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第三話

投稿時間を色々としてますが、一体何時が良いのか。


 隠し通路を出た先はコザックが言ったように森の中だった。

 小さな洞窟に偽装した出口から少女ネイが遅れて出てくると、クロウは念の為に足跡などの痕跡を消す。

「まずは森を抜けた先にある街に向かって行きます。そこにならメトシュラに直接行ける転送ゲートが設置してあるので。ですが、追手に見つからないようにする為に街道を避けて通るため、森の中をこのまま通っていきます。数日がかりの横断ですの覚悟しておいてください」

「わかった。それと、敬語はいらない。私は国を追い出された身だし、貴族じゃないから遠慮はいらない」

「いや、依頼主なんで一応……」

「無理しなくていい。それに、私も冒険者になるから。だとするとあなたは先輩になる」

「先輩って言われるほど経験も気力も無いんですが…………分かりました。いや、分かった。これでいいか?」

 小さく笑みを浮かべ、ネイは頷いた。

 外套の下の格好はともかく、年若い少女の言動を見てクロウは小さく息を吐いた。孤児院も兼ねていた街のギルドでは子供も多くいたが、クロウは特に関わろうとしなかった為にいまいちどう対応するべきか分からない。要は苦手なのだ。

「……行くぞ。日の出てる内に距離を稼いでおきたいからな。でも疲れたりしたらすぐに言えよ? 怪我でもされたらもっと悪いからな」

 とりあえず個人的な問題は無視して仕事をこなす事にする。どのみち、メトシュラに着いてしまうまでの付き合いなのだから。

 道案内のクロウが先行し、モンスター達の縄張りを避けながら進む。冒険者として街のすぐ近くにあるこの森の中はよく熟知している。庭のようにとまでは森が広すぎて言えないが、安全に進むルートぐらいは知っていた。

 道なき道なので、クロウはネイの体力が心配だったが、何度か後ろを振り返って様子を見てみれば歩幅に差があるにも関わらず少女は軽々と後を付いて来ている。

 歩くスピードを合わす必要もなく、思いの外苦労せずに済みそうだった。

「ねえ、お喋りしてもいい?」

「は? いや、別に構わないけど。年頃の娘さんが楽しめそうなネタはないぞ」

 しばらく歩いている内にネイが口を開く。黙々と歩いているだけでは退屈になるのだろう。

「いいの。私、これから冒険者になるんだからその事について聞きたいの。それに、私だって女の子の話題なんて分からない」

「ふうん。それで何が聞きたいんだ?」

「冒険者について」

「ロクデナシか狂人か馬鹿のどれかだな。ちなみに俺はどれかと言うとロクデナシ」

「ロクデナシなのに依頼はちゃんとするの?」

「依頼も最低限こなせなかったら冒険者じゃないだろ。それと、無事にメトシュラに着いたら依頼をこなしたと言うべきだな」

「それって当たり前の事じゃないの?」

 何もない所でクロウが足を滑らせ、隣にあった木の幹に頭をぶつけた。

「どうしたの?」

「いや、なんでも。ただ、改めてロクデナシだと実感しただけだ。くそう、酒が欲しい」

 酒があったとしてもダメな大人にアル中が追加されるだけなのだが、その事実に目を逸らしつつ社会的底辺の劣等感やらなんやらからのダメージを負ったクロウは歩みを再開させる。

「んー、じゃあ、エノクの糸ってどんな所? とりあえずそこに行って冒険者やって、宝を見つけて来いとしか言われてないの」

 糸送りの厄介払いにしてもいい加減な話であった。いや、むしろそうであるべきなのかも知れない。

 沙汰を下したユリアス帝国も糸送りにした人間がエノクの糸から宝を持ち帰って来るとは本気で思っていない。

 行方不明になって当たり前。本当にダンジョンから宝を持ってきたら御の字という感覚なのだろう。

「あー……エノクの糸って言うのは世界の中心にある超大型ダンジョンなのは知ってるな? 世界が誕生するよりも前に存在するとか、神性存在の王が作ったとかなんやかんやと伝説は腐るほどある。だが、冒険者にとって、そして国家にとって重要なのはエノクの糸には宝の山が眠ってるって事だ」

「国が欲しがるほどのお金があるんだ。お金の事とかよく分からないけど、すごいね」

「国家予算クラスの金銀財宝も出る事もあるらしいが、単純な金だけじゃない。肝心なのは国一つを滅ぼせる力が手に入るって事だな」

「…………んん?」

 ネイが首を傾げた。知らない者が聞けば当然の反応だった。

「魔法か超能力か科学技術か、或いは意味不明な魔具か。ともかく個人単位で持ち運べるサイズで国を滅ぼせる武器が手に入るんだ」

「娯楽小説の話だね。うん、私も好き」

「違ぇよ! リアルだよ事実だよ本当の事だっての。六大国の共通する点行ってみろよ」

「六大国ってユリアス帝国もその一つだよね。えっと、大きい」

「違う。竜国の国土面積は小さい。代わりに魔境だけど」

「偉い」

「違う。北国は確かに精強な兵で有名だが国としての力は弱い。極寒の地だからな」

「強い」

「違う。聖国は派閥が多くて足並みが揃いにくいという点で弱い。代わりに王が激強だけど」

「エノクの糸に行くゲートがある」

「違――くない、ようやくか。正解が出ないんじゃないかと思ったぞ。それで解る通り、大国と呼ばれるにはエノクの糸から手に入れた技術なり魔具なり、とにかく力が必要なんだよ」

