第8話 (不)可逆転移
テレポート装置。それは半径2mを根こそぎ別の場所に移動させるらしい。
驚いた。
驚いたけど、この2、3日、色んなことがありすぎてこんな突拍子もないことを言われても、慣れ始めている自分がいて、それにも驚いていた。
「じゃあこの、今いるここはどこ?」
「わからない。」
「街の人たちの格好は?鎧や盾を使っている人たちがまだいるのか?」
「わからない。」
「そもそもここは地球か?この月明かりは本物か!?」
「わからない。」
期待した答えが得られない僕は苛立つ。
「あのドラゴンはなんだ!?」
「知らない。」
語気がだんだんと大きくなる。
「魔法を見たんだ!なんだあれは?」
「わからない。」
くそっ。
最後の2つはこの子に聞くのはお門違いだ。
落ち着けって…
そうだ。深呼吸をして…彼女がわかる質問を探せ。
「…もう一回テレポート装置を使えば元の場所に戻ることができるのか?」
「できる。」
よしっ。帰れるなら、ここがどこかなんてのも異常な生き物も魔法も関係ない。
必死こいて生にしがみついた意味もあった。
あの退屈で平穏な日々を取り戻せる。
「じゃあ、帰ろう!アランやみんなにお礼を言ってから。」
そして、チトセはこう応えた。
「じゃあ、充電をしなくちゃ。一回の転移でエネルギーは空になる。」
「え、ああ、そうか。どのくらい?」
「1.21ジゴワット。」
…ジゴワット?なんだそりゃ。まあ良いか。コンセントの穴を探さなきゃ。
…あれ?
「チトセ、電源…何処にある?」
銀髪の少女は淡々と、さっきも聞いたようなことを言った。
「わからない。」