ひ、ふ、み、よ、…
「ひ、ふ、み、よ、…あれ?」
なゆみちゃん。計算をしています。数を数えているのです。でも、あれ? なゆみちゃん、よで止まっていますよ。どうしたのですか?
「ねえねえちっちゃん。ひ、ふ、み、よ、の次はなんだったっけ?」
どうやら数えかたがわからなかったようですね。これはいけません。
「いつ、だよ。なゆみちゃん」
「ありがとうちっちゃん」
こうしてまた計算に戻るわけですが。なゆみちゃん。まだ動きが止まっています。どうしたのでしょうか?
「ねえねえちっちゃん。ひ、ふ、み、よ、の次はなんだったっけ?」
実はなゆみちゃん。ひ、ふ、み、よ、それ以上をしらないのです。あることはしっていますが数えられない。いくら教えても。いくら悩んでも。数えられないし。わからない。なゆみちゃんにはそういう悩みがあったのです。
「いつ、だよ。なゆみちゃん」
「ありがとうちっちゃん」
こうやって幾ら教えてもなゆみちゃんはまた。
「ねえねえちっちゃん。ひ、ふ、み、よ、の次はなんだったっけ?」
というのです。まったく困ったなゆみちゃんです。
今日で何歳?
「十四歳」
まったく時ってやつは早いもんだ。
「そうね」
ところでさほんとにそれでいいのかい?
「もちろん」
厄介だぜ。面倒だぜ。
「うるさい」
またそうやって。
「あっちいけ」
はいはい。
「あ、ちっちゃんだ。おはよー」
「おはよう なゆみちゃん」
わたしたちは十四歳。幸か不幸かここまで生きられたひとだけに訪れる最初の春を迎えようとしていた。桜は散っている。わたしはそれをただみつめて。
「どうしたの。ちっちゃん」
「いいえ、なんでもないわ」
わたしたちは生きる。生きたい。つよく。桜を背にそう思いながら。並木道を二人歩いて学校へと向かった。