錬金術と魔法を使ってみた
水浴びを終えた俺は、困った。
マジやばい。阿呆じゃん俺、計画性無さすぎ。
こんなんじゃ、先が思いやられるわ。
俺は自分を徹底的に罵倒した。
端から見れば、幼い少女がポカポカポカと自分の頭を叩いているように見えるだろう。
俺がやらかしたことを端折って言うと、濡れた身体を乾かす手段もなしに川に飛び込んだ、だ。――どうだ、実に阿呆だろ? 笑いたければ笑え、馬鹿にしたければ馬鹿にしろ。
「あはは、あはは、しがない君最高ー」
そんな俺の様子が、女神様のツボに入ったらしい。してやられた感じがして、なんだか癪に触る。
またお前から、金色の液体を絞り出してやろうか?
「笑わないでくれないかな。女神様ー?」
女神様と会話しても何も進まないので、女神様は放置して――考える。
この状態からどうすれば最善なのか模索する。
さて、どうするか……。
①濡れたまま、服を着る。
②錬金術に頼る。
③魔法に頼る。
④身体が乾くまで待つ。
①は論外として、(まあ最終手段としては置いておく)、現実的なのは②か、③か? ④は風邪を引きそうだ。女の子は身体冷やしちゃいけないというし悠長に待ってもいられないだろう。
錬金術はそこまで万能とは思えない、――よし、魔法で火を熾そう。そうと決まれば、薪探しだ。
俺は川から出た。全裸のまま山の森へと進む。誰にも目撃されないのを祈りつつ……。
風魔法で乾かせばいいというのに気付くのは、また後の話。
俺は全裸で落ちている枝を広い集めたり、
「【風刃】」
――ピューン!
上方の枝に向けて風魔法【風刃】を放ち、
――スパッ!
枝を鋭利な風の刃で切り落とす。
魔法の発動方法は何となくわかっていた。身体が覚えていたような不思議な感じだ。それに従ったら実際に魔法が起こった。
実際に使ってみてわかったことがある。魔法には溜めの時間が必要なようで、結構発動まではタイムラグが出来てしまう。俺がまだ未熟な可能性もなくはないが……。
ともかく物理職さん良かったね、魔法職が圧倒有利ってわけでもないよ。無詠唱でも出来たが、念じてから発動までの間に待ち時間がある。修練すればこの待ち時間は短くなるはず。
ただ、無詠唱は詠唱するよりも若干威力が落ちる。早いのが長所か。ちなみに、無詠唱とはいえ、発動時には魔法名を言う必要があるっぽい。
詠唱した方がよさげな感じはするが、まあ、それはその都度考えていくか。別に魔法に威力が必要でないときは詠唱することはないだろうしな。
かといって、詠唱しなさすぎるのもよろしくないだろう。いざというとき詠唱の訓練も怠らないようにしなくてはな。
――有用な情報がいっぱい手に入ったな。覚えておこう。
しかし、なるほど、これが魔法か。
枝を切ったのは試し打ちをするためでもあったのだ。
思考に耽っていた俺は失念していた。上方の枝を切り落とすとどうなるかというと、必然的に――うわっ、枝が降ってくる! しかも俺の元に!! となる。
「きゃっ」
――ストン!
枝が落ちた。俺はすんでのところで交わす。――女の子の身体だからか女の子の声が出た。
ああ、怖かった。枝にあたって死ぬかと思った。
「どっかの女神様の雷のせいかなー、上方から枝が降ってくるのがめっちゃ怖かった……」
「謝ってるじゃない」
「俺はまだあれを許すとは言ってない! 思っただけだ」
「屁理屈だ屁理屈! そうやってしがない君は私を虐める!」
そう言ってそっぽむく女神様。
「ははは、女神様ったら拗ねちゃってかわいいなあ、もう」
女神様ちょっぴり残念感あるけど……、ところどころ子供っぽくてかわいいし、――俺は女神様のことを段々と気に入ってきていた。かもしれない。
さてと、話を戻そう。――さっきのように枝を集めたり、枯れ草を摘んだり、樹皮を拝借したりした。
――よし、いい具合に薪が集まってきたぞ。
前日雨でも降ったのか枝が濡れている。
枝が濡れていると火が着きづらいんだっけ?――キャンプの経験ないから、素人の浅知恵だ。
あっ――閃いた。
俺は枝を抱え、先程よりそこに置いてあった例の錬金釜にドササ! っとぶっこんだ!
「『枝マイナス水分』でお願い!」
俺は全裸で両手を合わせ膝を立て祈る。
頼みましたよ錬金釜さん! そろそろ風邪引きそうだから早くね!!
――って!
「ケホッ! ケホッ!」
錬金釜がブスブス多量の煙を吐いたのだ。俺の要望が本来のお仕事とは違うからか立腹したみたいに見えた。
とりあえずご機嫌取りだと、宥めまくる。
ようやく錬金釜が落ち着く。
もう大丈夫かな? と、そのままの姿勢で数秒待った。すると錬金釜さんはもくもくもくと湯気を立て、――乾いた枝を排出した!!