 エノクの糸に通じる出入り口は世界に計七箇所。エノクの糸の真下はあるエノク冒険者協会本部がある冒険都市メトシュラ。

 残る六つは六大国と呼ばれる六つの大国がゲートのある土地を保有している。

 六大国の内約は時代の流れと共に内部分裂や革命などによって変わっているが、世界で大国のと呼ばれるのはやはりゲートのある六つの国だ。

 そしてユリアス帝国も六大国の一つである。

「あれ? だとしたら、わざわざメトシュラまで行かなくても…………」

「外に放り出す為の方便だろ。政治はよく分からんが、宝庫と同時に厄ネタの塊がエノクの糸なんだ。それで冒険者についてだが、これは大きく二種類に分けられる。エノクの糸で活動する奴か、それ以外かだ」

「都会派と田舎者?」

「案外キツイな」

 自覚がないのか、ネイは首を傾げる。純真さは何よりも残酷だとクロウは理解した。

「エノク派と地方の線引きはコレだ」

 クロウは懐から一枚の硬質なカードを取り出して、ネイに見えるよう肩の上にまで掲げる。

「ギルドカード?」

 それは正式な冒険者を証明するギルドカードだった。簡易な身分証明書代わりにもなるそれは簡単に折れ曲がったり錆びたりしないよう特殊な技法で作られている。

「ここ、空欄があるだろ」

 立ち止まり、振り返って自分のカードをネイに近づけ指差す。

「…………Eランク」

「そこは無視しろ」

 ギルドカードの表面には顔写真と名前、冒険者ランク、生年月日が刻まれている。だが、生年月日の下には明らかに不自然な空欄があった。

「エノクの冒険者はここにジョブ名が追加される。ジョブシステムってのがあってな。それがあると技能や各能力に補正が加わるんだ」

「補正?」

「それがあれば身体能力だけで地方の冒険者なんか比べ物にならない。昔、メトシュラから来た冒険者の戦いを見たことがあるが、無双状態だった。それでもエノクの冒険者としては下の方だって言うんだから化物だ」

「冒険者って強いんだ」

「六大国はジョブシステムを兵士用にアレンジしてる。帝国でも正規兵とか見た事ないか?」

「ない。部屋からは訓練以外に出る事は滅多に無かったから」

「………………」

 クロウは地雷を踏んでしまったかと思ったが、ネイ本人に暗い影は落ちていない。

 どんな生活を送ってきたのか知らないが、彼女の純真さは良くも悪くも環境によるものなのかも知れないとクロウは思った。思っただけでわざわざ聞く気も無かったが。

「とにかく兵隊さんは凄いって事だ。特に帝国は…………ラドゥエリ、がいるからな」

「あっ、それなら知ってる。見た事ないけど」

「帝国の人間で知らなかったらびっくりだよ。噂だと、正規兵とは別にあいつら専用のジョブもあるらしい。ただでさえチート臭いのに、更にチートとか何の冗談だよ」

 ユリアス帝国は現六大国の中では新参だ。前帝王が自らエノクの糸に昇り、そこから得たアイテムで前六大国の一つを打倒したことで有名だ。

 彼が起こした偉業の一つとして特に有名なのが、持ち帰った古代科学技術と魔術理論によって作られた合成人間ラドゥエリだ。

 彼ら彼女らはあらゆる人族やモンスター、果ては妖精などを素体に作られており、制空権確保の為に持つ翼を除けば人と変わらぬ姿をしている。

 だが、その戦闘能力は非常に高く、それでいて量産が出来る。

 ユリアス帝国はラドゥエリを主力とした武力国家なのだ。

「追手にあいつらが一人でもいたらこの依頼は存在しなかっただろうな。帝国領を出る前に速攻で捕まってる――っと、冒険者の話から脱線してしまったな」

「ううん、色々と話が聞けて楽しい。私、あんまり物を知らないから、冒険者以外の事も教えてほしい」

 黄金の瞳がクロウを見上げる。

 独特な瞳には純真無垢で単純な好奇心が見えた。これで服がまともで糸送りという事実さえなければ不思議な雰囲気を持つお嬢様なのだが。

 いや、だからこそ彼女を取り囲む環境やら出自の異様さが際立ってくるのかもしれない。

「そうか。まあ、俺で解る事なら教えていく。どうせ、暫くはずっと歩きだしな。むしろネタが尽きないか心配だ」

 厄介さとネイからの純粋さから目を逸らすように、クロウはギルドカードを仕舞い、前に向き直って歩き始めた。

「うん。ありがとう!」

 はにかむような純真な笑み。

 追手などよりも、自分が少女の純真さに耐えれるか心配になったクロウであった。


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