episode-3 USBメモリ 白
友人に借りた本を家に帰って開いてみると、中にはなぜかページをくり貫いたところにUSBメモリが入っていた。
それも1つではなく、8つ。
何かの手違いだろうと思い、翌日に返そうと決めた。
中身を見るのも悪いので、そのまま放っておく。
翌日、友人は登校しなかった。
担任に聞いても事情はわからず、彼に限ってこの日にサボっているとも考え辛い。
家を訪ねても、いなかった。
ポストに入れることも考えたが、こうして本をくり貫き、中に入れているところを見ると、よほど隠したかったに違いない。
それが紛失でもしたら大変だ。
それから1ヶ月、彼は学校に登校せず、家を訪ねても、留守のままだった。
何かの手がかりになればと思い、試しに本の中に入っていたUSBメモリのうちの1つ、白いやつをノートパソコンに差し込んでみる。
念のため有線ケーブルも抜き、無線LANも切った状態で。
中に入っていたファイルを開いてみると、画面に映し出されたのは、顔写真と一行の文字。
『Q1,この少女のことを知っていますか』
黒い画面に蛍光イエローの文字。
数分間その画面のまま、何かのインタビューらしき音声が続いた。
『(男)この少女を知っていますか?
(若い女)知ってるよ、もちろん。しーちゃんでしょ?
(男)どんな子ですか?
(若い女)名前のとおり、陽子みたいな子だったよ。
私たちはみんな電子みたいにちっちゃな存在で、陽子みたいなしーちゃんにぎゅって引き寄せられてた。
でも陽子一つじゃあんま引き寄せられないかもだから、原子核に近いかも。
HじゃなくてRnくらい陽子が多いんじゃないかな? そんでもって安定してて、いつでも引っ張ってる。希ガスかな?
しーちゃん自身は中性子だよって主張してたけど、絶対電荷を持ってるよ、アレ
(男)陽子と電子……化学、ですか?
(若い女)あ、ごめんなさい。つい、しーちゃんと話すときみたいになっちゃって。
分かりやすく言うと、共有結合じゃなくて配位結合の方が多かったかなって。
(男)分かりやすくありませんし、それは先ほどまでのものの解説ではなく新たなことですね?
(別の女)つまり、みんなを引き付けてたってことよ。
手を繋ぐんじゃなくて、嫌がる子も一方的に引っ張ってくことの方が多かったってこと。
結果はどっちも引かれてくことに変わりないからわからないかもだけどね。
(若い女)でん子説明上手ね
(別の女)それほどでも──
(若い女)あるかもって言うんでしょ?
(別の女)わかっちゃう?』
そこで、1つ目のフォルダは終了した。
2つ目のフォルダもまた、一枚の顔写真と一行の文字で始まる。
『Q1この少女を知っていますか?』
『(男)誰?
(女)そんなこと言っちゃかわいそうだって。
(男)知ってんの?
(女)知ってるもなにも、中学の同級生だよ。
(男)こんなヤツいたっけ?
(女)いたじゃない。
あの、腕のない子だよ
(男)……あー……あの障害児。
(女)その言い方は差別だよ』
画面の文字が切り替わる。
『Q2どのような人物でしたか?』
『(女)どんなって……ねぇ
(男)ああ。変なヤツだったよな。
(女)年中長袖で、水泳の授業はいっつも見学だったし。
(男)顔がほとんど隠れてなかったか?
(女)前髪で左半分隠してて、首には包帯が巻いてあったかも。
(男)あれな。
自殺に失敗した時の首吊りの痕を隠してるってきいたぜ
(女)話しかけても無視だし。
(男)耳の傷を隠してるんだってきいたが
(女)前髪?
(男)そ。
あと、顔の火傷を隠してるとか、目の色が違うんだとか、いっそのこと義眼だったり目がないんじゃないかとも噂になってた。
(女)あんた……そんな噂、どっから集めてくんの?
(男)なんかそいつの噂ばっか集める野郎がいてさ、みんなに言い触らしてたぜ。
いつの間にかいなくなってたが。
(女)他クラスの男子?
(男)学年も1つ上。
(女)もしかして、……佐波先輩?
(男)そだけど、知ってたの?
(女)あの先輩、殺されたって噂、流れてたよ。
(男)マジか?
(女)うん。あの子に関わりすぎたせいだって。』