01
初めての作品です。
宜しくお願いします。
蟬時雨の中を、僕らは歩いていた。
今日は、林間学校の日だ、親友と二人、学校に向かって並んで歩く。
朝早くから準備して出たのに、もう蟬の大合唱だ。蟬の声が重なりすぎて「ジーワ、ジーワ」ではなくもう「ワン、ワン」と聞こえる。
僕の名前は、間壁 草太、十五才になったばっかりの中学三年生。
親友の名は、室田 剛志、とうの昔に十五才、二人とも施設から学校へ通っている。
二人とも、親は、生きているかどうかもわからない。
僕は、生まれてすぐ施設へ預けられた。親は、僕を預けた後、行方をくらませたらしい。
詳しい事は知らない。
ただ僕の心臓は、生まれつき悪かったらしく、永く生きれないと言われているのだが、親はその事が負担だったのでは、と陰で言われたりしている。
僕の名前の草太の字は、雑草の草に太いだ。雑草のように図太く、生きてほしい、との願いでつけたそうだ。
そんなに思うなら、最後まで面倒見れよな!
隣を歩く剛志は、僕が五才の時に施設へやって来た。
施設の先生達は、剛志が来てすぐの頃は、すさんだ目をしていた、と言っていたが僕は、よく覚えていない。
ただ剛志に引っ張り回されて胸が、痛くなったのを覚えている。
それ以来、剛志は僕に過保護だ。
「早く、出てきてよかったろ!」
「うん、そんなに暑くないね、でも蟬が五月蠅いけどね」
「それは、しょうがないよ、蟬だって涼しいうちに鳴きたいんだろ」
「蟬は、暑い時も鳴いてると思うけどなぁ」
そんな、他愛のない話をしながら歩く。
朝早く出てきたのは、心臓に負担をかけない為だ。だけど剛志は、その事を口にはしない。
ただ「明日は、早く行こうぜ、七時には出るぞ」と言うだけだった。
そして今日の朝、僕が遅れて走って追い付こうとしたら、剛志に叱られた。
剛志は、僕がちょっと走っただけでも反応する。
目をとがらせて「草太、走るな!」と、大声で注意するのだ。
学校では、剛志は草太のおかんみたいだ、とよく言われる。
実際、クラスが剛志と別々になった時、剛志は校長室まで乗り込み、校長に直訴した。
「草太の心臓は、俺が守ります。だから、草太と一緒のクラスにしてください!」
と心から訴えた。
おかげでそれ以降、僕と剛志は、いつも同じクラスだ。
こうして、剛志とはすでに十年以上、一緒にいる。
しばらく歩くと、蟬の大合唱の中をくぐり抜け、ようやく学校内に入る事が出来た。
林間学校は、夏休みの途中で行われる学校行事だ。しかし家族旅行などを優先して、参加しない者も多い。
教室に入るとすでに、何人かのクラスメートが席に着席していた。
みんな学校指定のジャージを着てリュックを持ってきている。
僕と剛志も同じ格好だ。
「おはよう、今日はずいぶん早いな」
声をかけてきたのは、クラスメートの一人、松田 将だ。彼とは、小学校から一緒で仲の良い友達だ。
「おはよう、剛志が朝早く行こうって、五月蠅いんだ」
「なに言ってんだよ、早い方が暑くなくていいと、喜んでたじゃないか」
僕は、苦笑しながら「ごめん、ごめん」と謝る。
「剛志おかんの言う事にゃ、逆らえないよな」
「おかんて、言うな!」
「「あっはははははは・・・・・・・・・」」
しょうもない事で、三人で笑っていると、次々とクラスメート達が教室に入ってきた。
「おはよう」
「ひさしぶり」
それぞれが、それぞれに挨拶を交わし、教室が埋まっていく。
その中でまた一人、仲の良いクラスメートが挨拶をしてくる。
「おはよう、グッドモーニング、エブリボディ!」
「おはよう、浩幸、朝からテンション高いね」
うざったい挨拶をしてきたのは、野島 浩幸と言って、将と同じく小学校以来の友達だ。
「昨日、深夜ラジオ、聴きすぎた」
「深夜ラジオって、五十年前の受験生かよ!」
将がツッコんだが、僕は意味がよく分からなかった。
施設は二十三時には消灯だったので、深夜のテレビもラジオも視聴した事はないのだ。
だから、深夜番組の話題を出されると、僕も剛志も話についていけない。
ただ、浩幸が聴いているのは、FMではなくAMらしい。
何がそんなに彼の琴線にふれたのか、ものすごく興味があった。
浩幸は、中肉中背であまり目立たない顔立ちをしているが、みんなの中で一番活発でムードメーカーだ。
彼が元気がないと、なんとなく沈んだ空気になる。
逆に将は、いつも落ち着いた様子で、あまり慌てたりした姿を見せた事はない。
柔道部に所属していて体も大きい。
頼れる兄貴って感じだ。
ちなみに剛志も体は大きい。
剛志は、バスケ部に所属していて、横よりも縦に大きいと言う感じだ。
剛志と将は、いつも身長の競い合いをしている。最近は剛志の圧勝らしい。
二人ともこれ以上でかくなって、どうするつもりなのか?
