幸運販売代行店5
相変わらずいちゃついているカップルを前にし、アティカはいつもの営業スマイルに戻る。
「お待たせしました。買い取りの見積もりが出来ました」
そういいながら、いくつかの資料と見積書を広げる。ふとガムシロップを入れていたかごをみると、すべて無くなっている。二人のグラスは、アイスコーヒーを出したはずなのになぜか透明な液体が並々入っているように見えるのは気のせいだろうか。
「あ、できましたか?」
アティカが資料をテーブルに広げて数秒経った頃に、ようやく男性が二人のいちゃラブフィールドから現実世界に戻ってきた。
「買い取り票……でしたっけ、これでいいですか?」
「あ、はい。確認しますね」
アティカは男性から買い取り希望記載票を受け取り、確認を始める。手元の資料と照らし合わせながら、テーブルの上にあった電卓を素早く叩き、メモを始めた。
数分後、メモをした資料を二人に見せながら説明を始めた。
「確認終わりました。二人が別れない程度残した恋愛運、生活に困らない程度に残した金運、仕事運、その他生活とは関係ない総合的な幸せを買い取りしまして、全部でそれぞれ12年3ヶ月の寿命延長になりますがよろしいでしょうか?」
見積書を見るまでも無く、アティカの言葉を聞いて女性が突然立ち上がった。
「えぇ! 十二年もダーリンと一緒にいられるなんて!」
「本当、うれしい限りだよ、ハニー」
男性の方も経って二人で喜びを分かち合っている。いちゃラブフィールドは他所でやってくれと思いながら、アティカは契約書を取りだし、二人の前に差し出した。
「……ではこの契約書に必要事項の記入をお願いします」
必要事項の記入を終え、はんこを押すと、「よかったね、ダーリン」などとストロベリートークを続けながら、カップルは帰っていった。
「ありがとうございました」
そのカップルを見送り、入口のドアを閉めると、アティカはくるりと振り返って不気味な笑顔を見せた。
「クックック……」
ちょうどグラスを片付けに来たカルチェは、その様子をあきれた顔で眺める。
「お姉ちゃんの笑い声はいつ聞いても不気味なのでふ」
「いやあ、これが笑いをこらえていられますか。あのカップルには『別れないだけの』恋愛運を買い取ると言っておいたけど、実際は別れるか別れないかの瀬戸際まで恋愛運を買い取ってやったわ! こんだけの恋愛運は高く売れるわよ! これでノーベル賞は私のものよ!」
「そんなの、見積もり見たらばれるんじゃないでふか?」
「大丈夫、見積もり置いて帰ったし。いえ、持って帰れるものを放置したし、契約書にはんこもサインもある。だから、そもそもこれは正当な契約! 私は何も悪くない!」
「それはなんて詐欺及び悪徳商法でふか?」
アティカは時々、先ほどのように気に入らない客に対し、見積もりを偽って申告することがある。たまにカルチェが止めるが、暴走したアティカはどうにもならない。
「恋愛運が手に入ったとはいえ、赤字が大幅に増えたでふ。今月は確実に赤字でふね」
「大丈夫、こんな極上な恋愛運があれば上等上等! 今日は大収穫だわ! 店を閉めて、手に入れた金運を駆使して焼肉でも食べに行くわよ!」
「はぁ、少しは自分で稼いだお金でご飯を食べたらどうかと思うんでふがねぇ。これが本当の職権乱用でふ。だいたいこんな怪しい職業よく国が認めてくれたでふね」
寿命をやりとりしただけでは商売が出来ない。そこで生活のために使用するのが、買い取った金運やギャンブル運などである。これによりパチンコや競馬などのギャンブルを駆使し、そのお金で生活している。
「で、今日は何がいい? 焼肉? 寿司? ステーキ?」
「ひとまず儲けた額と相談したほうがいいと思うんでふが……」
金運があるとはいえ、いくら稼げるかは分からない。カルチェは姉の計画性の無さに、呆れながらトレーにグラスを載せた