episode-5
とある町にある公立中学校。
その特別棟にある多目的室。
放課後のそこには、2人の男子生徒がいた。
1人は窓を開けて身を乗り出して外のグラウンドで部活動に勤しんでいる生徒たちを眺めており、視力が低下しているのか、目を細めている。もう一人は教室の中央付近の席に腰掛け、読書中。
2人ともしばらく無言で、部屋は、風がカーテンを揺らす音と遠くから聞こえるソフトボール部の練習のかけ声に満たされていた。
ふと、窓から身を乗り出している少年が、読書中の友人に声をかけた。
「なぁ、佐波」
「んー?」
呼びかけられた友人の方は、気のない返事を返す。
「陽子って、知ってるか?」
「ヨウコ? 狐の?」
本から目線を外した友人が、問うてくる。
この友人はそういったものが存在する物語を好み、流行のマンガやアニメにも詳しかった。
「リアルな人間。」
それを聞き、彼はつまらなそうに本へと視線を戻した。
「一つ下なんだが」
「このがっこ?」
「おそらく。」
「めいびー?」
「ああ。イマイチ判らん。」
「どんな子?」
「どんなって……知らんから訊いたんだけど?」
「そっか。」
それもそうだね。
そう言って友人は栞ひもを移動させると本をパタリと閉じた。
そして、興味深いものを見るような視線を、窓際の少年へ向ける。
「ん~、と──1年の、髪の短い子のことかな?」
「確かに髪は短かったと思うが」
その条件で絞っても、あまり限定されない。
「左目を長い前髪(?)で隠してて、右腕の~……えぇっと肩あたりからない、左耳に傷のある子じゃないかな?」
耳は普段髪で隠れてて見えないけど。
と付け加える。
「たぶんそいつだ。」
「右腕がないって特徴言ってくれればすぐにピンときたのに。」
あの仕事だとあまり珍しくないからな……
「忘れてた。」
少年は呟いた。
そんな目立つ特徴を何で忘れんのよ……と呆れた目を友人に向けられるが、そこは聞かなかったフリ。
「何組かは?」
「3組。でも不登校もどきだから、滅多に登校しないらしいよ。」
「もどき?」
「テストの時はいつも出てきて、結構いい点取ってるんだってさ。
解答用紙は後日各担当の先生のとこに直接受け取りにいくらしいよ。」
だから会いたいんならテスト中がおすすめ。と彼は付け加えた。
「あ~……、でも」
友人は、後ろの机に頬杖をついた。
「どうかしたか?」
「最近、遅刻早退してるって。」
「どういう意味だ?」
「そのまま。
一応登校してるけど、朝はいないし帰りもいないってこと。
2時間目にきて4時間目に帰るとか5時間目にきて7時間目に帰るとか。
昼ご飯の時間は絶対にまたがない。」
この学校、授業時間が変則的である。
月曜は50分×6時間授業、火曜から木曜は50分×5時間授業、金曜は45分×6時間授業となっている。
「そんな感じでほとんど毎日来てはいるらしい。」
「ちょうどいい。明日にでも行ってみるよ。
──サンキュな。」
「このくらいいいけど、何で急に?
恋でもないだろうし。」
「恋ってことにしといてくれたら助かったんだが……そうもいかないか。」
「どれだけのつきあいだと思ってるの?」
「4年目?」
「そこで正確な数字を言うとこが、モテない理由でもあり、信用に足る理由でもあるんだけど、今はあんまりそういった答えは求めてないんだよね。」
「じゃ、どういった答えをご所望で?」
「長いつきあいだろ。とか、つきあい浅いだろ。とか?」
「確かにつきあい浅いな。
お前の情報網が把握し切れてないくらいには。」
「結構深いって言うんじゃないの?
情報網の広さは知ってるんだから」
「情報源も謎だし、不気味な正確さだし、これでつきあい深いって言ったらその辺誰も知らないんじゃないのか?」
「知られたらまずいかも。
ま、問答無用で消したりはしないけど。」
「消すって……」
「よくあるじゃない。マンガや小説やアニメやら二次元では、使い古された言い回しだよ?」
「なんか──お前が使うと変に信憑性が有んだよ。」
「君は俺をなんだと思ってるんだ?」