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もしも運命の人に出会えたら  作者: 柳瀬光輝
11/40

はじまり

ブックマーク登録ありがとうございます!(感涙)

ですが、これからガンガン残酷描写多くなります。ごめんなさい。

という事で、いよいよ本編突入。

 家に帰ると、慎二がキャリーケースと大きなバッグに荷物を詰め込んでいる所だった。

「ああ、琴蔵、丁度良かったわ。タカとメガネも。アタシしばらく出張するから、後の事よろしくね」

「え? どこ行くの?」「依頼どうすんだよ」「お帰りの予定はいつですか?」

 一斉に質問が飛び交う。

「とりあえず九州。でもそこだけで収まる話じゃなさそうなのよね。帰りはいつになるかわからないわ。依頼は全部断ってちょうだい。タカ、アンタ、勝手に仕事すんじゃないわよ。アタシが留守の間は何があっても霊には関わらない事。いいわね」

 慎二はそれからふと顔を上げ、立ち上がって琴子を抱きしめる。

「もしアタシに何かあったら、タカのお父さんに色々頼んであるから」

 慎二が何を言いたいのか理解できず、貴史の顔を見ると、貴史は目を逸らし、ポツリと言った。

「俺のオヤジ、弁護士だから」

 弁護士、……慎二に何かあったら。……何かって?

「何かって、ダメだよ、慎ちゃん! 犯罪だけは絶対にダメ!」

 肩を掴まれてガクガクと揺さぶられる。

「お~ば~か~! アンタって子は、本当におバカ! 遺産の話よ。あぁ、ダメだわ。こんなおバカひとり残して死ぬわけにいかないわね。絶対に生きて帰るわ。いい子でお留守番してなさい」

 死の覚悟をしなければいけない程の、それだけ大変な仕事なのだろうか。

 これは自分の我儘だとわかっていながら言ってみる。

「行かないで」と。

 この世にたった一人で残されてしまうかのような気分になり、涙が溢れてきた。

 慎二は琴子を抱きしめて、額に軽くキスをする。

「大丈夫。約束するわよ。絶対無事に帰ってくるから。信じて待ってて」

 帰ってくる、と。そう、疑うこともなく信じて送り出した家族が、帰ってこなかった。

 声を出して泣き叫びながら、両手を合わせて握り、琴子を抱きしめている腕の内部に潜り込ませ、そのまま勢いよく上にあげて、腕を左右に広げ、慎二の腕を振り払う。

 慎二が驚いて後ろに後ずさったタイミングで、身長差をカバーするために飛び上がり、両腕でがっちりと首を固める。

 ずり落ちないように足でウエスト部分を抱え込む。

 必殺、だいちゅきホールド。

 慎二は片足を後ろに出し、バランスをとってなんとか倒れこむのを防いだ。

 だが、そんな危険なところになんて行かせない。

 行くのであれば、この体勢のまま、一緒について行ってやる!

 そう思っていたのに、慎二が琴子の額に手を当てて、視界がその大きな掌で覆われた途端に、眠気が襲ってくる。

 ずるい、こんなの。

 首トン修行も必要無いではないか。

 視界が狭まり、闇に包まれる。

 目を開いた時にはもう、慎二はいなかった。


 慎二が旅に出てから数日経ったが、連絡は一度も無い。

 心配になり、何度かこちらから電話してみたが、「お掛けになった電話番号は、電波の届かない所に……」と返って来るだけで、留守番電話にすらならない。

 貴史に相談してみたが、どうやら珍しい事では無いようだ。

「慎二さんに何かあったら、幽霊になって真っ先にお前の所に来るだろう。心配すんな」と言われる。

 それもそうだ。便りの無いのは良い便り、というわけだ。

 金銭面に関しては、屈辱的なことに、和人に財布のひもを握られている。

 必要な分だけ渡すように、と、慎二が和人にキャッシュカードを託したのだ。

 節約のために、と、和人が放課後毎日料理を作りに来てくれるのはありがたかったし、何故か貴史も付いて来て、晩御飯は3人で食べるので、寂しくも無かった。

 だが、櫻子達に遊びに誘われた時など、頭を下げて和人からお小遣いを貰っているうちに、「三神は佐々木のメス奴隷だ」「MとSは紙一重だからな」等と、ありがたくない噂も蔓延してしまった。

