホントに二人は、仲が良いね」
栗林さんが、僕ら様子を見ていて声をかけてきた。少し恥ずかしい。
「さあ、さっさとやるぞ」
剛志も、恥ずかしかったみたいで、照れ隠しの声をあげる。
こうして三人で、森の中にわけ入った。
道路から、離れすぎないように注意しながら、周辺を探る。
その結果、切り株は無かったがコケの生えてる方向はだいたい分かった。
コケの生える方向なんて光の当たり具合で、いくらでも変わるので素人では見分けがつかないのだが、運良く光が常に当たっている場所とそうでない場所が、はっきりした部分があったのだ。
だいたいの方角は、分かったので三人とも道路に出てきた。
「これで、林間学校のある方向は、分かったね」
と栗林さんが安堵の表情を浮かべる。
「でもさ、この結果とトンネルの方向が逆だったりしたら、どうする?」
と剛志が聞いてきた。
「その時は、トンネルの結果を優先するよ。コケの方向なんて結構、曖昧だと思うんだ」
「え~、じゃあわざわざ調べる必要無かったじゃん」
と栗林さんが言ってきた。
「うん、そうなんだけど、なんとなくトンネルは見付けられないような気がするんだ」
僕の言葉に二人は、不思議そうな顔をした。
だいたいが、おかしいのだ。
もし爆発で飛ばされて、自分がどこにいるのか分からないような場所まで飛んで来たとしたら、とんでもない勢いで飛んできた事になる。
その勢いでアスファルトにたたきつけられたら、僕みたいな人間は無事で済むはずがない。
それと、あの光りの球に包まれる瞬間に感じた違和感、あのずれた感じが僕をどうしても不安にさせるのだ。
今、思った事を正直に二人に話す。
すると二人は、神妙な顔になった。
「たしかにあの時、変な感じがしたよな」
「う~ん、私はよくわからない」
「これは、僕が勝手に思っている事だから、そんなに心配する事ないよ。ただ何か変な事に巻き込まれているような気がしただけだよ」
「そんな事言うと、心配するなと言っても不安になるよ」
僕が、言った事で二人が不安になったようだ。
失敗したと思い、僕の思い過ごしだと二人に言い聞かせるが、効果があまり無かった。