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プロローグ2 美少女に出会った

 そのまま語り明かして――はちゃめちゃな宴を繰り広げて――いたら、店主の爺さんが俺たちの席にきて「もうお会計の時間はとうにすぎている」と言った。

 店主の爺さんの低い声を聞き、沸々と怒りのケージが溜まっていってるのが手に取るようにわかった。

 店主の爺さんはこの地域に名を轟かせる雷親父なのだ。

 余談であるが、以前この店はテレビ中継されたらしく、そこでは優しいおやっさんと紹介されている。それは事実なのだが、迷惑な客――主に俺たち――には厳しいのだ。

 場の空気が一気に重たくなる。おかっぱ男は不穏な空気を察したのか躍りをやめた。サングラスの男も押し黙る。

 俺は二人に、刺激するなよ、と目で合図をする。

 サングラスの男はわかったと頷きで返してくれた――がしかし、察しの悪いおかっぱ男がやらかしやがった。


「店主さん! 延長お願いします!!」


 店主さんの顔が百面相し、やがて般若(はんにゃ)のような顔になった。

 俺はサングラスの男と顔を見合わせる。だらだらと滝のような冷や汗がつたい、寿命が縮まるような思いだった。

 そして――予定調和が起こる。雷が落ちたのだ。もちろん店主が落とした。

 おかっぱ男が店主の怒りを触発したおかげで、


「いい加減にしろ! 店閉めるから出て行け!!」


 と、がなられ俺たちは追い出された。夜の町に放り出すような感じだった。馴染みの店とはいえ、扱いが雑ではないか? とは思ったものの閉店時間後も、数時間居座って迷惑をかけていたのは事実である。俺たちに文句を言える筋合いはなかった。

 それにしても……もうそんな時間かよ。

 外に出た俺たちは、夜の寒さに身震いする。

 やがて、俺たちは別れた。

 梯子(はしご)酒をする気は、今回はなく、真っ直ぐ帰ることにした。――俺は(と付け足す)。

 友人たちがどうするかは知らないし。

 さっきの別れのやり取りから察するに、ちゃんと帰ったっぽいがな。

 そうそう。酔っているから記憶が混濁(こんだく)しているが……、それはたしかこんなやり取りだった。

 ふわふわふわんと別れのやり取りが浮かぶ。


「じゃーな、賢一」


 背を向けて歩く男。片手をあげてかっこよく去っていく。

 俺は、その背に向け、声を掛けた。


「ああ、じゃな、コマツ」


 コマツとはコマツだ。特に特徴はない。モブみたいなものである。――というのは冗談で、逆立ってツンツンした髪が特徴である。サングラスをかけていて、首にはネックレスをさげている。

 コマツはいい笑顔を浮かべ、


「また明日なー」


 そう言い、帰っていった。おい、俺にもたれかかっているこいつにも帰りの挨拶言ってやれよ。――と思う。


 そう、俺の肩にはおかっぱ男がもたれかかっている。三人で飲んでいたんだしな。

 ……まあ、こいつは酔いつぶれてるしな、スルーしていっか。

 俺もこいつおいて帰ろうかな、面倒くさいし。――などと酷いことを考え始めると、当人が口を開いた。


「俺はもう一件飲むじぇーー!!」


 おいおいそれ以上飲んだらやっべぇぞっ! 俺は忠告した。


「べろんべろんじゃねえか、やめとけよ、ノリオ」


 ノリオとは――今は、人様に迷惑をかけそうなレベルの酔っ払いである。前髪ぱっつんしたおかっぱ頭で、メガネをかけた小太りの、見るからに冴えない感じの男だ。普段は隅でびくびくしているような影の者だが、酒が入るとたちまち態度が豹変(しゃくへん)、大きくなる。

 俺の肩にかかる重圧が軽くなる。ノリオが俺の肩から離れたのだ。

 べろんべろんに酔っ払っているノリオはなんとかといった様子で、呂律(ろれつ)を回した。


「わーった! 帰る!!」


 俺の忠告を聞き入れてくれたらしい。

 いやに素直だな、おい! 心の中でツッコミを入れ、俺は手を振った。


「じゃあーな!」


 ……

 ……。

 そんな感じで別れたんだっけな。たしか。




「なんじゃこりゃ……わけわかんない……」


 女神は頭を抱えた。

 水晶玉に写っている『しがない君』改め、志賀(しが)賢一(けんいち)(20)君の今日の記憶夜の部が支離滅裂(しりめつれつ)だったのである。

 ――特に、お酒が入ってからが酷い!

 めちゃくちゃだよ! 酔っている時の回想とはいえ、時系列もうねってるし、しっかりしてってなるよ!

 でも、友情っていいな……。羨ましいなぁ……。

 『友人』という存在に羨望(せんぼう)を抱き、渇望(かつぼう)する。

 ずるいぞ、賢一君! 私も、友達欲しいよぉ!!