 慎二と連絡がつかないまま数週間が過ぎ、ゴールデンウィーク明けに、それは起きた。


「おはよ~」

 元気に挨拶しながら教室に入り、思わず鞄を取り落とす。

 禍々しい黒い霧を纏った生徒が教室の中にいた。

 それも、一人ではない。全体を見渡し、確認する。

 4人。4人もの生徒が、顔の判別がつかないくらいに黒い霧に包まれている。

 しかも、そのうちの2人がこちらに向かって歩いてきた。

「あ~、もう、琴子ちゃん何やってんのにゃ、ほら、鞄」

「どうしたんですの? 顔が真っ青でしてよ? 保健室につれて行って差し上げますわ」

 差し出された2人の手を振り払う。

「どうしたにゃ? 大丈夫かにゃ?」

 数歩、後ろに下がり、誰かにぶつかった。

「ごめんなさい」と言いながら振り向くと、貴史が立ち尽くしていた。

 その腕にしがみつき、背中に隠れる。

 貴史は口元を覆い、2人から顔を背けた。

「……イヤな臭いがするな」

 そのまま貴史の腕を引き、廊下を走る。

「琴子ちゃん、鞄!」

「なんですの? 一体」

 後ろからそんな声が聞こえたが、無視して階段を駆け下りる。

 オカ研の部屋まで行ったが、鍵がかかっていた。

「ねえ、タカ、鍵開けて!」

「持ってるわけねえだろ。部活の時は職員室に借りに行くんだよ」

「じゃあどこかあの人達が来ないところに連れてって! あ、結界、結界張ってよ!」

 少し、パニックを起こしていた。

「あの人達って、躑躅森と八城小路の事か? 結界って、お前、何が視えたんだよ」

「……櫻子と、環奈だった? ねえ、本当にそうだった?」


 ドアにもたれかかり、足に力が入らずそのまま座り込んだ。

 アレは、何か恐ろしいモノだ。

 体の震えが止まらず、両腕で自分の肩を抱く。

「こら、お前ら! チャイム鳴ったぞ! 早く教室に行け!」

 教師の怒鳴り声が聞こえたが、立ち上がることができない。

「まあまあ、先生、彼女、具合が悪いようですし、ここは私に任せて」

 呑気な、柔らかい声にそちらを向くと、丸顔のおじいちゃん、理事長がこちらに歩いてくるところだった。

「姪っ子ちゃん、大丈夫ですか? ほら、キミも何ぼんやりしてるの! 姪っ子ちゃんを保健室に運ぶよ」

「ダメ! 保健室じゃダメ! あの人達の来ない所じゃないと!!」

 階段の方向を気にしながら怯えている琴子を見て、理事長と貴史は顔を見合わせる。

「そうですねぇ、じゃあ、ボクの部屋にいらっしゃい。キミ、弟子君、姪っ子ちゃん運んで」

 貴史が背中を向けてしゃがんだので、その肩に手をかけようとすると、理事長がダメ出しをする。

「お姫様抱っこしなさい。それ以外は認めません。男の美学です」

 しぶしぶと貴史は琴子を抱え上げた。

「ごめん、重いよね」

 貴史は首を横に振る。

「胸が無いから全然軽い」

 しばらく歩いたところで、心配そうに声を掛けてくる。

「おい、なんで反撃が無いんだ。そんなに具合が悪いのか?」

 黙って首を横に振る事しかできない。

 理事長室に着き、革張りのソファの上にそっとおろされた。


「ではボクは奥の部屋にいますので、姪っ子ちゃん、彼に不埒な振舞いをされたら声をあげなさい」

 理事長はお茶を出してくれてから、不器用なウィンクをして奥の部屋へと去って行った。

 温かいお茶を飲むと、少し落ち着いた。

「で?」

 貴史の問い掛けに、逆に質問を返す。

「タカは、視えなかったの? アレが」

 貴史は静かに首を横に振る。

「……そう、じゃあ霊じゃないんだ。なんだろう、アレ。怖いモノが、良くないモノが、黒い霧みたいに纏わりついて、顔も見えなかった」

