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四十七個の宝玉  作者: 黒灰 賢二郎
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01

 初めての作品です。

 宜しくお願いします。

 蟬時雨の中を、僕らは歩いていた。


 今日は、林間学校の日だ、親友と二人、学校に向かって並んで歩く。


 朝早くから準備して出たのに、もう蟬の大合唱だ。蟬の声が重なりすぎて「ジーワ、ジーワ」ではなくもう「ワン、ワン」と聞こえる。


 僕の名前は、間壁 草太(まかべ そうた)、十五才になったばっかりの中学三年生。

 親友の名は、室田 剛志(むろた たけし)、とうの昔に十五才、二人とも施設から学校へ通っている。


 二人とも、親は、生きているかどうかもわからない。


 僕は、生まれてすぐ施設へ預けられた。親は、僕を預けた後、行方をくらませたらしい。


 詳しい事は知らない。


 ただ僕の心臓は、生まれつき悪かったらしく、永く生きれないと言われているのだが、親はその事が負担だったのでは、と陰で言われたりしている。


 僕の名前の草太の字は、雑草の草に太いだ。雑草のように図太く、生きてほしい、との願いでつけたそうだ。


 そんなに思うなら、最後まで面倒見れよな!


 隣を歩く剛志は、僕が五才の時に施設へやって来た。


 施設の先生達は、剛志が来てすぐの頃は、すさんだ目をしていた、と言っていたが僕は、よく覚えていない。


 ただ剛志に引っ張り回されて胸が、痛くなったのを覚えている。


 それ以来、剛志は僕に過保護だ。


 「早く、出てきてよかったろ!」


 「うん、そんなに暑くないね、でも蟬が五月蠅いけどね」


 「それは、しょうがないよ、蟬だって涼しいうちに鳴きたいんだろ」


 「蟬は、暑い時も鳴いてると思うけどなぁ」


 そんな、他愛のない話をしながら歩く。


 朝早く出てきたのは、心臓に負担をかけない為だ。だけど剛志は、その事を口にはしない。

 ただ「明日は、早く行こうぜ、七時には出るぞ」と言うだけだった。


 そして今日の朝、僕が遅れて走って追い付こうとしたら、剛志に叱られた。

 剛志は、僕がちょっと走っただけでも反応する。


 目をとがらせて「草太、走るな!」と、大声で注意するのだ。


 学校では、剛志は草太のおかんみたいだ、とよく言われる。


 実際、クラスが剛志と別々になった時、剛志は校長室まで乗り込み、校長に直訴した。


 「草太の心臓は、俺が守ります。だから、草太と一緒のクラスにしてください!」


 と心から訴えた。


 おかげでそれ以降、僕と剛志は、いつも同じクラスだ。

 こうして、剛志とはすでに十年以上、一緒にいる。


 しばらく歩くと、蟬の大合唱の中をくぐり抜け、ようやく学校内に入る事が出来た。


 林間学校は、夏休みの途中で行われる学校行事だ。しかし家族旅行などを優先して、参加しない者も多い。


 教室に入るとすでに、何人かのクラスメートが席に着席していた。


 みんな学校指定のジャージを着てリュックを持ってきている。

 僕と剛志も同じ格好だ。


 「おはよう、今日はずいぶん早いな」


 声をかけてきたのは、クラスメートの一人、松田 将(まつだ しょう)だ。彼とは、小学校から一緒で仲の良い友達だ。


 「おはよう、剛志が朝早く行こうって、五月蠅いんだ」


 「なに言ってんだよ、早い方が暑くなくていいと、喜んでたじゃないか」


 僕は、苦笑しながら「ごめん、ごめん」と謝る。


 「剛志おかんの言う事にゃ、逆らえないよな」


 「おかんて、言うな!」


 「「あっはははははは・・・・・・・・・」」


 しょうもない事で、三人で笑っていると、次々とクラスメート達が教室に入ってきた。


 「おはよう」


 「ひさしぶり」


 それぞれが、それぞれに挨拶を交わし、教室が埋まっていく。


 その中でまた一人、仲の良いクラスメートが挨拶をしてくる。


 「おはよう、グッドモーニング、エブリボディ!」


 「おはよう、浩幸、朝からテンション高いね」


 うざったい挨拶をしてきたのは、野島 浩幸(のじま ひろゆき)と言って、将と同じく小学校以来の友達だ。


 「昨日、深夜ラジオ、聴きすぎた」


 「深夜ラジオって、五十年前の受験生かよ!」


 将がツッコんだが、僕は意味がよく分からなかった。


 施設は二十三時には消灯だったので、深夜のテレビもラジオも視聴した事はないのだ。

 だから、深夜番組の話題を出されると、僕も剛志も話についていけない。


 ただ、浩幸が聴いているのは、FMではなくAMらしい。

