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もしも運命の人に出会えたら  作者: 柳瀬光輝
15/40

眠い!w

 明けて月曜日。

 普通に理解できない授業を受けて、放課後に、先のまったく見えていない今後の方針について話し合った。

 突然、ドンッ!と、空気が揺れる。

「え? なに? 地震?」

 琴子の問いには誰も答えずに、和人も、貴史も、音の聞こえた方向、校門を見て、窓を開けて飛び出した。

「ちょ、ま……」

 琴子の言葉など、もう彼等には届かない。

 仕方なく玄関に向かい、外履きに履き替えて校門へと走った。


 泣き叫ぶ声、悲鳴。

 一台の車が、校門の壁に突っ込んでいた。

 車からは、黒い煙が――――いや、煙では無い。

 あの禍々しい黒い霧だ。

 人ごみを掻き分け、その場に座り込み泣き叫んでいる櫻子が目に入る。

 環奈の名を呼んでいるようだ。

 もう一度車に目をやると、壁と車の隙間、黒い霧の中から、白い手が上に伸びた。

 キンキンと頭に響く悲鳴が遠ざかり、景色がモノクロに変わる。

 その音だけが、はっきりと聞こえた。

 ガリ…………ガリ……ガリ……

 コンクリートを引っ掻く、爪の音。

 その、綺麗に手入れされた長い爪が、まるで付け爪のように簡単に剥がれ落ちていく。

 付け根でぶらん、とぶら下がり、爪のあった部分のふちから黒が滲み出る。

 眩暈を覚え、倒れそうになった琴子を和人が抱き留める。

 車のドアが開き、一人の男がフラフラと降りてきた。

 男の手には、何か長い棒が握られていた。

 何かをブツブツと呟いている。

「お前はあの女にそっくりだお前も俺を捨てるつもりかそうはさせないコロシてヤルこロシテやルオマえもあノおンなもミんナコロシテヤる」

 男が棒を振り上げ、そして、振り下ろした。

 途端に景色が色を取り戻し、赤く染まる。耳には悲鳴しか聞こえなくなる。

 それが自分の悲鳴だという事に、しばらく気付かなかった。

 琴子の横からひとりの男子生徒が飛び出し、男に掴みかかった。貴史だ。

 男は貴史を振り払い、また車の前方の黒い霧に向かって長い棒――――ゴルフクラブを振り上げる。

「琴子さん、ちょっとごめん」

 和人が琴子をその場に座らせ、貴史の加勢に向かった。

 貴史が男を羽交い絞めにしようとして、肘鉄を食らう。

 男は何か叫びながら、今度は貴史に向かってゴルフクラブを振り上げた。

 横から回り込んだ和人が男の腕を掴むと、男はまた肘鉄で和人を吹き飛ばす。尋常じゃない力のようだ。

 その隙に男からゴルフクラブを取り上げようとした貴史が頭突きを食らう。

 何度も何度も、二人は男に掴みかかっては、殴られ、蹴られ、吹き飛ばされた。

 だが、すぐに他の男子生徒が二人を加勢した。

 大勢の男子生徒達に地面に引き倒され、上から押さえつけられながらも、男は暴れて、獣のように唸っていた。


 先に数台のパトカーが到着し、男は警察官に連れていかれた。

 車が撤去され、すっかり黒い霧が払われた環奈に、どこからか持ってきた毛布が掛けられる。

 救急車が到着し、環奈を運び込む。

 何台かの救急車が次々に到着し、気を失って倒れた生徒も運び込んだ。

 貴史と和人も怪我を負っていたため、救急車に乗るように言われたが、断ったようだ。

 警察官に、病院で治療してから話を聞かせてくれ、と、名前と住所を聞かれている。

「誰か、最初から目撃していた人はいますか?」

 警察官の問い掛けに、数名が手を挙げる。

 その間琴子はずっと、赤黒い染みの広がるアスファルトの上に、場違いに置かれた桜貝のような、綺麗にピンク色に塗られた爪を、ただ呆然と見つめていた。


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