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プロローグ3 神罰

「……すぅーはぁー、さっきのはオフレコでおね」


「……了解っす」


 少女のお願いに、俺は了承した。

 かなり荒ぶっていたが、深呼吸して落ち着いた少女が、意気揚々と宣言する。


「ここから私のターンだよ!」


 俺は唐突な宣言に驚いた。

 急になんだ……? と、理解が遅れ硬直する。

 それは攻守が入れ替わった瞬間だった。

 少女は、隙だらけな俺の目の前で、何事かを(つむ)ぎ始める――


「神聖なる力よ、我がもとに、集い給え。そして、私の聖布(パンツ)をいやらしい目つきでねぶるようにして見て、私を辱しめ汚した、愚かなる彼の者に――」


 詠唱する少女の周りに、何らかのパワーが集う、そんな感覚がした。

 うぉ……、――え? ナニソノ詠唱?

 前半で上がったテンションが後半でだだ下がりした。

 始めてみるファンタジー要素は、クソみたいな詠唱だった……。と、がっかりしてばかりもいられない。詠唱中の少女の周囲がたちまち白金に輝き出したからだ。

 少女の持つ錫杖の元に煌めくプラズマが集っていく。


「えっ? プラズマが集まって……」


 あれはヤバイ! と俺の防衛本能が警鐘を鳴らしている。


「よし! 充電(チャージ)完了!!」


「何もよくねえですよ!?」

 

 思わずツッコんでしまった。

 にしてもヤバそうだ……。今すぐ逃げろと訴えかけてくる本能。

 だけど、唐突な非現実に理解が追い付かず無理解のままに少女に問い掛けた。


「えっ、何、それで何するの貴女?」


 酒のせいで思考力が低下しているのもあり、かなり混乱している。


「こうします! 奴に神罰を――【神罰下し・雷】!!」


 かわいくポーズを決め、(きら)めくプラズマを(まと)う錫杖を振りかざす少女。

 奴呼ばわり!?

 いや、今はそれどころじゃない!


「一体、何を!?」


 あれを俺に当てるのだ――という答えが既に掲示されていることに対しては、流石に理解が追い付いたが、非現実に対しての理解を拒み、無駄な足掻きっぽくそんなことを口にする俺。


「しがない君へ送るプラズマ砲――今なら『昇天』がもれなく付いてくる!」


 コマーシャルめいた文句をきゃぴきゃぴと言う少女。

 バチバチバチとスパークしている見るからにヤバそうなプラズマ砲には、特典で『昇天』がついてくるらしい。……なんということだ。

 というか。めちゃくちゃ(たの)しそうだな、おい!!


「要らないですよ! マジで! そんな特典!」


「辞世の句は詠みましたか? この世とはしばらくお別れですよ?」


 遠回しに、お前を殺す! という宣告を告げてるという風にしか、受け取れなかった。

 あどけない顔をして、なんてえげつないことを!


「まだ辞世の句詠んでないので、それ引っ込めて、お願いだからぁぁぁあああ!」


 俺は全力でその場に土下座し懇願(こんがん)する。まだ死にたくない! まだこんな若いのに死ねるかよ!


「ちょっと痛いかもしれません。ごめんね」


 さっきは、『昇天』とか言っていたのに、今度は、『ちょっと痛い』とか、矛盾したことをほざく少女。

 俺の言葉なんぞ、聞いてくれちゃあいねえ!!


「てかそれ、ちょっとじゃ済まねえですよね!! 絶対!!」


「済まなかったら、ツイてなかったってことで」


 少女の錫杖に集ったプラズマは、運で助かる、助からない、が左右されるレベルのエネルギーじゃないと思った。


「ふっざけんなよ!! ふっざけんなよ!!」


「ふざけてません。あなたを楽に昇天させてあげます」


 それがふざけているっていうんだよ!


「物騒なこと言わないでくれませんか、ね!?」


「私これ振る。しがない君は昇天。――OK?」


 少女の悪魔の問い掛け。


「NO! 断じてNO!」


 俺は首と手を思いっきり振り、全身全霊で否定する。


「長くお話してしまいました。……そろそろ昇天のお時間です。――お覚悟!!」


「振るなよ!!――絶対に振るなよ!!」


 フリじゃねえからな!!


「それでは――――いきます!!」


 少女が錫杖を思いっきり振り下ろそうとする。


「おいやめろ! バッカ!!――それヤバい、マジで絶対ヤバいって!!」


「これが女神の雷撃だーー!!」


「貴女、女神様なの!? いい加減にしろください!!」


 決め台詞を()えながら少女――が錫杖を振り下ろした、振り下ろしやがった。


「うぉっ! 眩し!」


 あまりの眩しさに、俺は一瞬顔を覆う。両手のひらを正面に向け、顔の前で手をクロス。

 原因は、女神様の錫杖からドピュ~ン! と放出された眩いばかりに輝く光芒。

 ――ギュイーーーーーーン!!

