episode-11 いつか、あの子のもとに
「これ──頼める?」
クリスマスカラーの少女は、その赤いポンチョの下から左腕をのばした。
「ん?」
その手には、ハードカバーの分厚い本が。
「──何? ソレ」
煙草のように円筒状の菓子を指に挟んでいる男は、少しその本に目をやった。
「日記。──私の」
「そんなもんつけてたのか?」
少女は首を振った。
「たまにはね」
男は菓子を口にくわえ、少女が差し出した本を手に取る。
「中は見ない方がいい?」
菓子をくわえたまま、器用に話した。
「見てもいいよ。──あなたなら」
「そ。見ないけど」
男は本の外装をみやる。
古そうな表紙に、金糸の刺繍風のプリント。それに著者名らしき文字。中程には革のベルトが巻かれ、鍵でとめてある。
「──この“D.H”って、もしかしてアンタの名前?」
「そうもとれるし、そうじゃないともとれる」
「うん。アンタのイニシャルと好きな言葉な。
──両方か。」
男はガリガリと菓子を噛み、嚥下した。
少女は微笑む。
「やっぱり、あなたにはバレちゃうか。」
「たり前だ。
──で、コレ、どうすりゃいいの?」
「来るべき時に、来るべき人に渡して」
男は座っている傍らの机に肘をつき、頭を押さえた。
「……望む者に渡せばいいんだな?」
少女は頷く。
「あの子はきっと、ここへくるはずだから」
「例のごとく、僕へのヒントは無しか」
「このくらいの情報で、あなたには十分でしょ?」
男は口角をつり上げる。
「あぁ、たぎるぜ」
そしてすぐに、自作の端末へ向かった。
「ソレは承った。
──個人的な件ってことで、礼はなしな」
「ありがと」
「代わりに、仕事を一つ受けてくれ」
男は端末を操作しながら、視界の端の少女に願いでる。
「いいけど──何?」
「報酬はちゃんと受け取ってな。全部アンタの分で」
「紹介料とか無し?」
「あぁ。」
「いいの?」
「いいんだ。
──今送ったから。帰ったら内容確認しといて。
もし拒否りたかったらその旨連絡よろしく」
「……わかった。
じゃぁ、また、何か縁があれば」
「あぁ。もう会わないことを祈ってる。」
少女はその場を後にした。
男がその背を見送っているとは気づかずに。