パソコンが無くてなろうを追放されそうだった俺が、ファンの一言で這い上がる話
一字下げや三点リーダー。なろうには纏めてやってくれる機能が付いているから、ある程度はパソコンと大差ない文章が打ち込める……問題は疑問符などにスペースを開けるのが面倒だということだ。あえてルールを無視した作家も多くいるが、あまり評価されていないというのが私見だ。
――と、俺はしがないなろう作家。微妙なランクの底辺だ。感想欄で何度か褒められることがある。「発想は面白いですね」とか、「独特な世界観が面白いです」とか。そう、全く見られていないわけじゃない。特定のファンもいるのだ。
しかし、なかなか伸びない。これは困ったものだ。新規のファンが欲しい。だから、いろいろ試した。どうせスマホ打ちなら、一字下げなどもせず、あるがままに書こうと。そうしたら、「文章が壁w」とか、「パソコンないのですか?」と散々だった。
(パソコン買う金がねぇんだよぉおおおお‼‼)
それでも何とか耐えてたさ。でも、今度の感想には心が折れそうになった。
「パソコン無いなら、なろうやめれば?(笑)」
こういった類の感想を寄こす野郎の顔が知りたい。会ったら殴ってやりたい気分だ。「何様だ」と。泣く泣くその感想を消した。ログアウト。そして、本当に辞めてしまおうかと項垂れた。前々から思っていたんだよ。俺には才能が無いって。ははは、金もか。良い機会じゃないか。全てあの感想のせいにして、今ある作品すべて消してしまおう。
再びログインしたときに、赤文字が光っていた。それがとても怖かった。また追い打ちをかける感想を貰ったんじゃないかって思った。恐る恐るタップする――そこには、ファンの一人が必死に俺なんかの作品の良い点を探して、一言「応援しています」と、書き記してくれていた。
俺は心臓が飛び出るほどうれしかった。胸が圧迫されると同時に、目からじんわり涙も湧いて出た。苦しい。たった一人の言葉が、これほどまでに刺さるとは。
(パソコンの有無じゃない。俺には少ないファンがいるんだ。間違いない。俺の作品は、面白い!)
確信した俺は、なろうらしさとか、分析を一切やめて、物語を紡ぎ続けた。あらすじは、三人の幼馴染が一匹のチビドラゴンと出会い、それを狙っている国家捜査員に命を狙われるといった、ハイファンタジーだ。中には、「某SF映画のパクリだ」と言う者もいた。だが、俺は書き続けた。見てくれる人は必ずいると信じて。
一年ほど経って、変化が訪れた。チビドラゴンが主人公の血を見て涙し、国家捜査員に炎を噴くシーンの話数を投稿したら、PVが異常に増えたのだ。俺はそこがウケたのかと思っていたが、違った。
◇◆◇
良い点
主人公の幼馴染が手を取り合って、チビドラゴンのことを大切に扱っていて、そのせいで怪我を負っちゃうけど、自分を傷付けた国家捜査員まで庇おうとするのに感動しました。これから先どうなるのかを見守りたいと思います。
◇◆◇
初めて見る感想主だった。いつものファンも書き込んでくれていたが、とても嬉しかった。継続は力なりとは言ったもんだ。一年で268pt。多いのか少ないのかは分からない。
――ふと、逆お気に入りユーザが増えていることに気づいた。ランキング上位の有名な作家だった。気になって履歴を探ってみると、俺の作品に★★★★☆を入れてくれていた。
ここからだった。俺の逆転劇は。
有名作家の履歴からどんどん俺の作品を読みに来てくれる読者が現れたのだ。そして、知らないところで俺の作品は批評までされるようになり、現在のptは3456。感想返信も大変になるようになった。ありがたいことだ。ブクマ100の壁も乗り越えた。晴れて俺は底辺ではなくなったのだ。
こうなったのも、全ては俺を応援し続けてくれたファンのおかげだし、俺の作品を見つけてくれた作家のおかげだ。一年間。止めないで本当に良かった。続けていれば、必ず何かが残る、それが執筆だ。
時々変な感想を貰うことも多くなったが、無視だ無視。
ここは【小説家になろう】。書くことに迷うことなかれ、作家たちよ。パソコンが無くても、そこそこの文章が書けるぞ。一生懸命ポチポチした時間は無駄なんかで終わらない。
そうして俺は、完結ボタンを押したのだった。日間ランキング3位。120万字越えの小説の味。とくと味わえ、俺をバカにした奴らども‼‼