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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

思いつき短編

勇者の守り人

作者: まあ

 ……状況が理解できない。


 目の前には王道RPGとかで見るひげを蓄えた王様おっさん

 それに仕える多くの騎士達(マッチョ)と怪しげな魔導士達じじい


 そして、俺と同様にこの置かれている状況が理解できないのかぐずっている姪っ子(赤ん坊)とおしめの替えと哺乳瓶。


 もう一度、言う。


 ……状況が理解できない。


 処理できない状況に俺は自分と姪っ子に何が起きたか思い出す。


 職場から帰って(姪っ子)のおしめを変えていた時に突然、光に飲み込まれた。

 大手小説サイトとかでは異世界に召喚されるとかはよく見ていたけど、自分に起きると考えた事はなかった。

 それもこのタイミングで……


 仮に俺が勇者と仮定して召喚されたとしたら、夢と一緒に召喚されたのはありがたいんだけど、夢は兄夫婦の忘れ形見の上に俺は中学時代に両親を事故で亡くして年の離れた兄貴に面倒を見て貰っていたから。

 一人で異世界召喚などされた時には夢が心配で何もできなくなる事は容易に想像がつくし……

 夢だけ、元の世界に取り残されて餓死とかになっていたら、兄貴と義姉さんに申し訳ない。

 

「……勇者様。よく来てくれました。我が王の願いをお聞きください」

 

 そんな事を考えていると大臣らしき、おっさんが俺を勇者と呼ぶ。


 やっぱり、勇者なのか?


 何とか言葉は理解できたけど、まずはおしめを替えている途中だったため、頭を下げた後、夢のおしめを急いで交換する。

 流石に俺達へと視線を向けていた者達も状況を理解してくれたためか、しばらく、待ってくれたようであり、おしめが替わり、少し気分を良くしたのか泣き止んだ夢を抱きかかえて話をするようにお願いすると大臣は想像していた通り、この世界の魔王を倒す勇者として俺を召喚したようだ。

 しかし、赤ん坊同伴とは予想していなかったようで王様も困り顔であるが呼び出された俺達の方が正直、困っている。


 高校卒業して、何とか就職できた会社。

 会社で働くシングルマザー達のために保育所も完備された良い会社だった。

 

 仮に勇者としての任務を終える事ができたとしたら……再就職できるのだろうか?


 できるわけないか。突然の事で有給休暇願……いや、どれくらい時間がかかるかわからないから休職願いも出せていない。

 就職して一年目で無断欠勤……完全に懲戒免職(クビ)だな。


 勇者として魔王討伐をしなければいけないのに頭をよぎるのは元の世界の事であり、大臣の話は一向に頭の中に入ってこない。


「……勇者様、私の説明を聞いてくれていますか?」

「……聞いてはいます。それでも状況が理解できません。私は元の世界では普通の人間でしたので勇者と言われましても、人違いではないでしょうか」


 俺の様子に大臣は一つ、咳をすると理解度を確認するように聞くが状況など理解できるわけはない。

 それでも、日が浅いとは言え、社会に出た者としてたどたどしいかも知れないけど敬語で話す。

 まずは自分が勇者などと言う事が信じられないため、確認するように聞くが魔術師達は召喚魔法に間違いなどないと言い切っている。


 ……どうしろって言うんだよ。


 こちらは完全に巻き込まれた側であり、夢をあやしていると騎士(マッチョ)の一人が実力を確かめてみようと言い始める。

 

 冗談じゃない。


 兄貴にあまり面倒はかけられないと高校時代は部活もやらずにバイトばかりしていた。

 自分で言うのも恥ずかしいが、はっきり言って、俺は弱い。

 あんなマッチョな騎士の攻撃など喰らってしまえば当たり所が悪ければ確実い死ぬ。


 夢を守らないといけないのに死ねるわけがない。


 しかし、俺の考えている事を無視するように王様おっさん騎士(マッチョ)の言葉を聞き入れたようで騎士達に指示を出すと夢を俺の腕から奪おうとする。

 赤ん坊を抱いていれば戦えないだろうと言う気づかいなのだろうが、その方法は乱暴であり、何とか泣き止んだはずの夢は大声を上げて泣き出してしまった。


 そして、その瞬間に信じられない事が起きたのだ。


 俺の腕から夢を取り上げようとした騎士達は壁まで吹き飛ばされてしまい、背中を思いっきり打ちつけたのか床に落ちると息ができないのか立ち上がる事ができずにいる。

 その光景は明らかに異常であり、騎士達は何が起きたかわからずに王様おっさんを守るように立つ。

 騎士を吹き飛ばすだけではなく、夢が泣き声を上げる度に床が大きく揺れる。


 ……夢がやったのか?