 水晶玉を両手で挟み、ぐわんぐわんと全身を前後運動。もどかしい思いを発散するかのように。

 女神は孤独だった。友情に()えていた。

 女神の心の乱れに、乱されることなく水晶玉に映し出されている映像は、まだまだ続く――




 暗い夜道を一人で歩くって、俺がもし女性に生まれてたら、なかなか怖いことかもしれないなぁなどと、俺は考えていた。

 まあ、俺は男だし、男に生まれてしまったし、永久に女性の気分ってものを味わうことはないのだろう。

 ――この時の俺はそう思っていた。まさか後に、女性の気分を味わうことになるとは、一ミリも浮かばなかったのである。

 当然だ。そんなファンタジックな事象は起こるはずがないのだから……。

 なんだか調子……というか、思考が変だ。お酒飲んだからかな? 変なことを考えてしまった。

 早く帰って、寝よ……。

 いそいそと、俺は帰路につく。

 友人たちと別れ、一人、帰り道。

 徒歩で三十分ほどの道のりをなかば過ぎた頃だった。


「はぁ……」


 ため息をつく。酒が入った俺は、マイナス思考に(おちい)っていた。真っ暗な町並みが、俺自身の未来を暗示しているかのように思えてしまったのだ。ポツンポツンと点いている電灯は、さながら親父の威光のようである。

 親父は、俺にとっては、どこまでもまばゆい存在なのだ。

 ――ブブッー!

 後ろで、どでかいクラクションが鳴った。


「うぉ!」


 ビックリした。電灯を見ながら胡乱(うろん)げだった意識が一転して、そちらに集中した。避けなきゃ。と思い、すっ飛ぶように隅に寄る。

 ちょうどこの道路は、歩道と車道が曖昧な所だ。たちの悪い酔っぱらいである俺は、ふらつきながらど真ん中を歩いてしまっていたらしい。

 すると俺の真横を、ドゥンクドゥンクと大きな音でBGMを流す車が通りすぎて行った。

 非常識なことに窓を全開にしていやがるらしい。迷惑すぎる。俺は自らのふらふら歩行を棚にあげた。

 うるせえな! 静かに走れよ! と怒りの感情が込み上がった。真夜中なんだから周辺住民への迷惑をだな……。と、周辺住民――回りの家々を見る。

 夜更かしなのかなんなのか知らないが、明かりが点いている家もあった。

 まだ起きている奴もいるのか……。

 早く寝ろよ。寝る子は育つぞ。

 ……

 ……。

 そんな情景を肌身に感じながら、鬱蒼(うっそう)とした気分な俺は、吐き捨てるように思いの丈を口にする。


「ああ、俺はどうせ(くず)ですよ。親父の後を継ぐ資格なんてないんだ」


 自分が、しがない人間に思えすぎて泣きたくなった。

 いっそ楽になりたい。俺を束縛(そくばく)する身分なんて要らない――


()()()()俺!!――〝自由〟に生きたい!!」


 ()(つぶ)れながらも、そう強く願い、ありったけの気力で叫んだ。――この叫びが俺の人生を大きく変えるとは知らずに……。

 俺はとにかく『自由』という漠然(ばくぜん)としたなにかを追い求めていた。それがなにかも分からずに。


『――哀れですね』


 突然、天からそんな声が降ってきた。声量は小さい、なのに不思議と聞き取ることができる。心に呼び掛けるような、テレパシーかのような声。

 お告げのような感じで浸透していったそれは、俺を心底哀れむような、女――それも若い、少女の(ソプラノ)だった。

 相手の姿は見えないが、俺を哀れんでいる少女の様が見て取れるほどに感情がこもっていた。

 俺は心から哀れまれているらしい。

 高いところからの声、哀れむような態度、それらがなんだか上から目線に思えて、しゃくに触った。イヤミか? いけすかない奴には容赦しないぞ、とドスのきいた声を出すことにする。


「なんだとこら」


 哀れまれて、ムカついています。と、不快感をあらわにする六文字を放ったのだ。


『そんな()()()()()に私がヒントを与えましょう――私がしがない君を導いてあげます』


 俺のいちゃもんは見事、スルーされた。しかも、変なあだ名がつけられている。俺は志賀(しが)賢一(けんいち)だというのに……。

 抗議しようかと思ったが、その気はすぐに失せた。

 だってあり得ないもん。天からの啓示? だなんて。しかも少女からの。


「……」

 

 うん。なんか声がしたけど、気のせいだよね? ね? ね? 心の中で誰がしに問いかけたが、それに答えるものはいなかった……。

 俺は天からいやにはっきりくっきり届く少女の声を、酔っているせいで聞こえた幻聴(げんちょう)だろうと判断した。

 そして、しがない君って何だよ、と高らかに哄笑(こうしょう)する。


「アハハハ! なんだよ、この声は。まるで俺が『女に()えている』とでも言っているみたいじゃないか……。あー飲み過ぎた……チクショウ」


 お前は俺の何を知っているんだ、知った風な口を利きやがって! と、その声と喧嘩(けんか)することも思い付いたが、幻聴相手に憤慨(ふんがい)するのは、阿呆らしいからやめた。