 貴史はしばらく考え込み、独り言のように語り始めた。

「あの臭いは、昔一度嗅いだ事がある。もし同じ物だとすると……」

 琴子には臭いは感じられなかったが、黙って貴史の話に耳を傾ける。


 貴史は幼い頃、霊媒体質、ようするに取り憑かれやすい子供だった。

 原因不明の発熱と発疹で入院していた時に、たまたま知人の見舞いに来ていた慎二と病院内で出会った。

 両親の目の前で、病室で慎二に浄霊してもらうと、発疹(それは全身に蚯蚓腫れで浮かび上がり、はっきりと読み取れる文字の形を取っていた。「助けて」「たすけて」「タスケテ」と。)は消え、熱も下がった。

 翌日には退院できそうなほどに。

 最初は懐疑的だった貴史の両親も、それを目の当たりにし、慎二に心酔し、それからは貴史に異常が起きると、まずは病院よりも慎二の所に連れて行くようになった。

 大抵はそれで何とかなったのだが、一度、慎二が今回のようにどこかに出かけていて連絡が取れない事があった。

 貴史は衰弱し、病院に運び込んだ時にはもう意識が無かった。

 集中治療室で様々な器具に繋がれ、3日が経過し、両親共に貴史の死を覚悟した頃になり、ようやく慎二と連絡がついた。

 慎二は医者や看護師の制止を無視し、ズカズカと集中治療室に入り込み、その後、貴史の父親に向けてこう言ったそうだ。

「新しい家を買う金はあるか」と。

 貴史の父親は、それで息子の命が助かるなら、と、法外な金額を要求される覚悟をしたが、そういう事では無かった。


 慎二が貴史の枕元に小さな鏡を設置し、祈祷を行っていたその頃、貴史の家では異変が起きていた。

 通報したのは向かいの家の住人。

 獣のような叫び声と、ゴスッ、ゴスッ、という物音に、恐る恐る塀から覗いてみると、女が奇声を発しながら、貴史の家の壁に頭を打ち付けていた。

 警官が駆け付けた頃には既に女の息は無く、壁には女の脳漿が飛び散っていたという。

 その女の正体は、隣の家の住人。

 十数年前に一人息子を交通事故で亡くし、それが原因で離婚、独り暮らしをしていた女性。

 隣家とのトラブルは特に無く、貴史の事もかわいがってくれていた、隣人だった。

 貴史は様々な検査を終え、数日で退院した。

 退院した翌日、慎二が家を訪ねて来て、貴史は部屋で大人しくしているようにと言われたが、2階の窓からこっそりと大人達の動向を覗いていた。

 慎二が庭を掘り返し、壺のようなものを取り出した。

 その蓋を開けた途端、入院する前から感じていたイヤな臭いが密度を増して漂い、貴史は吐いてしまった。


「まあ、慎二さんが真言を唱えたらすぐに臭いは消えたんだけどな。その後、やっぱりその家には住んでられなくて、引っ越したんだ。気持ち悪いし、色々……近所の噂とかもあってな」

「その時の臭いと同じだってこと?」

 琴子の問いに、貴史は顔を顰めて頷く。

「壺の、……中身は何だったの?」

 貴史の話は強烈だったが、話を聞いているうちに落ち着きを取り戻していた。

 梅干を想像してよだれが溜まるくらいに。

「遠目だったからはっきりとはわからないけど、動物。多分、犬の、首」

 溜まったよだれをティッシュに吐き出した。

「あの臭いは、確かに獣臭かったんだけど、そういう物理的な臭いじゃなくて、……『呪い』の臭いなんじゃないかと思う。躑躅森、何かヤバい事でもやったんじゃねえのかな?」



見直ししててあまりの誤字脱字の多さにワロタ。

酔っぱらいはダメだねぇ~。

だがしかし!今日も飲むぞ!!

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