 ヤッベェ音を立ててレーザーの用に直進してくる。――俺に向かってぇえ!!

 やけにゆっくりなのは、俺をいたぶるためだろう。


「えげつねぇぇ、しがない大学生である俺に何の恨みが!!」


 俺は女神様に向かって怨嗟(えんさ)を込めて込めて込めまくって咆哮(ほうこう)した。


「パンツ。痴漢有罪。慈悲はないです」


 女神様が冷酷(れいこく)に答える。


「自業自得な気がしてきたよ!! チクショウ!!」


 超速で迫るプラズマがスロウに見えた。


「うぉぉぉおおおおーーー!! やべぇぇええええーーー!! にげろおおおぉぉーーー!!」


 絶体絶命のピンチになって――俺覚醒!

 俺は身を(ひるがえ)し、


「うわぁあぁああ!!」


 ――ドドドドドドドドドド!!

 泣き叫びながら(みじ)めに駆ける。それはもう脱兎の如く。フォームはめちゃくちゃで転びそうにもなる。

 だがその走りは――俺の生涯で最高速!!

 この時の走りを「フォフォフォ、あれは世界をとれる速さじゃった」と俺は後に語る!!

 プラズマを放つ女神様を目視してから走るまで――この間、(れい)コンマ数秒!! 


「こんなの逃げ切れねえよ!! あほんだらぁぁああ!!」


 ――ドゴーーーーーーン!!

 着雷。次いで轟音(ごうおん)閃光(せんこう)と周囲への衝撃波。足元のコンクリが消滅して俺を中心にクレーターが出来上がる。

 視界は一瞬橙に染まり――真っ白に移り変わる。

 女神様の放った【神罰下し・雷】、俺に直撃!

 身体に――ビリビリビリビリィィィ!! バチバチバチバチィィィ!!――と電流が流れた。


「ぐぉぉぉおおおお!!」


 やっべぇよ!! これは!!

 俺の骨がシースルーしてんじゃね!!

 まったく! イカれてやがるぜ! この威力!!

 全力だったら俺一瞬で蒸発してるんじゃねえの!?


「ギゲェェェェェェェ――ギグー!!

(いてぇェェェェェェ――死ぬー!!)」


 俺はもんどりうって倒れる。


 ヘッドシェイク!! ブレイクダンス!!


「アガガァァアアアア、アガガァ、アガガァァァ!!

(にくがぁぁああああ、にくがぁ、焼けるぅぅぅ!!)」


 俺、バーニング!! 焼けるような痛みが走る。――というか、実際こんがり焼けてます。

 ――バタバタバタバタバタ!!

 あまりの痛みに手足で、陸地に揚げられた魚のように、地面を打ち付けもがく!!


「ガガガ! ガガガ! ギギギ! ギギギ!

(救急車! 救急車! ヘルプ! ヘルプ!)」


 言葉にならない悲鳴をあげ――白目を()きビクンビクンと痙攣(けいれん)する俺。

 あっ、駄目だこりゃ、……終わったな、首がガックン、目の前が暗転する。――ご先祖様と三途の川が見えたような気がする。

 意識が……薄れて……いく……。

 ――俺は女神様の(いかづち)に撃たれて死ぬのか……。なんだよ、なんなんだよ…………罰って……パンツを見た罰でか……ょ……。女神様は性犯罪者は死ねとの意向なのか……。

 それがしがない大学生である〝俺〟の最後の思考だった。

 幸せあれば不幸あり。世の中、そうやって釣り合い(バランス)取らなきゃね。

 だがしかーし、幸運なこと? に俺の人生は、これにて閉幕とはならなかったと後にわかる。つまり、最後の思考ではなかったのである。前文言撤回でおねしゃす。

 こうして――まだまだ続くよ、俺の人生。



 女神が見ている、水晶玉に写る映像はそこで途切れた。

 まあ、賢一君の意識がシャットダウンしたし当然か。

 この後のことは賢一君は知り得ないだろうけれど、あんなことがあったんだよね。

 女神は思い返す。

 ……

 ……。

 ――ひゅー、すとん。

 完全に意識を失った〝彼〟のもとに何者かが降り立った。


「両足できちんと着地ーっと、そして着地の瞬間への衝撃を緩和(かんわ)ー。この塩梅が難しいんだよね。なかなか」


 ――そう呟きながら、完全に黒焦げになった〝彼〟の所に降り立つのは、女神だった。銀色の錫杖を背中に背負っている。


「あちゃー……まっくろくろすけだ」


 『しがない君』の傍に降り立った私は、黒焦げになったしがない君を見てかなり反省した。猛省(もうせい)ともいう。

 ――あれ、これ死んじゃってないよね……?