 目の前で起きた状況に顔が引きつって行くが、泣き止まない夢を落ち着かせるようにあやす。

 俺のその様子に夢は落ち着いたか表情をほころばせ、つられるように表情筋が緩むのがわかり、夢の機 嫌が直るのと同時に床の揺れは収まってしまう。

 それと同時に俺は夢が地震を起こした事を疑問に思う事無く理解できた。


「……勇者はその赤子か? その力があれば魔王や魔族を滅ぼす事など簡単だな」

「待てよ。何をするつもりだよ?」


 その様子を見た国王おっさんは驚きの声を上げると夢を俺の腕から取り上げろと言いたいのか騎士達に目で命令をする。

 騎士達はその命令にすぐに頷くと俺と夢に向かって剣を構え、魔術師達は杖を手に何かつぶやいている。


 国王おっさんの考えはすぐに理解できた。


 俺は用無しなんだと。


 このままだと俺は殺され、夢は勇者と言われて大切に育てられるだろうけど、この世界で魔王を殺すためだけに利用されてしまう。


 そんな事、絶対にさせない。


 何も知らない赤ん坊に誰かを殺させようとするこいつらだって、魔王と変わらないじゃないか。

 

 俺は夢を守るように手に力を込めるが周囲を囲んでいるのは屈強な騎士達(マッチョ)である。


 逃げきれないと頭では理解できるが諦めるわけにはいかない。

 自分を奮い立たせるように大声を上げる。

 

 どこかに夢と同じ能力がないかと期待していたのかも知れないが、俺には騎士達を吹き飛ばす力はなく、騎士達は一直線に向かって駆け出してくる。


「……まったく、大きな魔力を感じたと思ったら、多勢に無勢ですね」


 騎士の剣が俺の身体を斬り伏せようとした時、頭の中に少女の声が響き、剣は何かに当たったようで跳ね返ってしまう。

 意味がわからずに呆然とする俺と更なる攻撃を加えようとしている騎士の間の空間が小さく割れた。

 そこから現れたのは俺と同年代くらいに見える少女であり、少女は俺達を見て柔らかい笑みを浮かべる。


「幼き勇者と守り人よ。申し訳ありません。召喚魔法に邪魔が入ってしまい。迎えが遅くなってしまいました」

「だ、誰だ?」

「そうですね。私はこの者達が魔王と言う存在です」


 少女は俺と夢を見て、深々と頭を下げると自分が召喚魔法を使った者だと笑う。


 魔王? この娘が? 嘘だろ? この娘を夢に殺させようとしているのか?


 いきなりのラスボスの登場に夢を守る手に力がこもった。

 ラスボスなら勇者である夢を無事に返すわけがない。

 殺されると思いながらもそれでも夢だけは守りたいと腕の中の彼女を抱きしめる。


「心配ありません。人間の王よ。自分達で世界を滅ぼそうとしているわりにはずいぶんと好き勝手言ってくれたようですね。幼き勇者と守り人はこの地を守護する精霊との契約の元に私が預かります。勇者に滅ぼされないように頑張ってくださいね」


 少女は俺の不安を理解していると言いたいのか優しげな声で言った後、国王おっさんに向かって敵意の視線を向ける。

 国王はその言葉に忌々しそうな表情をすると騎士と魔術師達に攻撃の指示を出す。


 それは少女だけではなく、俺と夢も殺してしまおうと言う殺意が込められているのがわかる。

 

 騎士達は剣を振り下ろすが、その剣は俺達を切り伏せる事は無く、すべて空気の盾のようなものに跳ね返されてしまう。


「それでは行きましょう。幼き勇者と守り人殿」

「あんたは魔王じゃないのか?」

「そうですけど、お二人に害を与える気などありませんよ。信じて貰えると助かります」


 襲い掛かる攻撃はすべて跳ね返されており、それを行っているであろう少女は振り返ると優しげな笑みを浮かべる。

 状況がわからない俺に少女は手を伸ばすが素直に手を握る事ができるわけもない。

 俺の考えを酌んでくれたのか少女はくすりと笑うと俺の腕の中にいる夢の顔を覗き込み小さく笑みを浮かべた。

 その笑みにつられるように夢は笑顔になった。


 その様子を見て、俺は覚悟を決める。


「連れてってくれ。俺と夢を君達の国に」

「はい。それでは行きましょう。私達、魔族が治める国へ」


 自分達に剣を向けた人間を信じるよりは夢が懐いたこの少女を信じようと決めて、彼女の手を取る。

 少女は笑顔で頷くと足元の床には大きな穴ができる。


 その穴の中は漆黒に染まっており、そこが見えないが手から伝わる少女の温もりにどこか安心できる自分がいた。


「安心してください。危険は何もありませんから」

「お、おう」


 ……いや、この時にはすでにこの少女の笑顔に俺はやられていたのかも知れない。


 少女は心配ないと笑い、同年代の少女にかっこ悪いところも見せられないと言う意地を張ってしまったのか笑顔を作る。

 少女は俺の様子を見て、準備ができたと思ったようで俺の手引き、大きな穴に飛び込む。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 意外性のストーリーと小気味いいテンポの展開が良いと感じました。 [一言] これは、連載の序章ということですね? 赤ん坊が纏う乳白の衣に吸い込まれし、悪臭の焦土と黄金に煌く滝が[残酷描写]に…
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