 何がそんなに彼の琴線にふれたのか、ものすごく興味があった。


 浩幸は、中肉中背であまり目立たない顔立ちをしているが、みんなの中で一番活発でムードメーカーだ。 

 彼が元気がないと、なんとなく沈んだ空気になる。


 逆に将は、いつも落ち着いた様子で、あまり慌てたりした姿を見せた事はない。

 柔道部に所属していて体も大きい。

 頼れる兄貴って感じだ。


 ちなみに剛志も体は大きい。

 剛志は、バスケ部に所属していて、横よりも縦に大きいと言う感じだ。


 剛志と将は、いつも身長の競い合いをしている。最近は剛志の圧勝らしい。


 二人ともこれ以上でかくなって、どうするつもりなのか?


 とても、うらやましい話だ。そう言う僕の身長は、悲しいかな百六十センチにも届いていない。


 剛志と将のデカイサイズの二人と、普通サイズの浩幸に、小人サイズの僕というのがいつもの男子メンバーだ。


 ついでに言うと、浩幸は部活動には参加していない。浩幸の家は、結構な資産家だった。

 だからか、浩幸は中学受験を親に進められたらしい。


 だけど浩幸は、頑として受け付けなかった。


 その代わり、高校は有名どころを受験する事が決まっている。だから浩幸は、学校が終わるとすぐに帰り、学習塾に通っているのだ。


 僕と剛志、将の三人が浩幸のラジオの魅力を散々と聞かされていると、新たなクラスメートが教室に入ってきた。


 「おはよう」


 「おはようございます」


 「おっはー!」


 今度は、女子生徒だ。

 宮本 まどか、植村 瞳、西村 菜穂の三人だった。


 僕は、少しドキドキした。何故かと言うと宮本 まどかは、僕の片想いの相手だからだ。


 宮本さんは、バレー部に所属していて身長も高い、百七十五センチはあるのではないか。


 何故チビの僕が宮本さんのような人を好きになったかと言うと、宮本さんは高身長のせいで、がさつとかおおざっぱとかに見られるけど、実は慎重で思いやりのある優しい人だと知っている。

 それに、可愛い物が大好きで女の子らしいし、顔立ちも整っていて美人だと思う。


 この事を剛志に言うと、僕の気持ちは一発でばれてしまった。


 今は、開き直って剛志にだけ宮本さんの事を好きだと教えている。


 だけど僕は、剛志に教えた事をものすごく後悔した。

 何故かと言うと、宮本さんが本当に好きな人を気付いたからだ。


 今、宮本さんの目は剛志に向けられている。


 そうなのだ、宮本さんの好きな人は剛志だったのだ。


 宮本さんとの出会いだけど、もともと植村さんと西村さんは、僕らと同じ小学校出身で、仲が良かったのだが宮本さんだけ違う小学校出身だった。

 しかし植村さんと西村さんと宮本さんは、昔から知り合いで仲が良かったらしい。


 そして同じ中学校になり、一緒に行動するようになった。


 僕らは、よく七人で集まって話をしたりする事も多く、宮本さんともよく話をした。最初は大きい人だな、なんて思っていたけど、彼女の事をいろいろ知る内に、いつの間にか好きになっていた。


 そして宮本さんの視線の方向に、剛志がいると知った時、僕は何故か嬉しくなっていた。


 とても、不思議な感覚だったんだ。


 普通なら、嫉妬とかするんだろうけど、僕は何故か宮本さんが、剛志の事を好きなんだろうな、と思うと心がぽかぽかするのだ。


 僕は自分が、変な性癖でも持ってたのかと、心配になってしまった。


 この僕の感情の事は、まだ誰にも言っていない。一生隠し通すつもりだ。


 それに、男の僕から見ても剛志は背が高くて、男っぽくて、顔も整っていると思う。

 だからか、よく後輩の女の子達から、キャーキャー言われたりしている。嫉妬するのもバカバカしいのだ。


 宮本さんが、剛志の事を好きかもしれない、と言うのは剛志には話していない、と言うかさすがに話せない。


 そのせいか、みんなで話をしていると剛志が、僕と宮本さんを近付けようとするのだ。

 剛志にやめてくれ、と言って最近はしなくなったが、今一番の悩みの種だ。


 それから植村さんと、西村さんだけど、丁寧に挨拶をした方が植村さんで、元気よく挨拶した方が西村さんだ。


 実は西村さんと将は、こっそり付き合っている、らしい。


 将は、結構な恥ずかしがりやだったりする。

 だからか、みんなに隠しているが、バレバレだ。


 その内、打ち明けてくれるのをみんな期待している。


 植村さんは、誰とも付き合ったりはしていないが、浩幸が一生懸命アピールしている、が、こちらは無理そうだ。


 浩幸、御愁傷様。


 僕らの友達関係は、だいたいこんなものだ。

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