最強の剣道家が異世界に令嬢として転生した話
「優勝は期待の新人、工藤 晃!!」
歓声がこれまでにないほど湧き上がった。当たり前だ、わずか19歳にして日本一になるなど、前代未聞。しかも圧勝でだ。
彼の力・速さ・美しさは、どれをとっても素晴らしかった。その試合風景は、見るもの全てを魅了する。
誰もが最年少剣道家の彼は、将来はさらにすごい選手になる。そう確信していた。
もちろん、俺もそう思っていた。決して奢りではない。そう思っても良いほどの実力を持っている。そういう自負があった。
そう思っていたのに…
「エステル・ルミナリス、お前との婚約を解消する!!」
「えっ?」
歓声がこれまでにないほど湧き上がった。当たり前だ、この国の第一王子がルミナリス公爵家の第一令嬢エステルとの婚約破棄を公の場で発表したのだから。
だが、俺を取り巻く不条理な状況など露知らず、それを起こした張本人は満足げな表情を浮かべ、隣の男爵令嬢の娘はほくそ笑んでいる。おそらく今の俺は唖然とし、悲しみに酷く顔を歪めている表情に見えるだろう。実際は、あまりの事態についていけてないだけなのだが。
「お前がフランクトに行った残酷で残忍ないじめの数々の証拠は既に表れている。白状しろ!」
そんなソーセージみたいな名前のやつしらね!と俺は心の中で叫んだ。隣にいた秘書官らしき人は、次々とエステルっていう娘が犯した罪名をつらつら挙げていく。
内容は他愛もないものばかりで、ここまで大袈裟にする必要もないのではないかと思うが、それが酷くツボにはまったらしく、中には涙を流して泣いているものもいた。
罪状が読み上げられるごとに王子は憎らしい笑みを浮かべる。
あたかも俺を刺し殺すかのような周りからの視線に心の中で首をかしげた。それはまるで俺に対して言っているかのようだった。
居心地が悪いなか、俺はゆっくりと辺りを見渡す。
そして、それから再び第一王子へと目線を戻そうとした時だった。フランクトと呼ばれる少女が首に巻いている高価そうなネックレスから光が反射した。
俺はそこに像を見たのだ。
その娘は美しく可愛らしい女の子だった。
そしてそれは…………俺だった。
エステルって呼ばれている娘は俺のことだったらしい。どうやら今は非常に不利な局面に立たされているようだ。
王子の感情が最高点に達した時、彼は言った。
「どうした、泣いてるのか? フランクトはもっと泣いているぞ! さぁ、婚約破棄の申し出を受け入れろ!」
「わかりましたわ」
「あぁそうだろう、受け入られないのはよく分かるが、罪は罪。せいぜい反省し……え?」
キッパリと俺は言った。不思議だが口調が馴染む。
「帰ります」
「ちょっ、待て!」
足早と出ていこうとする俺を引き止める。今度は、第一王子の彼の方が唖然としていた。
「なんですか?」
「悲しくないのか…?」
「まったく」
「ルーク様! この女全く反省しておりません。どうか罰を与えてください!」
隣のフランクフルトが何やら喚き散らしている。正直さっさとこの部屋を退場したいが、どうやら神はまだ逃がしてくれないようだ。俺は無視して足を止めないが。
「衛兵! エステルを捕らえよ!」
衛兵達は、申し訳なさそうな顔で、しかし王子の命令だから逆らうことが出来ず仕方なく俺を捕らえようとしてくる。
目の前に3人の兵が現れ、俺の行く手を遮った。後ろからは、一人の衛兵が近づき、俺の肩を軽く掴んだ。
––––その程度で俺を捉えられると思うなよ?
俺は隙をついてすり抜ける。これはかつて俺が会得した奥義。相手の注意を別のところに逸らさせるマジックでよく使われる技。
王子には、衛兵が道を開けたように見えただろう。
「何をしている! 早く捕らえろ!! 逃したら国家反逆罪にする!」
真っ赤な顔で王子は怒号をあげた。それにより、衛兵達の表情が一斉に引き締まる。
「すみません、エステル様」
小声で声をかけながら、今度はしっかりと俺の腕を掴んできた。彼らには悪いが、少々抵抗させてもらおう。
衛兵の足を引っ掛け、その拍子に剣を抜き取る。
何人かの兵士はギョッとして、一瞬体が固まった。
俺はその隙を逃さず、次々と衛兵達の剣を刀狩りしていく。何人かは、慌てて剣を引き抜いたが、女性に向けて剣を抜くとは一体どういうことか。
俺は飛び込み気味に前斬りを放ち、彼らの剣を弾いた。そして次々と彼らの首に剣で衝撃を与へていき、その意識を刈り取っていった。安心してほしいがもちろん峰打ちである。
この動きについて来られるものなど、この場にいるはずがない。自分で言うのはあれだが、俺は強い。一般の兵でどうにかなるレベルではないのだ。
「早く、こ、この謀反人を捕らえよ!!」
だんだんと焦りが生まれてきた王子の額には汗がじっとりと滲んでいる。
「謀反人はどちらですか?そもそもあの程度のイタズラでここまで事を大きくするなんてなんと幼稚。単にその女に浮気をしただけではないですか。」
「っ!?」
どうやら、これはエステル自身が語りかけているらしい。剣先を第一王子に向けながら、次々と言葉を紡いでいった。
「そもそも私というものがありながら他の女にうつつを抜かすなんて、これこそ謀反人です! 女の敵、全ての女性に対する謀反人だ!」
「言わせておけば意味わからん事ばかりいいやがって! そもそも、お、お前が魅力がないから悪いんだろ!!」
カチン
「た、た、確かに胸はあれかもしれないけど、女性ってそれだけじゃないわ!!」
俺から見ても自分は可愛いと思う。それこそ、超がつくほどに。なのにこの男は魅力がないとかおっしゃるのか。ほうほうなるほどー。全ての童貞諸君よ、この男は敵だ。
俺も少し本気を出そうか。
「おい、知ってるか?隣国がぶっ潰れたってこと。なんか女の子がたった一人で騎士団壊滅させて国家転覆しちゃったんだとよ」
「ふざけんなよ、そんなことできるはずないだろ?」
「それがマジらしい。女の国を作るとかいって男を全員追い出したとか…。今でも女性の入国が相次いで行われてるってよ」」
「マジかよ、行ってみてぇ!」
「やめとけやめとけ、なんせ今その国を引っ張っているのはさっきの女の子って話だ。噂によると、飛竜を一人で討伐したとかも聞いている。」
「とんでもないな、誰の娘だよ、一体」
「…………」
「ん?なんだよ、どうした?」
「俺の娘だ」
「じゃあこんなところにいるってことは…」
「そういうことだな…」
「……………奢ってやるよ」
晃くんは、自分だけのハーレム王国を建国したようです。
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