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もしも運命の人に出会えたら  作者: 柳瀬光輝
16/40

遅筆で申し訳ない~~!

「おい、大丈夫か?」

 どう見ても大丈夫じゃ無さそうな、血まみれの貴史に声を掛けられる。

「あんたこそ……とっとと病院行きなよ。血、垂れてるよ、頭」

 ポケットティッシュを数枚取り出し、貴史の傷口に当てる。

 貴史が自分の手でティッシュを押さえたのを確認してから和人に目をやると、1年生と思われる女生徒数名が、濡らしたタオルやハンカチを手に、甲斐甲斐しく和人の手当てをしていた。

「あっちは大丈夫そうだね。てか、モテるね~、変態なのに。……うらやましいでしょ?」

「別に。でも濡れタオルはうらやましいな。ティッシュくっつく」

 ハンカチを濡らして持ってきてあげようかとも思ったが、水道は遠いし、出血量からすると、貴史が直接行って頭から水をかぶったほうが早そうだ。

 服に垂れた血も洗えるし、これから腫れそうな顔を冷やす事もできる。

「トイレ行って洗ったり冷やしたりして来なよ」

 善意からそう言ったのに、貴史は口を尖らせて「やっぱうらやましいかも」と、和人のほうを見ながら琴子の隣に腰を下ろした。

「やっぱうらやましいんだ。……でもさ、前から思ってたんだけど、カズって、メガネ外すと、確かにきれいな顔なんだけど、存在感無くなるよね。もしかしてメガネが本体なんじゃない?」

「いや、だから、モテがうらやましいんじゃなく」

「え? うらやましくない? 私はうらやましいな。あんな風にモテてみたいなぁ。不特定多数のイケメンに傅かれてチヤホヤされてみたいなぁ」

 つい本音が出てしまった。

「俺は不特定多数にモテたいとは思わねえ。カズなんかは特にそうなんじゃねえの? 女はみんなアイツの外見しか見てねえからな。アイツは、外見関係無く、本当の自分を認めてくれる女探したくて、色んな女と付き合ったりしてんじゃねえかと、俺は思ってる。アイツはアイツで、それなりに苦労あんじゃね?」

 やっぱりだ。貴史もモテ期童貞では無い。「不特定多数にモテたいとは思わない」なんて言葉、モテ期処女の琴子には見栄でも思い付かない。

 普段から、俺の右手に宿りしなんちゃらが~、とか言わなければ充分モテ人生を歩める外見をしているのだ、コイツも。

 なんだか自分がひどく浅ましくみじめに思えて、しなくてもいい言い訳をしてしまう。

「私は、外見だけじゃなくちゃんと見てるつもりだよ。ほら、カズは、えっと……銀縁で、掛けてる人を知的に見せてくれるし、フォルムも美しいし、なんたって視力を矯正してくれるじゃない。素晴らしいと思う」

 貴史は言葉に詰まり、目を逸らしてから呟いた。

「いや、カズの本体メガネじゃねえから。メガネの素晴らしさを語っても、アイツを褒める事にはならねえから、多分」

「何言ってるの? あたりまえでしょ」

 貴史は一瞬、不思議生物を見るような顔で琴子を見つめ、それから琴子の頭に手を置く。

「どっこらしょっと」

 じじいのような掛け声をかけて、琴子の頭に体重をかけて立ち上がった。

「じゃあ俺、便所行って来るわ。お前、顔青いけど、送っていかなくて平気か? なんだったら俺が戻るまで待ってろよ」

 怪我人に心配を掛けてしまった事に気付き、慌てて立ち上がってスカートをぽんぽんと払う。

「あんたこそ、顔赤いけど、肩とか貸さなくて大丈夫?」

「俺のは洗えば落ちるから」

「私もただガミラス絶対防衛線突入したせいだから大丈夫」

「?」マークだらけになっている貴史に、病院と警察に行った後で和人と一緒にうちに来てほしいと伝え、ポケットからスマホを取り出す。

 櫻子に電話を掛けてみたが、出なかった。

 次に緑に電話を掛け、櫻子を知らないかと聞くと、保健室に居るという。

 雨ヶ丘高校の保健室にはカウンセラーが常駐している。

 櫻子はずっと泣き叫んでいて、パトカーが到着する前に、緑と愛が保健室に連れて行ったが、今は警察官が話を聞いているという。

 琴子は校舎へと走った。櫻子に話を聞かなければならない。

 こんな状況なのに、妙に冷静だった。


 警察官が帰るのを待ち、櫻子に話を聞く。

 何があったのか。なぜこんな事になったのか。


 環奈の両親は、昔から夫婦仲が悪かったらしい。

 それでも世間体を気にしてか、しばらくの間、表面上はうまくやっていたが、数年前に、母親が駆け落ちしたそうだ。

 プライドが許さなかったのか、それとも仲が悪いように見えても妻を愛していたのか、環奈の父はそれから浴びるように酒を飲むようになり、最近では覚醒剤に手を出していたらしい。

 環奈に相談されていたのに、どうすればいいのかわからなかった。こんな事になるのなら誰か大人に話すべきだった、と、櫻子は泣いた。

 そんな状態の櫻子に、琴子は質問を重ねる。

 佐東の死、長瀬の入院、そして、今回の事件。

 環奈の事は不幸な事件がたまたま重なっただけのように思える。だが、――――爪、だ。何か意味があるはずだ。


「原因を突き止めなければなりません」


 住職の言葉が、頭の中でこだまする。


「ねえ、櫻子。佐東さんの遺書は、見せてもらった?」

 櫻子は首を横に振る。

「三神さん、今そんな話は……」

 カウンセラーの制止を無視する。

 長瀬から話が聞ければ、何かきっかけが掴めるかもしれないが、長瀬の回復を待つ時間があるかもわからない。

 櫻子が落ち着くのを待つ時間があるのかさえも。

 少しでも早く糸口を掴まなければ。

「佐東さんのスマホは見せてもらった?」

 櫻子が今度は小さく頷く。

「例えば、メモとかは見なかった? 何か変な事が書いてあるような……何でもいいんだけど、何か気になる事とか、無かった?」

「あたしが見せてもらったのは、あたしとのLineのやりとりと、メールの送受信のファイルだけにゃ」

 そこまで聞き出したところで、櫻子の母親が迎えに来た。

 結局、何の収穫も無い。

 唇を噛んで、櫻子の後姿を見送る。


 保健室のドアを閉めようとした櫻子が、何か思いついたように琴子と目を合わせる。

「ブログ、やってたみたいにゃ。もきゅもきゅで。ランキングとかお知らせとかのメールがあったにゃ」

「マジ? 登録名わかる? ハンドルネームとか」

 目を伏せて首を横に振る櫻子に、なるべく急いで佐東のメアド、誕生日、電話番号、わかる限りの情報を送ってくれるようにお願いする。

 カウンセラーには怒られ、緑と愛にも冷たい目で見られたが、全て無視。

「すみません、急いでいるので、お説教はまた後日ってことで」


 部室に戻ると、もう既に貴史と和人の鞄は無くなっていた。

 自分の鞄を持ち、鍵をかけて職員室に返した後、学校を出る。

 校門前にはマスコミが押し掛けて来ていて、琴子も声を掛けられたが、俯いたまま足早に通り過ぎた。 


 ポケットの中でスマホが震える。櫻子からのLineだ。

 佐東のメアドや誕生日、電話番号等が書かれていた。

 佐東のブログを見つける事ができれば、そこに何か書いてあるかもしれない。

 一筋の光が見えてきた。

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