グッジョブ、錬金釜さん! 後は俺がやる!
と、格好よくポーズを決めて、息巻いたところで俺は気付いた!――気付いてしまった!!
てか、俺――ミーシャの身体乾いてんじゃん!!
ズッコケた。
骨折り損のくたびれ儲けとは正にこの事だ。
服着るか……。
俺はとぼとぼと服を着る。
ここまで努力したんだし、一応、火だけは熾すことにした。
枝を取りに行き、俺がイメージする焚き火のように並べる。
「【点火】」
――ボォォォォォォ。
という感じで、火の魔法や用意したものを使って上手くやった。
燃えやすい枯れ草等から徐々に燃やして火勢を増さしていったのだ。
あたってみると――めっちゃあったかかった。
焚き火に、あたっていると思い出した。さっきの魚とのバトルでの屈辱を。
俺は閃く。
そうだ。魚を捕まえてここで焼こう。
そうと決まれば、行動は早い。
よし、モリを作ろう!
石を拾ってきて研磨する。
――ズザッ! ザッ! ザッ! ザッ! ザッ!……
鋭くモリの先端のように尖らす。同時に、俺の心も、(食い意地で)、研ぎ澄まされていった……。
そうして――、何度も何度も擦り……ようやく、石が尖った。
後はこの木の棒と一緒に石を錬金釜にぶっこんで――、ありゃ? 木の棒が錬金釜につっかえた。
木の棒が入らない、どうすれば……。
途方にくれていると、錬金釜が煙を吐く。俺にはそれがまるで、――困ったやつだ。とため息を付いたように見えた。
すると――、
――ん? 錬金釜の様子が……。
錬金釜が大きく揺れ動き、
――ゴーーーーーー、ゴックン!
掃除機のような吸引力で、錬金釜が無理やり木の棒を吸い込んだ。
結果オーライってやつだね。
錬金釜は、一生懸命に錬金してくれている。
――ゴトゴト、ゴトゴトゴト、ゴトゴトゴトゴト……、ポンッ!
出て来た。――石の着いた簡易的なモリが。
初めての錬金、これが俺の始めての武器か、感慨深い。
行くぞ!! 相棒のモリを持って川へと入る、もちろん靴は脱いで素足だ。
よし、これで魚を捕るぞ! とモリを構えながら川を進む。――あっ! 魚を見付けた!!
慎重に慎重に……。
そいつの塩焼きを想像する。
それはそれは、めちゃくちゃ旨いことだろう。
ならこの戦いは……負けられない!!
魚に逃げられてしまわぬように、一撃で仕留めねばならない。
魚の動向を目で追う。魚はかなり素早い、モリを構え待った、――好機を。
やがて魚がピタリと止まる。俺の野生の勘がここだと告げる。
「ここだあぁぁぁぁぁぁぁ!!」
俺は、魚へとモリを――突き刺した! 突き刺す事が出来た!! 奇跡的なクリーンヒットに俺は、歓喜の声を上げた。
「やった! やったぞ! これで俺は塩焼きが食べられる!!」
俺は始めてこの手(道具を使っているが)で魚を捕ったのだ。
その喜びを全身で表すため、水をばしゃばしゃと飛ばし川を飛び回った。
そうして捕った魚を焼いた。串は木の棒だ。じっくり焼けるまで待った。
腹を空かせながら待っていると、とても香ばしくていい匂いがする。
その香りに俺はワクワクした。腹も可愛く鳴る。
やがて、どれくらい待っただろうか、魚が焼けた。
俺はかぶり付く、
「これ、何も味付けてないのに、めっちゃ美味しい!!」
自分で捕ったからだろうか? 焼いた魚は旨かった。残念ながら塩はなかった……、めちゃくちゃ残念だ。
魚で腹を満たした俺は、焚き火は――、水をぶっかけて消火。炭は――、錬金釜に与えるとクリーンなもの(木材)に戻してくれたので、
「【土砂】」
土魔法を上手く使って埋めたり等して処分した。――土へおかえり。
あれ? おっかしいな、たしかこの辺に……。
埋め立てたらモリがなかった。何かに盗まれたのだろうか……。
ガサゴソゴソ……去っていく何かの影が見えた。人っぽい体格のやつだった。
なんだあれは……?
影に向けて意識を集中すると、システムからのメッセージが出た。
『オーク。暴力的な魔物。知性あり。レベル差が危険水域に達しています。決して、近付くことなかれ』
オークかぁ……。
めっちゃ強そうな見た目だった……。――あれは敵わないだろうなぁ……。
「さーて、モリのことは忘れることにしようかな……」
俺はそう呟いた。始めて獲物を捕ったモリを忘却の彼方へ押しやるんだ。
「しがない君って意気地無し?」
女神様が酷いことを言っているけれど、まあいい、俺は敵わない戦いをするほど向こう見ずじゃないんだよ……。