とても、うらやましい話だ。そう言う僕の身長は、悲しいかな百六十センチにも届いていない。
剛志と将のデカイサイズの二人と、普通サイズの浩幸に、小人サイズの僕というのがいつもの男子メンバーだ。
ついでに言うと、浩幸は部活動には参加していない。浩幸の家は、結構な資産家だった。
だからか、浩幸は中学受験を親に進められたらしい。
だけど浩幸は、頑として受け付けなかった。
その代わり、高校は有名どころを受験する事が決まっている。だから浩幸は、学校が終わるとすぐに帰り、学習塾に通っているのだ。
僕と剛志、将の三人が浩幸のラジオの魅力を散々と聞かされていると、新たなクラスメートが教室に入ってきた。
「おはよう」
「おはようございます」
「おっはー!」
今度は、女子生徒だ。
宮本 まどか、植村 瞳、西村 菜穂の三人だった。
僕は、少しドキドキした。何故かと言うと宮本 まどかは、僕の片想いの相手だからだ。
宮本さんは、バレー部に所属していて身長も高い、百七十五センチはあるのではないか。
何故チビの僕が宮本さんのような人を好きになったかと言うと、宮本さんは高身長のせいで、がさつとかおおざっぱとかに見られるけど、実は慎重で思いやりのある優しい人だと知っている。
それに、可愛い物が大好きで女の子らしいし、顔立ちも整っていて美人だと思う。
この事を剛志に言うと、僕の気持ちは一発でばれてしまった。
今は、開き直って剛志にだけ宮本さんの事を好きだと教えている。
だけど僕は、剛志に教えた事をものすごく後悔した。
何故かと言うと、宮本さんが本当に好きな人を気付いたからだ。
今、宮本さんの目は剛志に向けられている。
そうなのだ、宮本さんの好きな人は剛志だったのだ。
宮本さんとの出会いだけど、もともと植村さんと西村さんは、僕らと同じ小学校出身で、仲が良かったのだが宮本さんだけ違う小学校出身だった。
しかし植村さんと西村さんと宮本さんは、昔から知り合いで仲が良かったらしい。
そして同じ中学校になり、一緒に行動するようになった。
僕らは、よく七人で集まって話をしたりする事も多く、宮本さんともよく話をした。最初は大きい人だな、なんて思っていたけど、彼女の事をいろいろ知る内に、いつの間にか好きになっていた。
そして宮本さんの視線の方向に、剛志がいると知った時、僕は何故か嬉しくなっていた。
とても、不思議な感覚だったんだ。
普通なら、嫉妬とかするんだろうけど、僕は何故か宮本さんが、剛志の事を好きなんだろうな、と思うと心がぽかぽかするのだ。
僕は自分が、変な性癖でも持ってたのかと、心配になってしまった。
この僕の感情の事は、まだ誰にも言っていない。一生隠し通すつもりだ。
それに、男の僕から見ても剛志は背が高くて、男っぽくて、顔も整っていると思う。
だからか、よく後輩の女の子達から、キャーキャー言われたりしている。嫉妬するのもバカバカしいのだ。
宮本さんが、剛志の事を好きかもしれない、と言うのは剛志には話していない、と言うかさすがに話せない。
そのせいか、みんなで話をしていると剛志が、僕と宮本さんを近付けようとするのだ。
剛志にやめてくれ、と言って最近はしなくなったが、今一番の悩みの種だ。
それから植村さんと、西村さんだけど、丁寧に挨拶をした方が植村さんで、元気よく挨拶した方が西村さんだ。
実は西村さんと将は、こっそり付き合っている、らしい。
将は、結構な恥ずかしがりやだったりする。
だからか、みんなに隠しているが、バレバレだ。
その内、打ち明けてくれるのをみんな期待している。
植村さんは、誰とも付き合ったりはしていないが、浩幸が一生懸命アピールしている、が、こちらは無理そうだ。
浩幸、御愁傷様。
僕らの友達関係は、だいたいこんなものだ。