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死神レポーター3

 死を迎えた魂は、体から抜けた後そのまま死後界のどこかに向かう。広大な死後界のどこに魂が行くのかはある程度決まっているが、それでも範囲は広い。

 だが、スクリーンでどの魂が来るのかを確認していれば、後は別のモニターで追跡が可能である。


「全部の魂にGPSでもついているんでふか?」などとカルチェが問うが、アティカは颯爽|<<さっそう>>とレポート用紙を持って取材対象の元へ駆けつける。

 死後界プレスの社屋から出て、駐車場にとめてある黄色い車に乗る。カルチェが「お姉ちゃん、免許持ってたんでふね」などと言うのも構わず、アティカは社用車を動かした。

 車の中にあるモニターを見ながら、魂の場所を追いかける。しばらく走ると街を抜け、草原が見えた。


「あ、いたわよ、あのおじいさんね」


 草原を何処に行くでもなくふらふらと歩く人影が見える。事故に遭った男性のようだ。

 近くに社用車を停め、取材道具を持つと、アティカはその人影に向かって走っていった。


「ま、まつでふよ……もう……」


 カルチェも車から降り、あわててアティカの後を追った。



「こんにちは、死神レポーターです。今日はあなたの死に様についてお伺いしたいと思います」


 男性に近づくと、すぐさまアティカは声をかける。別の方向へふらふら歩いていた男性は「えっ」と振り返った。


「あー、すみません、説明不足でしたね。ここは死後の世界、死後界と呼ばれる場所です。あなたは交通事故で亡くなって、今魂の状態なのです……と言っても、実感わかないと思いますが……」

「お姉ちゃん、もうちょっと言い方どうにかならないんでふか?」


 追いついたカルチェが突っ込むが、アティカは気にせず説明を続ける。

 交通事故で亡くなったことや、男性が今魂の状態であること、今いる場所、今後どうなるかなど、男性にとってはあまり実感のわかないようなことばかりだ。しかし、男性は状況を受け止め、なんとかインタビューを受けることを承諾してくれた。


「えっと、お名前と年齢を……」

「個人情報なんか聞いて大丈夫なんでふかね……というか、確かデータがここにあったような……」

「カルチェ、こういうのはテンプレートがあるのよ。これに沿ってやらないとテンポが崩れちゃうから」

「お姉ちゃんにテンポなんて概念、あったんでふね」


 カルチェの突っ込みをよそに、アティカは質問を続ける。男性は、それにゆっくりと答えていく。


「ありがとうございます。では、何故少女を助けようと突然飛び出したのですか?」


 ある程度の個人情報の質問が終わり、アティカは核心に迫る質問を男性にした。


「……気が付いたら、といった方が正しいのか……」


 男性は徐々に語り始めた。


「わしにも孫がいたのじゃが、交通事故で亡くなってしまったんじゃ。だから、同じくらいの年頃の子が飛び出していくのを見て、体が勝手に反応したんじゃろうなぁ……」


 うつむきながら、物寂しそうに話す。詳しい話を聞くと、孫を失ってからというもの、生きがいを無くし、何をするにも上の空な生活が続いていたのだそうだ。そんなときに、飛び出す子どもを見て黙ってみていられなかったらしい。


「……だからって、そんな無茶なことはいけないでふ」

「まあ、わしも先は長くないからのう。少しでも将来がある子どもにこの命を分けることが出来たのなら、わしは幸せじゃ」


 アティカはメモを取るのも忘れ、男性の話に聞き入ってしまった。話終わると、男性はとぼとぼと当てもなく歩き始めた。もう少しインタビューをしたいところだったが、アティカたちは男性を止められなかった。


「……インタビューへのご協力、ありがとうございます」


 アティカはぽつりとつぶやき、男性の言葉を心の中に刻んだ。



 このニュースは人間の魂の間で大きな話題となった。

 余命幾ばくも無い老人が、未来ある子どもを救った悲しい事故。この出来事に、大きな感銘を受けたものも多かった。


「はぁ……お姉ちゃん、小説は書けないのにこういうのは書けるんでふね」

「そりゃまあ、事実をかくだけだし? これで社長に昇進確定よ!」

「たまたま良質な記事が一本かけたぐらいで社長になれるなら、運がいい人は皆社長でふ」

「何を言う、きっと編集長もさぞご機嫌で私を誉めてくださるに違いない、そして私は大金持ちに……妹よ、欲しいものを何でも言うが良い!」

「だからいい記事が一本でそんな大金がもらえるはずが……」


 カルチェが続けようとしたところ、編集長がこちらにやってくるのが見えた。


「ほら見なさい、今から私に多大なる褒美を下さる親方がやってきましたぞ」


 しかし編集長の顔はあまり良い顔ではない。


「そこにいたか、アティカ君、捜したよ」

「あ、編集長、こんにちは」

「今回は実に良く書けた記事だった。しかし……」


 しかし、という言葉に姉妹は目を合わせた。


「今回の君のインタビュー対象ではないのだよ、あのご老人」

「……は?」

「いや、あのご老人は本来昨日事故で亡くなる予定ではなかった人物なのだ。本来の対象は彼だよ」


 そういって編集長が見せた写真には見覚えがあった。あの事故に遭う寸前で車を回避した男である。


「何かの不都合で事故に遭わなかったらしいが、ついさっき事故で亡くなった。ということで東京AK88R-MEME地区をチェックしてインタビューしてこい!」

「……いや、その前に昨日の記事のお褒めの言葉を……」

「さっさと行ってこい!」

「ひぃぃ! わ、わかりました!」


 慌ててアティカは現場へ向かった。カルチェも、編集長に一礼して急いでアティカの後を追う。



「いやぁ、あの時は死ぬかと思ったよ。天の女神様が『あなたは死ぬような人間ではない』とおっしゃり、我に返りましたね。その瞬間目の前を車がものすごいスピードで駆け抜けていったので、危なかったわけですよ」

「はぁ……」


 インタビューを始めると、魂までリュックを背負った、いかにもオタクな男は、死ぬ直前について語り始めた。


「もともと二次元しか信用してなかったんだけど、やはり三次元にも女神様はいるものだね、いやぁ、女神様萌え~」


 呆れながらメモを取るアティカの肩を、カルチェが軽くたたく。


「よかったでふね。お姉ちゃんの声は届いたみたいでふ」

「う、うるさいわねぇ」

「あ、そういえば巨乳をどうとか言ってなかったでふか?」

「え、いや、あれは口からでまかせで……」


 巨乳、と聞いて男の眼鏡が光る。


「な、巨乳ですと!? 女神様は巨乳まで見せてくれるのですか!まああなたは違いそうですけど」

「まあ、お姉ちゃんは巨乳じゃないから女神にはなれないでふね。それはそうと車が欲しいので今度買っておいてくださいでふ」

「うがぁぁぁ! こいつら調子に乗せておけばぁぁぁ!」


 結局この男のインタビューは夕方まで続いたが、まともな記事になるはずも無く、編集長からこっぴどく怒られた。



 「……ところでお姉ちゃん、私たちはどうやってここに来たのでふか?」


<死神レポーター おわり>

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