柔らかいしか知らない
春 らんまんのそよ風は
しずかに髪をなでてゆく
おととい死んだアメショーのみゃーが
おかえしにくれた柔らかさ
梅雨 どんよりと灰色は
たれこめながら落ちないで
おととい届いたモンゴルからの恋文が
ほんのり湿る柔らかさ
夏 さんぜんとまぶしくて
潮騒と遊ぶカモメの子
おととい買った水着のひもを
ほどいてしまう柔らかさ
秋 あのイチョウの大木は
ひらくるくると葉を散らす
おととい約束したデート――というか散歩を
じゃまする雨の柔らかさ
冬 ことしは雪が降らない
白くて冷たくて清くてもそれを雪と呼んではいけない
おととい降った世界の光を
こおりつかせる柔らかさ
拳のように厳しくて
獣のようにトゲトゲで
ねじれのようにまどろこしくて
聖職者のようにうそつきで
厳冬 つま先がさまよう
しらない小鳥がせわしく鳴く
おととい編み終わったマフラーの
やり場に困った柔らかさ
それが初めての柔らかさ