 それに加えて、少女相手にマウント取る趣味はないしね。

 こんなところで道草食ってないで、早く帰ろう。と、千鳥足でゆらりくらりと再び歩みを進めると、


『少々荒っぽいですが、あなたをこちらへと引っ張ります』


 またどっかから声がした。通りのどこにも人がいない、なら家の中か?……にしては、あり得ないくらい鮮明に届いてくる。

 考えるのが面倒くさくなり、帰ろうとした。

 すると、空がたちまち暗くなる。うわっ、もしかして、雨でも降るのか? だとしたら最悪だ。さっきまでは雲一つないけれど、お月様一つある、そんな空だったのに。急に暗転するなんてな。

 俺は歩みを早く帰ろうとする。


「しがない君の、呼び掛けに答えて、来ちゃった♪」


 しかし、天からどす黒い雲に乗って錫杖を持った、見た目的に中学生くらいの銀髪ツインテールの少女が現れ、その少女に俺が注視して立ち止まってしまったことにより、それは阻止された。


「だ……、誰だね!! 君は!?」


 驚愕した俺は、もう少しで中身が見えそうで見えない、ひらひらとはためくスカートを見ながら問い掛けた。


「私は女神! 貴方の願い叶えるよ♪」


 俺の問い掛けに、少女は罰当たりにも女神を騙り、茶目っ気たっぷりに可愛くキメポーズを決めた。

 そんな名乗りの間にも俺はちょっとずつ位置を調整していた。

 悟られないように少女の元へと向かう。

 ちょっと遠いから、少女とより近くで話すためだ。他意はない。決してない。ないったらない。

 このあたりが話しやすいかな……。立ち止まる。

 顔を上げた。

 そして俺は――()()見てしまった。

 今は雲に隠れて見えないお月様よりも美しいものを見ちゃったんだ。


「おお……」

 

 ()()()()でその少女のパンツをモロに見てしまったのだ。純白おパンツが丸見え。

 ちなみにちょっとそういうお年頃なのかエッチな紐パンで、しかもフロントとからと来た。

 ――ぐへへ……、よっしゃ、ベストポジションだぜ☆

 かわいいリボンがついているところまで見えちゃってて、もうちょっとで、おへそが見えそうだ。


「パンツ、見えてるよ? それとも、もしかして、見せてるの?」


 俺は、極めて紳士的に指摘する。優しく教えてあげたのだ。

 恥ずかしがる反応という最高のオプション付きで見たくなったからではないぞ! 違うからな! 


「はわっ!? ――うわっ、マジだ! あわわっ。……い、いや、違うよ。み、見せてないよ! これは決して、見せてるというわけじゃないんだよ!! 信じて!!」


「でも、隠さないじゃん。痴女なのかな?」


 たじろぐ少女に俺は、悪戯心が芽生え、追い討ちをかけてしまう。


「違う! 痴女じゃない!」


 少女は顔を赤くして全力で否定する。

 もっと攻めるか。


「でも見えてる」


 俺の二連撃に少女の赤みがかった顔がさらに赤くなって、俯いちゃった。泣かせるつもりはなかったんだけど、いじめすぎたかな?

 すると、少女はぼそぼそと、


「……錫杖から手が離せなくて隠せない……」


 と、顔を真っ赤にしながら呟いた。


「阿呆なの?」


「違う……もん、阿呆じゃないもん」


 なんか極端にしょげてる。トラウマでも抉っちゃったのかな?


「でも凄く滑稽だよ? 錫杖から手を離して置くか、背中に背負えばいいのに」


 つい、尤もなことを言う俺。あっ、ヒント教えちゃった、やば、パンツ隠される。


「今は離すわけにはいかないの!」


 ってことは、まだ隠さないの? よっしゃ。

 一応、そう断言する理由も聞いておきたい。


「なんでさ?」


 パンツが見えているのに、離すわけにはいかないの! と、こうもきっぱり言える理由が知りたかった。きっとそれは、パンツを隠すよりも重要なんだろうし。


「これから必要になるからだよ!!」


 これから必要になる? それって、どういう意味だろ……。

 そこで――あれ? そういえば、少女のお顔がおかしいぞ?――と気づく。


「にしても、顔が赤く火照ってるね。興奮してるのかな?」


 事実をありのまま指摘する。


「し、してない……」


 一瞬どもった。まあ、図星だからね。


「うっそだぁ……息も荒いじゃん?」


 追加するように、事実その2をありのまま指摘する。


「そういうこと言うのやめて……」


 少女は、もじもじと両太腿を擦り合わせた。


「なんかエロいね、キミ……」


 そんな少女を見て、いやらしい気分になってしまった俺は、うっかりそんなことを口走ってしまった。

 そしたら、少女がキレた。


「この性欲限界突破豚野郎!! 恥を知れ!!」


 さっきまでの態度からして、少女のその口から発されたとは思えない、口汚い言葉で罵ってきたのだ。


「ご褒美じゃん」


 俺はまだ酔っていた。

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