 と、一見して思ってしまうくらいに、一刻の猶予も許さない状態だ。おまけに、服がかなり焼失しているし、こんがり焦げたお肉の香りが鼻腔(びくう)へと届く。

 かわいそう……、痛々しすぎる……。

 苦しかったんだなと思うと涙が出てくる。

 パンツ見られたのもあって、ついやりすぎちゃいました……。


「恥ずかしかったんだからね」


 私は、安らかじゃない顔をしている『しがない君』に、そう言った。

 治療してあげなきゃ。

 私は膝をついた。心臓マッサージをするためである。魔法で。


「【蘇生】」


 服の残骸を払いのけ、心臓の位置に手を添え魔力を送ると、『しがない君』の身体がビックンする。息を吹き返したのだ。

 もう少しかな、と私は続ける。

 目覚めた時、痛みに苦しまないように。


「――【鎮静化】、【治癒】」


 癒しの光に包まれる『しがない君』。

 お肉がじゅうじゅうした所に【治癒】の効果のあるエネルギーを送り込む。患部に直接触れた方が速効性があるので、まずは服を脱がします。全部脱がします。エッチな気分になります。

 裸体が露になるにつれ、興奮するけれど、痴女じゃないし!

 モザイクなしのアレ♂が飛び出した。


「はわっ!」


 見ちゃってから、私は目を覆う。指と指の間に隙間を開けて。

 はわぁ……。

 少し驚いたけれど、これは医療行為。

 私は『しがない君』を治さなきゃいけないんだ。

 お身体にお触りしますよ……。と、私は、『しがない君』の身体をさわさわする。

 鍛えているのかな? スポーツやっているのかな? 肉付き良くてかったい。

 フムフム、なかなかいい身体してますね……。

 そこまでして、大分治ってきた。

 当初の予定の状態はこれくらいかな。

 次は周囲への被害の確認だ。

 辺りを見回すと、コンクリートが(えぐ)れたり、周辺の家の外壁等がちょびっと被害を受けているのがわかる。

 【人避け】の魔法のおかげで人的被害はなかったよ。よかった。

 それと【防音結界】魔法で音漏れはしてないはず。

 あと、【物理結界】という魔法も使ったんだけどね……、なにぶん【神罰下し】の威力が強いもので……完全に被害を抑えるには至らなかったのかな、と容易に推測できる。

 こんな時には、あれを使おう。(いささ)かチートだけどね。


「【時間操作・逆行】」


 私の手の上に現れた、懐中時計の針が巻き戻る。

 ――カチカチカチカチ。

 逆回りする時計の音。特定のものの時を戻すというのは、なかなかに痛快。やりすぎはご法度だけどね、他の女神たちに目を付けられちゃうし。――まあ、もう既に、目をつけられてるんだけど……。

 やがて、役目を終えた懐中時計は、霞のように消えていった。

 私は被害を受けたところの時間を巻き戻したの。

 後で訴えられたら(たま)らないしね。まあ、私は女神なので、防犯カメラには写りませんが。道徳心は持ち合わせているので、他所様に迷惑はお掛けしません。

 あっ、もちろん『しがない君』は写っちゃってるから、近隣の防犯カメラの映像には細工を加えて、先程からの場面は遮断して、映像をすり替えておいてあるよ。

 ついでに、『しがない君』の服の損害度もちょっとばかり戻した。でも、雷に打たれたという設定だから、多少は損害してもらう。

 よし、証拠隠滅完了っと。我ながら素晴らしい手際だった。感服!

 さてと、救急車でも呼んどくかなー。

 私は、スマートフォンを取り出し、ピコピコして119する。


「目の前に雷に打たれた人がいて!! とても酷い状態なんです……。……はい。……えっと……場所はですね――」


 演技力を余すことなく活用する私。声も甘ったるい感じのOL風に変えている、我ながら、迫真の第一発見者ムーブがすごい。近くの通りがかりの人は――っと、うん。シラフの終電帰りか何かの眼鏡を掛けた彼はクール系の出来る男といった出で立ちだったけど……(腕組み考え中)……、まあいいや! この人には、今夜ばかりは女になってもらおう。女性がいなかったからしょうがないね! 上手いこと辻褄は合わせるから勘弁してね! というわけで記憶操作。私の代わりにさっきの声の第一発見者に仕立てて……っと、よし、これで事後処理はパーペキ。

 後は、しがない君の霊魂を幽体離脱させて、神界送りっと。もちろん、死亡と判断されないようにうまく誤魔化さないとね。

 それには……と、――そうだ。代わりに疑似霊魂でも入れておけばいいかな。

 ふふん。これでオールオーケー!

 仕事を終えた私は、自分の素晴らしい仕事っぷりに、誇らしげになる。

 そして次なる事柄にとりかかろうとしていた。それはもちろん、しがない君に関連することである。

 ……さてと、あの世でお話しようね。しがない君。

 私はしがない君の魂に向けて、微笑んだ。

 女神は〝彼〟の肉体を置き去りに、〝彼〟の霊魂とともに神界へと昇っていく。

 ――彼の肉体は救急車で運ばれ、適切に処置され、やがてベッドに寝かされ続けることになるのはまた別の話である。

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