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半径2mテレポート  作者: 髙 仁一(こう じんいち)
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第9話 父親

 そう言えばここに来てから、電気を使っているものを見た覚えがない。

 僕はベッド脇の小机のランプを見る。


「…えと、電気がないのはここがとんでもない田舎だから…とか?」

「知らない。」


 きっとそうに違いない。後でアランに聞こう。

 もし電気が無かったら?

 今考えても仕方ない。

 切り替えてこ。

 切り替えてこ…


 と思いつつも不安しかなく、帰れるとぬか喜びしてからテンションは下がる一方だ。


 うん。切り替えてこ…

 チトセに聞きたいことはまだまだ沢山あるのだから。


「君は何で僕を守らなきゃいけないの?」

「それが命令だから。」

「誰に命令された?」

「…アキヒロのお父さん。」

「は?」


 父親のことは何も知らない。僕は母に育てられたし、それが普通だった。

 ただ一度だけ、小学生の頃、周りと違うことに気づいた時があって、母に聞いたことがある。


「どうして、うちにはお父さんがいないの?」


 母はそのとき、待ってましたと言わんばかりに父親の愚痴を言い始めた。

 今考えてみれば、普通の親は子供にそんなことを言われたら困ったようになって、たじろぐんじゃないかと思う。

 しかし、それが僕の母の強さなのかもしれない。


 父親は、

 仕事に熱中し、

 毎日夜遅くに帰ってきて、

 家庭を顧みず、

 自分のやりたいことだけやって、

 母親と結婚までしたのに、

 しばらくしたら、飽きたように態度が雑になって、

 最終的には赤ん坊の僕にも興味がなくなったようだったと、

 あんな最低な男はいないと、数時間は喋りっぱなしだった。


 僕は母親の愛に満足していたし、それにまたこんな長話を聞かされるの嫌だったので、二度とこの話をしないことに決めた。

 そして、つらつらと右から左へ垂れ流される長話の中でも、この言葉だけはしっかりと覚えている。

 父親が最後に母に言った言葉だ。


「君はもう、『研究対象』じゃない。」


 それがなんで今更。

 僕は銀髪の少女に問う。


「なんで僕の父親が今更…」

「正確にはお父さんに”頼まれた”。実際に私に命令したのは、国。」

「クニ?」

「『国の研究機関で開発されたテレポート装置と発明者の息子を守れ。』というのが私に与えられた命令。」


  僕の父親は、とんでもないものを作ってくれたようだった。


 チトセによると、テレポート装置を開発する国家プロジェクトに僕の父親が参加しているらしい。そこで作られた試作品が何者かによって盗まれた。

 チトセはテレポート装置が発する微弱な電波を追って、あの路地裏にたどり着いたそうだ。しかし、


「僕はテレポート装置の運び屋をやらされようとしてたんだぞ?そんな偶然、できすぎている。」

「アキヒロが近くにいないと転移ができないのが関係あるかも。」

「なんでそんな面倒なことを!?僕じゃないといけない理由が?」

「何故かは知らない。とにかく、アキヒロにしか使えない。」


 テレポートはまさに夢の技術だ。仕事場に一瞬で行ったり、そもそも出前をテレポートしてしまえば、わざわざバイクに乗る必要もない。

 それを使えるなら使いたいと、自分にしかそれを使えないのはラッキーだと、前の僕ならそう思っただろう。

 しかし、命の危険があるなら話は別だ。

 もう何度も死ぬ思いをした。

 父親に装置を突き返して、装置を僕の繋がりを解き、二度と関わらないように念を押す。


 母と僕の平穏を守るにはそれしかない。


「僕の母は無事なのか?」

「大丈夫。私たちの仲間が保護したのを確認した。」


 一刻も早くこの世界から帰って、母と僕の日常を取り戻すんだ。


「チトセ、アランに話を聞きに行こう。」

「うん。」


 僕はさっそく、『電気』についてアランに聞こうと、部屋から出ようとした。


 扉を開けると、あの金髪の天使がいた。

 ちょうど良かった。


「やぁ、エオ。アランは起きてる?」


 だけど、僕の方を見た瞬間、彼女の髪は逆立ち、何やら不穏なオーラが…

 チトセが着ていたのと同じような、亜麻布の寝間着を着た彼女はしかし、僕と同じ18歳らしいし、成長は8割方完成しているということだ。つまり、もし彼女がチトセの代わりに僕のとなりで寝ていたとしたら、本格的に僕の貧弱な悪魔がアレだったということだ。まぁ、その前に彼女に殺されるだろうけど。


 だってさ。今だってさ…


 ゴミを見るような目で僕を見て、花瓶とか絵とか植木鉢とか、浮かせるのやめてくれないですか?

 それ、当たったら痛そうなんですけど。

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