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「桜の博物館?」

作者: MUMU

八木裕民やぎゆうみんの冒険シリーズ第三段

おーぷん2chに立てた彡(゜)(゜)「この桜……ニセモノや!」というSSスレの没バージョンです

パラレルワールドですので八木の設定は作品によってコロコロ変わります



登場人物

八木 裕民 (やぎ ゆうみん)・・・大学生、桜が好き

原 (はら)  ・・・大学生、八木の友人


八木「桜の博物館?」





八木「今日は花見に行くで!」


原「楽しみだねえ」


八木「ワイお手製のギョウザ弁当とビールもあるで! 朝から飲めるなんて最高や!」


八木「ん? こんなとこに新しい建物が……」


原「ほんとだ、いつの間に」


八木「札が下がってるで」


八木「桜の博物館……?」




八木「なんのこっちゃ?」


原「桜の絵とかを集めた博物館かな?」


館長「いらっしゃいませ、わたくし、ここの館長ですわ」


八木「えらいトシいった人が出てきたで、髪が真っ白や」


館長「今日オープンしたばかりです、見てかれますか」


八木「声めっちゃ渋いなあ、執事みたいな格好やし」


原「片眼鏡モノクルだ……初めて見た」




館長「オープン記念ですわ、無料でご案内してますで」


八木「タダやったら見てくわ」


原「じゃあ僕も」


館長「こちらが入り口でございます」


八木「(小声)ははーん、わかったで」


原「なに?」


八木「あの館長の名前が「桜」なんや」


原「かわいい」




館長「こちらです」


八木「でもこの場所、確か空き地やったはずやで、しかもすごく狭い」


原「そうだねえ? 教室ぐらいの広さだったはず」


八木「お、なんやホール状の空間に」


八木「おおー、中央に立派な桜があるで」


原「ソメイヨシノだ、満開だねえ」




八木「真っ暗かと思ったけど、周りの壁が黒いだけか、照明はあるわ」


原「そうだね、ホールケーキみたいな空間で、桜が中央に……なかなかインパクトがあるね」


八木「ほんで、絵とか彫刻はどこや?」


館長「いえ、当館の展示物はこれだけですわ」


八木「えっ」




八木「これだけって、桜があるだけかいな」


館長「綺麗でしょう?」


八木「いやまあ綺麗やけど、ワイらこれから花見に行くとこやのに……」


館長「私は桜が好きでしてなあ」


館長「世の中の人に桜の美しさを知らしめたいと、そう思ったんですわ」


八木「ええ……でも一本だけあっても」


館長「一本に見えますか?」


八木「はい?」




館長「桜の木には一本あたり何万という花がついてます」


原「聞いたことあります」


原「ある番組で調査したところ、一本の桜の木から59万枚の花びらが落ちたとか」


館長「そういうことです、今は蕾と花が混ざってますが、ある一瞬だけでも何万という花があるんです」


八木「ほーん」


八木「……それがどないしたんや?」


館長「では、この目薬を使ってくれますか」


八木「青い目薬やな、まあええけど」ポタポタ




八木「くー、目に染みるで」


八木「っと、おや、なんか目がスッキリと……」


原「だ、大丈夫?」


八木「おお……見える、花びらが見える」


八木「一枚一枚がクッキリ見える! すごい! めっちゃキレイや!!」


八木「視界いっぱいに桜が見える! 何万本の桜に囲まれてるようや!!」




館長「その目薬はですな、視力を何十倍にも向上させるんですわ」


原「で、でも、視力というのは水晶体の精度のことで、視細胞の数は一定のはず」


原「おおよそだけど、デジカメで言うと600万画素ぐらい……」


館長「この目薬で20兆画素ぐらいになるんですわ」


八木「めっちゃキレイやで! おまえも使ってみ!」


原「ぼ、僕はいいよ」


八木「すごいわ! 見たことない眺めや!!」




館長「気に入ってくれましたか」


館長「では、次はこの目薬をどうぞ」


原「まだあるの?」


八木「今度は黄色い目薬やな」


八木「どれどれ」ポタポタ


八木「おや、なんか花の色合いが……」


八木「なんや!? 花が七色に見えるで!」


八木「表は紫で、裏は薄いオレンジや、緑や青もある!」




八木「桜の花ってこんなカラフルやったんか!?」


原「も、もしかして、可視光線以外の光が見えてる?」


八木「なんのこっちゃ」


原「ええとね、光には、人間が見える範囲以外にもたくさんの波長が含まれていて……」


原「昆虫は紫外線が見えるので、人間よりもカラフルな世界を見てると言われてるよ」


八木「ほーん、桜がこんなに極彩色やったとは……」




館長「綺麗でしょう、チョウやハチが、花の色に誘われる気持ちがわかりますやろ」


八木「めっちゃ分かるわ! これはフラフラと寄っていってしまうで」


館長「その目薬が、視細胞の種類を増やしてるんですな」


館長「今は赤外線から電波に近い範囲まで見えますで」


八木「あ、ワイのスマホが光って見える、電磁波が見えてんのか」


八木「桜を見るのに邪魔やな、電源切ったろ」ポチッ




原「も、もう出ようよ、花見に行かないと」


八木「先に行って場所取りしててくれや、すぐ行くから」


原「ち、ちゃんと来てよ(立ち去る)」


八木「ごめんやで、連れが先に帰ってもうて」


館長「いえいえ、一人おってくれたら十分ですわ」


八木「? さよか」




八木「ほんまに綺麗や、カラフルなだけやなくて、一枚づつの色の違いまで分かる」


館長「人間は2000万種ぐらいの色を見分けられると言われてますが、そこまで鋭敏な人はめったにおりません」


館長「目薬の効果で、いまは20兆種類ぐらい見分けられますわ」


館長「では、次はこれをどうぞ」


八木「なんや、紫色の目薬……なんか毒々しい色やな」


館長「やめときますか?」




八木「やめるわけないやろ! 使うで」ポタポタ


八木「うーん、ジワジワと浸透していく感じが」


八木「あれ? 館長のおっさんおれへん?」


八木「というか、ワイの手が見えへん」


八木「壁も天井も見えへん、でも桜だけはクッキリと見える、なんやこれ」


八木「いや違う、見えてないわけやない、見えてるけど全然意識されんのや」


館長「その目薬はですな、没入感を生み出す目薬です」


八木「没入感?」




館長「そう、桜だけに集中し、他のもんが一切視界に入らんようになるんですな」


館長「私の声も遠くなっとるでしょう? これで桜にどんどん没入していけるんですな」


八木「なるほどなあ……確かに桜に目一杯集中できるわ」


八木「世界に桜とワイしかおらんようや…‥ホンマに素晴らしい」


館長「では、最後です」


館長「この目薬をどうぞ……」




八木「集中せんとよう見えへんな」


八木「なんや、真っ赤な目薬やで……」


館長「どうぞ、お好きなタイミングで使われてください」


八木「セやな、もうしばらく桜を眺めてから……」




??「…………ロ」


八木「ん……?」






??「……ニ、ゲロ、ニゲロ……」



??「アイ、ツハ、アクマ、ダ、ニゲ、ロ……」



??「オレ、ハ、アイ、ツニ……サク、ラニ……」


八木「…………」




八木「……(ごそごそ)」


八木「うーん、赤い目薬なんて初めて使うから、なんや不安やな」


八木「館長のおっちゃん、ちょっと使ってみてくれるか?」


館長「ははは、ええですよ、貸してください」


館長「そない怖がらんでも……」ポタポタ


館長「ん……」


館長「っっぎゃああああああああ!! 目があああああああ」


八木「すまんな、それはギョウザ弁当に入ってたラー油や」


八木「悪魔がワイを騙そうとしてもあかんで。ほなな」


館長「あ、悪魔……? なんの、こと……うぐぐぐぐ」




八木「お待たせやで、えらい目に合ったわ」


原「やあ、逃げ出せてよかった」


八木「聞いてくれ、あの館長は悪魔やったんや」


八木「危ないところやったで、桜が教えてくれたんや」


八木「あの桜は、館長に桜に変えられた犠牲者やったんやな」


原「ああ、アレね、僕だよ」


八木「…………」


八木「は?」




原「八木君、スマホの電源切ってたでしょ、今はどうなってる?」


八木「え? (ごそごそ)あれ、電源入ってる」


原「僕が帰るとき、八木君のスマホをこっそり抜き出して」


原「僕のスマホと通話状態にして戻しておいたんだ、桜に夢中だったから気づかなかったと思うけど」




八木「ど、どういうこっちゃ」


原「モスキート音って知ってる? すごく高い波長の音で、若者にしか聞こえない音だよ」


原「博物館を出ると、僕は通話状態を維持したままアプリを落として、メッセージをモスキート音に変えて流したんだよ」


原「音声はポケットから聞こえてたけど、あの密室の空間では桜から聞こえると勘違いしたかもね」




八木「……ほ、ほな、あの館長は」


原「悪魔かどうかは分からない」


原「でもやっぱり、あの目薬とかは尋常じゃない……」


原「多少強引でも、逃げるべきだと思ったんだ」


八木「まあ、そうかもなあ……」





―数日後―


八木「このあたりにあったんやけど……」


原「やっぱり消えてるねえ、元の空き地に戻ってる」


八木「結局、あの館長の目的は何やったんやろ」


原「あの目薬の効果は切れたの?」


八木「一日で切れてもうたな、惜しい気もするけど、あの状態になってた頃を考えると、なんか怖いわ」


原「もしかして、本当に人間を進化させようとする宇宙人か何か、だったのかも知れないけど」


原「まだ人間には、そんな心の準備はできてなかった、ってことにしとこうか……」


八木「せやな、そもそも説明せんかったオッサンも悪いし」




八木「おや、何か落ちてるで」


八木「白いカードみたいやけど、何か書いて……」






バーーーカ

   悪魔の館長より





八木「……」


原「……」


八木「やっぱりあのオッサン、悪魔ちゃうな」


原「……うん」





八木「ただのかわいそうな人や……」



(おしまい)

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